いまや世界にも通じる日本語「SAKE」。米づくりから手がけられている日本酒があることをご存じだろうか。原料の米づくりから酒造りまでを一貫して手がけ、農業と醸造、そして消費者をつなげることを目的に22の酒蔵で構成された「農! と言える酒蔵の会」が『Bar 農! Farming & Brewing 2022』を開催する。サブタイトルは、「農と醸とサステナブルを語らう日本酒Bar」だ。そのイベントに先駆け、ELEMINISTでは4つの酒蔵の方々にお話を伺った。古来から農業、酒造りを通して酒蔵が果たしてきた役割は、地域のサステナビリティそのものといえる。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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自らが酒米を育て、酒を造ることにこだわる22蔵が集まる「農! と言える酒蔵の会」。それぞれの酒蔵が手がけた日本酒からは、その土地・水・仕込み方によりまったく異なる味わいが見えてくる。そんな22蔵が9月から、東京・渋谷でポップアップイベントを開催する。
そのイベントに先駆け、関谷醸造(愛知)、仁井田本家(福島)、一ノ蔵酒造(宮城)、泉橋酒造(神奈川)の4蔵と、ELEMINISTのエシカルディレクター・中川原圭子による「サステナブルから見る日本酒造り」のスペシャルな対談が実現した。本対談からは、酒造りが地域農業を支えるだけでなく、経済や文化、防災にも大きな役割を果たしていることが見えてきた。
―まずは、とても気になる「農! と言える酒蔵の会」の由来について教えてください。
泉橋酒造 橋場友一氏(以下、橋場氏) 「一般的な農業とは違い、自分のところで酒米をつくっている酒蔵は、それぞれが地域で孤軍奮闘している!という感じなんです。でも、心のなかでは、横のつながりをつくっていきたいという思いはみんな持っていたと思います。4〜5年ほど前、岡山の丸本酒造さんから、『農業と酒造りが分離したままではよくない。自社で米をつくっている酒蔵でいろいろ動いてやっていこう』と、電話をいただきました。電話からもその熱意が伝わって、まずはそれぞれの蔵を見学しようというところから4蔵、…今日ここにも参加している関谷醸造さん、秋鹿酒造さん、そして弊社で交流を持ったんです。みなさんそれぞれが「農」と向き合って酒造りをされている。それが「農!と言える酒蔵の会」の発足のきっかけです」
関谷醸造 関谷健氏(以下、関谷氏) 「3年前、会として正式に立ち上げたときは12蔵が参加し、今は22蔵まで増えました。会の主な活動としては、対内的にはメンバー間のコミュニケーション、情報交換です。酒蔵ごとに農業へ取り組む背景、姿勢、地域差などがあるので、互いに勉強させていただいています。その一環で、福島で合宿もしましたよ。対外的には、我々の取り組みを消費者のみなさんに知っていただくことが大きな目的です。PRイベントを理事メンバーなどで企画しており、渋谷でのポップアップイベントもその1つです」
酒蔵というと、歴史があり代々米づくりも手がけている印象を持つ人も多いだろうが、そう簡単ではないようだ。江戸時代は地域の農業と深くかかわりながら酒造りを行ってきたものの、第二次世界大戦時に米が国の管理下に置かれるなどしたことから、酒造りと農の距離ができてしまったという。
1995年(平成7年)、米の流通の自由化に伴い、酒蔵が農家から直接お米を買えるようになり、自ら農家でもあった酒蔵は酒米の栽培も再開できるようになった。さらに、その数年後の農地法改正による「企業・法人の農業参入」、つまり正式に酒蔵の農業への参入が可能になった。このように時代に翻弄されながらも、農と酒造りが少しずつ本来の形を取り戻しつつある。ただ、あまりに長い歳月を経ていたため、地域の農業との距離がなかなか埋められないと感じていた。その状況に危機感を覚えたのが会の発足につながったのだ。
―お酒というと「米」は切っても切り離せないイメージでしたが、1995年というつい最近まで、お米の仕入れに関しても酒蔵は自由でなかったというお話は驚きです。酒蔵として、具体的にはどのような危機感を覚えたのですか?
関谷氏 「同じ業界の人とつながりたいという切実な気持ちがありましたね。別の農業に関する勉強会に入っていましたが、そこには異業種から農業に参入しようという人たちばかりでした。ちょうどそのころ、田植えイベントだけやって実際にはほとんど米づくりをしていない、“なんちゃって農業酒蔵”みたいなところも出てきていた。そことの住みわけもしなければという危惧もありました」
一ノ蔵 鈴木整氏(以下、鈴木氏) 「弊社では、以前は契約栽培の農家さんにつくっていただいていましたが、2003年の規制緩和以降、まずは特区制度を活用し、いち早く自分たちでも農地を借りて米づくりをはじめました。ですから、うちでも農業参入法人連絡協議会に参加したのですが…、農業に関係のない業界の方ばかりで驚きましたね。横のつながりを持ちたいという気持ちがさらに膨らみました」
仁井田本家 仁井田真樹氏(以下、仁井田氏) 「ええ。私どもも昔から米づくりから手がけている酒蔵ですので、会に参加することは意義深いですし大変勉強になっています。弊社は福島の酒蔵ということもあり、東日本大震災以降はとくに日本酒を愛してくださるファンづくりのためのイベントなどを手がけています。そうしたノウハウも会に生かせたらと考えています」
関谷醸造「ほうらいせん 摩訶」。山田錦に地元の米をかけ合わせた自社栽培の「夢山水」を使用している。奥三河の軟水でじっくりと醸した華やかな香りが特徴の純米大吟醸。ボトルの鮮やかなブルーは熱処理で透明に戻る特殊な染料からできており、またびんへリサイクルされる。
日本の原風景を思い浮かべるとき、稲が風に揺れる豊かな里山を連想する人も多いのではないだろうか。自然と共存する心豊かな暮らし、日本らしい美しい風景を守るのにもまた、米づくりから酒を手がける酒蔵が一役買っているようだ。ほかにも、地域の雇用創出や伝統・文化の継承など、酒蔵が関わる事象は多岐に渡っている。
―酒蔵と地元地域との関わりについて教えていただけますか?
鈴木氏 「たくさんあって、何から話せばいいか(笑)。関谷さんの地域もそうですが、就農者の高齢化は深刻で、耕作放棄地は増えるばかり。それを会社として借り、使わせていただいています。農地を守る役目もありますし、就農したい次世代の架け橋にもなれればという思いもありますね。ある高齢の農家さんが、作農できなくなり弊社に農地を貸してくださいました。それから少し経ち、新入社員の蔵人が田んぼなどで作業していたときに、『実はここ、祖父の田んぼなんです』とポロリ。継承の助けになれているのかなと嬉しくなりました。そうそう。仁井田本家さんの『本家』という名前は、ずっと地方自治をしてきたという意味でもあるんです。昔話でいう庄屋さんのような、地域を見守る役割もしていたはずです」
仁井田氏 「ありがとうございます。いま、お話をうかがっていて、そういえばお盆になるとスタッフみんなで地域の無縁墓を掃除し、手を合わせてきたなと…。地域を見守ることも私どもの役割だと思い出しました。夏場は米づくり、冬場は酒造りをしますので、年間通して雇用を生み出せていると思います。また、今はコメの価格が下がっており、農家さんがJAを通して販売すると低価格になってしまうと聞きます。農家さんを守るのも酒蔵の役目だと思っているので、安価だからラッキーではなくフェアな価格で購入しています。酒蔵と農家が支え合っている関係は大事だと思いますね」
仁井田本家「田村」。自社田で蔵人たちが栽培した、自然米(農薬・化学肥料を一切使わず栽培した酒米)だけを使用した辛口の純米酒。蔵付きの酵母仕込みで独自の味わいを守り続けている。田村に使用しているのは回収しリユースできるリターナブルびんだ。
関谷氏 「そうですね。弊社の酒蔵のある愛知県設楽町は豊田市の隣町なのですが、街の過半数が高齢者なので、毎年のように誰かが田んぼをやむなく手放すような状況です。実は、耕作放棄地は害虫や病気の元にもなるので、その一部を私たちがお借りして管理するという側面もあります。とはいえ、人手を急に増やせるわけではない(苦笑)。いい酒米や酒をつくっても、スタッフに対してブラックでは意味がありませんから、人にやさしい農業をするためにグローバルGAP※を取得しました、他にもスマート農業を導入するなどして省力化を図っています。また、酒造りで生まれる酒粕や米糠、籾殻を近くの畜産農家に飼料としてお譲りしています。すると、それを食べた動物たちのフンが冬場の土づくりの堆肥になる…といった小さな循環もつくることができていると思います」
話をうかがうほど、米づくりから酒造りを行う酒蔵は、まさに循環型のものづくり、サーキュラーな取り組みなのだと気づかされる。それは、世界文化遺産にも認定される仏ボルドーなどのワイン造りにもよく似ている。事実、近年は海外で日本酒は「SAKE」として人気を集めているという。「農!と言える酒蔵の会」でも、積極的に海外へ日本酒の魅力を伝えているそうだ。
※グローバルGAPとは、食品安全、労働環境、環境保全に配慮した「持続的な生産活動」を実践する優良企業に与えられる世界共通の認証のこと。
―海外でも日本酒の人気が高まっているそうですね
橋場氏 「つい先日も海外へ行く機会がありましたが、たしかに輸出量は増えています。ブドウ畑を所有しワインの醸造も行う醸造所=シャトーやドメーヌがある文化圏では、米をつくり、酒を造る酒蔵の文化は受け入れやすいのでしょう。テロワール(ブドウ畑を取り巻く自然環境要因)と同じように、米づくり酒造りも自然環境の観点から話ができますし、米づくりを自ら手がけているかどうかは重要ですね。ただ、その人気にあやかって世界中でSAKEづくりが今はじまっています。しかしながら、日本の土壌で米をつくり、酒を造る我々だからこその付加価値をより高めていかなければと思うようになってきました」
鈴木氏 「その土地で育てた米を、その土地ならではの風土で生まれ育った蔵人が酒を造るから味わいが生まれる。よく酒造りには水と米が大事と言われますし、その通りではありますが、『一番大事なのは土なんですよ』とお伝えすることも多いですね」
関谷氏 「うちは長野県との県境にあり、昼と朝晩の気温差が大きく、田んぼ1枚も小さいんですよ。山側に近い田んぼや水路に近い田んぼなど、それぞれの田んぼごとに米の味も少しずつ違うため、当然ながら酒の味わいに多様性が生まれます。そこもまた日本での米づくりならではの酒の魅力につながるといいなと思っています」
地域の違いどころか、田んぼの場所で酒の味わいが変わってくるという繊細さも魅力の日本酒。今回、インタビューに参加してくださった4つの蔵ご自慢の日本酒について、味の特徴などを教えていただいた。
鈴木氏 「一ノ蔵は、いわゆる東北らしい辛口から極甘口まで揃えているのが蔵としての特徴です。もともと、宮城はすっきりとしたきれいな辛口がメインの地域なので、そうした味わいを守りつつ、自社で米づくりから手がけている純米酒は、とくに米のおいしさが酒にしっかり出るようにつくっています」
関谷氏 「酒米で有名な山田錦と地元の米をかけ合わせた『夢山水』という米でつくった酒です。うちの地域の水は軟水で、タンパク質が少なくて硬めの夢山水はゆっくり発酵するので相性がいいんですよ。山田錦も使っていますが、やはり地元の米と水の相性はいいのかなと感じましたね。その夢山水のなかでも、とくにできのよい田んぼの米でつくったものが、今回のお酒『ほうらいせん摩訶』です」
仁井田氏 「自然酒造り30年を記念した田村は、自社田でつくった米だけを使った希少な純米酒です。無農薬・無肥料の自然米を使用していて、お米を削らない酒造りのため、米の本来の旨味や甘味が前面に出ていると思います。米の味がパワフルで、冷たくてもお燗でも。おつまみなしでもおいしいですよ(笑)」
橋場氏 「弊社では、95%を地元で酒米を栽培していて、米づくりは現代的な機械も用います。ただ、酒造りにおいては、例えば麹づくりではすべて伝統的な麹ふたで麹をつくったり、自然な乳酸菌の力を借りて造る、伝統的な生酛造りを行ったりと、手造りに徹しています。今回の酒は、米のうまみを感じていただきたいのですべて純米酒。水は、丹沢山系の伏流水、ミネラルたっぷりの硬水を使っており、爽やかな口当たりの辛口タイプになります」
泉橋酒造「いづみ橋 秋とんぼ 生酛・雄町」。前年に米づくりから始め、夏を越し、秋を迎えておいしくでき上がった、農(みのり)のように味わいふくよかな純米酒。シンボルマークの赤とんぼは、卵をうみ、羽化し、つがいになり世代をつなぐという田んぼの中のライフサイクルを表している。
米づくりから手がける酒造りが、いかにサステナブルかわかっていただけただろうか。ここからは、エシカルディレクター・中川原と一緒に、ELEMINIST流の日本酒との付き合い方、楽しみ方について談義した。
中川原 「おはなしをうかがってみて、改めて『日本酒』というアルコールは、日本の土・水・つくり手、そして麹菌との出会いがなければ生み出せないものであること、そして、その技術・環境をつなげていくことの意義を感じました。日本酒というと、どうしても一部の飲める人だけのもの、と感じることもありますが『日本で生まれた文化』であり、酒蔵さんと農家さんの長い歴史と取り組みがあったというみなさんのお話は、ELEMINIST読者にも共感していただける内容だなと感じました。私たちが酒造りにまつわる問題解決のために、なにかできるアクションはありますか?」
鈴木氏 「やはり、酒蔵としては日本酒を飲んでいただくことが何よりの支援ですし、問題解決につながると思います。たとえば、純米酒1合は玄米1合でできており、みなさんが想像する以上に酒造りは米をたくさん使います。もし、みなさんが週に5日間、毎日1合ずつ飲んでくださったら、日本中の田んぼの1/4が復活すると思いますよ。グラス1杯が、未来の田んぼに直結している、今日の1杯が明日の田んぼ1枚になるんです!」
仁井田氏 「“今日の1杯が明日の田んぼ1枚になる”って、すてきですね。弊社の酒瓶の後ろには、『仁井田本家は自然米100%の純米づくり。元気な田んぼが溢れる日本の未来のためにお酒を楽しく飲んで(適量)、ともに日本の田んぼを守りましょう』と明記しています。飲んで日本の田んぼをみんなで守っていく、応援するというのを目標にしています」
―田んぼは農を守るだけでなく、里山の自然を守り、地域の防災にも役立っていると聞いたことがあります。
橋場氏 「その通りです。まだ知られていませんが、田んぼの多面的機能に徐々に注目が集まっています。日本の夏の風景、カエルや虫たちは田んぼを介して生態系が成り立っていると言ってもいいくらいですし、山と平地が多い日本では急な大雨などになると、これまでは田んぼが保水して住宅などを守ってきたんですよ」
鈴木氏 「先日、東北では大雨の被害が発生しましたが、そのときも地域の田んぼが溢れた川の水を受け止める役割をしっかり果たしていました」
身近で気になるごみの問題。量り売りなどで、なるべくごみを減らす取り組みを行っている酒蔵やビンに工夫している蔵など、さまざまな取り組みを行っているという。とくに一升瓶は、古くから優れた回収・再利用のシステムが確立していたと胸を張る。
中川原 「仁井田本家さん、関谷醸造さんでは、生原酒の量り売りをされているとか。お客さまの反響はどうですか?」
関谷氏 「うちは20年以上前から量り売りを行っているのですが、蔵から出てきたばかりのしぼりたてを味わえると好評です。一般的に流通する日本酒は加熱殺菌されているのですが、そうではない『生』の原酒を楽しめますからね。サーバーで量り売りのスタイルで、それ専用の瓶も1本100円でご用意しています。2回目以降、洗ってお持ちいただければ、そこにお入れしますし、他の酒蔵の瓶でも受け付けますよ(笑)。そうした方には、うちのお酒が入っているということがわかるように首かけだけかけるようにしています。瓶を持参するリピーターは全体の2、3割くらい。クーラーボックス持参で来られる方もいて、遠くから見てもリピーターさんだとわかります(笑)」
仁井田氏 「弊社は蔵にサーバーがあり、限定酒を量り売りしています。まだ認知度が低く、蔵を見学してくださった方が『量り売りもあるんだね』と、酒瓶と一緒に買ってくださることが多いですね。実は、9月に発売になるお酒はガラス作家さんにボトルをデザインしていただきました。そうしたお気に入りの瓶をご持参いただいて量り売りをお買い上げいただくのも嬉しいですね」
中川原 「瓶のリユース、リサイクルなどの取り組みはどうですか?」
鈴木氏 「個人的に、昔から続いている一升瓶のリターナブルは世界でもっとも優れている循環システムではないかと思います。酒販売店で一升瓶、4合瓶でネックのところにこすり傷のようなものがついているのを見かけたら、それはリターンされている証。瓶の勲章ですよ! 一升瓶は大きすぎて冷蔵庫に入らないという声も聴きます。そうした方には、『飲食店で一升瓶からお酒を注いでもらってください。飲食店の支援にもつながりますよ』とお話しています(笑)」
―一升瓶以外に手に取りやすいサイズはありますか?
鈴木氏 「家庭向きでは、4合瓶のR瓶がおすすめです。他に比べて軽く、使うだけで輸送時のCO2削減につながります。あとは、エコロジーボトルもいいですね。今回ご提供した酒にも使われていますが、(カレット)リサイクル使用率が90%以上です。ちなみに、2019年ガラス瓶のリサイクル率が67.6%で、そのうちカレットとして利用されているのが75.3%です。さらに、カレットのうち『瓶to瓶』が80.7%となっています」
関谷氏 「実は、瓶の色によってリサイクルしやすさに違いがあります。もっともリサイクルしやすいのは透明ですが、光を透過しやすくお酒を劣化させやすい難点がある。うちが今回ご提供した日本酒の瓶は、口(キャップ)のところだけ透明で表面に青色を着色したもの。中身は透明のガラスで、リサイクルしやすいように設計されています」
一ノ蔵酒造「生酛特別純米酒 耕不盡」。酒づくりの原点に立ち返り、手づくりにこだわった生酛づくりならではの奥行きのある味わいで、常温からぬる燗と温度によって香りとともに変化していく。びんには90%以上がリサイクルされているエコロジーボトルを使用している。
日本古来のサーキュラーな営み、酒造り。近年、ブームの酒粕も日本酒造りが生み出す賜物だ。魅力満載の日本酒をさらに楽しむアイデアやヒントを教えていただいた。
―酒造りと当たり前にかかわっている米づくり、それらを「酒蔵」として取り扱うことの意義や魅力をしったところで、なお、日本酒は奥深く難しそう…と思っている方も。初心者も楽しめる方法やアイデアをぜひ教えてください。
仁井田氏 「若い女性など、初めて日本酒を手に取る方に飲んでいただきたいお酒があります。『かをるやま』といい、宮城のアルフィオーレさんというナチュールワインのワイナリーで、赤ワインを仕込んだ後のオーク樽に日本酒を入れて熟成したものです。薄いピンク色で、色と香りを楽しめますよ。飲み口はワインのようですが、飲み進めると着地が日本酒になる変化も楽しんでいただきたいですね。ボトルも500mlの細みで、書家の文字を箔押しでデザインしました。セレクトショップに並ぶような、多くの方に選んでいただけるお酒造りを目指して、ラベルをなくし、できるだけインクを少なくしたデザインになっています」
実は、ワインよりも日本酒は栓を開けてから飲み頃が長く続くというのもうれしいポイントだ。ワインは数日なのに対し、日本酒は冷蔵庫に入れておけば、生酒は1週間、純米酒なら2〜3週は持つという。酒を買っても飲み切れず持て余してしまうのでは…と心配する人に朗報だ。複数本空けて飲み比べたり、料理に合わせて飲み分けたりすることもお薦めだそう。アルコールが苦手な人にも、酒蔵は意外に身近だ。人気の酒粕や麹も酒造りの過程で生まれる。ほかにも、副産物が地域の食を豊かにしているという。
―お酒の副産物、酒粕などにも注目が集まっているそうですね?
関谷氏 「コロナで酒粕の需要バランスが大きく変わったなと感じますね。以前は、漬物用に酒粕を使っていただいていたのですが、食文化の西洋化で余っていたんです。でも、コロナ禍で醸造量が減ったことなども影響して、今では不足しているんですよ」
鈴木氏 「この数年で、酒粕が急に足りなくなったと感じます。わが社でも奈良漬屋さんに買っていただいても余っていたのですが、最近では漬物屋さんから『もっと酒粕つくってよ』と言われるように。『もっと日本酒飲んでくれたら、酒粕もでるんですけどね』って笑い合ったりしてますよ(笑)」
橋場氏 「持て余していたはずの酒粕の用途が、ぐっと広がったのも要因でしょう。たとえば、酒粕から粕取り焼酎をつくったり、そこで出た残さも鶏舎の鳥の餌なっています。なんと、そのたまごに付加価値がついて、1つ150円の人気商品に(笑)。他にも、精米時に出る米糠は飼料になるなど、100%循環できるようになりました。さらに、パンにフスマの代わりに米糠を入れたいから譲ってほしい、畜産の餌にして地域の特産品にしたいなど、SDGsブームなどもあり米糠や酒粕をほしいと言ってくれる人が増えていますね」
インタビューを読んで「農! と言える酒蔵の会」がなぜ「農!」と声を上げるのか。その意義に直接触れてみたい、そう思われた方も多いであろう「農! と言える酒蔵の会」のみなさんの酒造り。座談の締めくくりに、渋谷でのポップアップイベントへの想い、楽しみ方についてうかがった。
関谷氏 「日本酒のイベントはたくさんありますが、農業をちゃんとやっている酒蔵が22蔵集まって、そのすべての酒蔵の酒が飲める機会はあまりないと思います。日替わりならぬ(笑)、2日替わりに蔵元が店長を務めますので、それぞれの農業の苦労話や、おすすめの楽しみ方はもちろん、角打ちスタイルで飲み進めていくうちに、酒類業界の裏話などがポロリと出てくるかも(笑)。22蔵のお酒は会場の都合などから1種類ですが、2日替わり店長の日は、その酒蔵のお酒は2~3種類楽しめます。お目当ての酒蔵の当番の日におこしいただいてもいいかもしれませんね」
鈴木氏 「コロナ禍で日本酒イベントを自粛していたこともあり、渋谷でみなさんにお会いできることがとても嬉しいんです。いわゆる6次産業化、自ら米をつくって加工し、サービスの提供まで行う6次産業化で頑張っている酒蔵です。大きな話をすれば世界情勢が変化するなか、食糧危機の最後の砦が米でもあります。そこも守れる、農業から酒造りに向き合う酒蔵が集まるイベントで、日本酒の世界にどっぷり浸かっていただきたいですね」
仁井田氏 「ええ、本当にそうですね。さらに、プラスアルファで言わせていただけば、お酒は発酵食品です! 髪のつややお肌にもきっとよいことがありますよ(笑)。ぜひ、楽しい時間をみなさまと過ごせたらと思っています」
古くから農業、酒造りを通して地域のサステナビリティを率先してきた酒蔵の方々から、実際にお話を聞けるまたとない機会。マイタンブラーを持ち込んでカフェで割引があるように、本会ではマイグラス割として、マイグラス(タンブラー)の持ち込みでの割引を実施。マイタンブラーの持ち込みに慣れているELEMINIST読者にもうれしい取り組み、ぜひ参加してみてほしい。
Bar 農! Farming & Brewing 2022 第一部
詳細
原料の米づくりから酒造りまでを一貫して手がけ、農業と醸造、そして消費者をつなげることを目的に22の酒蔵で構成された「農! と言える酒蔵の会」が『Bar 農! Farming & Brewing 2022』を開催する。サブタイトルは、「農と醸とサステナブルを語らう日本酒Bar」。
会場
渋谷ストリーム 1F 「カクウチベース」
住所
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-21-3
開催日時
2022年9月16日 15:00 〜 2022年10月16日 22:00
開催予定状況
予定通り開催
主催者
農!と言える酒蔵の会
・酒蔵店長のスケジュールなどはオフィシャルサイトからご確認ください。 ・店頭ではグラス洗浄はできません。必ず、清潔な状態でお持ちください。 ・60mL以上注げるサイズのものをお持ちください。 ・本イベントは、国税庁の日本産酒類の販路拡大・消費喚起に向けたイベント推進事業「Enjoy SAKE!プロジェクト」の選定事業です。
Bar 農! Farming & Brewing 2022 第二部
詳細
原料の米づくりから酒造りまでを一貫して手がけ、農業と醸造、そして消費者をつなげることを目的に22の酒蔵で構成された「農! と言える酒蔵の会」が『Bar 農! Farming & Brewing 2022』を開催する。サブタイトルは、「農と醸とサステナブルを語らう日本酒Bar」の第二部。
会場
渋谷ストリーム 1F 「カクウチベース」
住所
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-21-3
開催日時
2022年10月25日 15:00 〜 2022年11月13日 22:00
開催予定状況
予定通り開催
主催者
農!と言える酒蔵の会
・酒蔵店長のスケジュールなどはオフィシャルサイトからご確認ください。 ・店頭ではグラス洗浄はできません。必ず、清潔な状態でお持ちください。 ・60mL以上注げるサイズのものをお持ちください。 ・本イベントは、国税庁の日本産酒類の販路拡大・消費喚起に向けたイベント推進事業「Enjoy SAKE!プロジェクト」の選定事業です。
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