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心を揺さぶられるエシカル映画に出会ったとき、ほかの人にも観てもらいたい、誰かと共有したい、と思った経験はありませんか? そんなときにおすすめなのが自主上映会の開催です。ここでは、具体的な方法を、実際に自主上映会を開催したELEMINISTスタッフの経験を交えて紹介します。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
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自らが主催者になり、好きな映画を好きな場所で上映する映画観賞会のこと。上映する映画は、映画配給会社や映画製作会社が権利を持っており、自主上映可能な作品として提供しているものが主な対象です。決まった上映料を支払うことで上映権が得られ、申請すれば誰でも開催することができます。
公民館や地域のホール、学校などを利用することも多いですが、スクリーンや音響などの設備がある、もしくは設置できる場所なら、カフェやレストラン、屋外、もちろん個人宅でも可能。参加者を募り、自らが興味のある分野の作品や、"ほかの人にも観てほしい"と思う魅力的な作品を広めることができます。
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映画を観て感動し、心が動き、学び、その後の生活に影響する。そんな経験をしたことがある人は少なくないはずです。それがエシカル・サステナブルな内容を扱ったものならなおさら。そのとき抱いた感情を一人で消化することに苦労した、なんてこともあるのではないでしょうか。
自主上映会の魅力は、なんといっても、自分が心から勧めたいと思う映画を周りの友人や知人に広められること。そして、一緒に観終わったあとに、その場に集まった、同じ分野に興味関心を持つ人たちと意見交換ができること。映画で取り上げられている課題に向き合い、気づきを得て、解決策を学ぶ、私たちができる具体的なアクションのひとつでもあります。
エシカル・サステナブルな内容を扱った映画は、メッセージ性があり、監督や製作者の強い思いが込められているものが少なくありません。一方、エンターテインメント性よりも社会的な意義を優先するがゆえに、一概には言えませんが、宣伝資金や上映回数が限られることも多々あります。せっかくのすばらしい作品が多くの人の目に触れることなく、埋もれてしまうことも。自主上映会を開催することは、それらの映画の"支援"にもつながります。
ここでは、自主上映会を開催したいと思ったら、何から始めればいいのか。その手順と、実際にELEMINISTスタッフ・中川原が開催した経験を基に、具体的な例や成功させるためのポイントを紹介します。
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自らが観て感銘を受けた作品があるならば、その映画が自主上映の対象作品か調べましょう。映画配給会社や映画製作会社、もしくはその作品独自の公式サイトに掲載されています。
決まった作品はないけれど、決まったジャンルやテーマがあるときは、作品を探すところから始まります。エシカル・サステナブルな題材を扱った映画と出会える、おすすめのサイトが「cinemo(シネモ)」。全国で開催中の自主上映会の情報も掲載されているので、まずは自ら観客として参加し、体験してみるのもおすすめです。
「cinemo(シネモ)」とは
社会の課題解決を目的に事業を展開する映画配給会社「ユナイテッドピープル」が運営する、自主上映可能な作品を紹介するサイト。"映画をきっかけに世界の課題を知る"、"その課題の解決方法を学ぶ"機会の提供を目指し、世界中からピックアップした、主に社会課題やSDGsをテーマにした映画が揃います。
自主上映会開催に至ったのは、プラスチックフリー用品専門店「エコストア・パパラギ」で行われた上映会に参加したことがきっかけ。そこで観た『マイクロプラスチックストーリー ぼくらが作る2050年』を広めたいと思ったからです。いままでドキュメンタリー映画をいろいろ観てきましたが、「私自身の言葉で伝えられる内容」のものしか、人にも伝えられないと考えていました。自主上映会をするなら、子どもと一緒に親子で観られて、自分の言葉で伝えられるもの、参加者とディスカッションできるものがいいと思いました。
当該映画は、NYの慈善団体が運営する公式サイトがあり、そこから自主上映会の申し込みが可能。タイミングが合えば、上映後のディスカッションに監督に参加してもらうことも依頼できます。この映画のように、配給会社を通さずに、製作者や関連団体が窓口になっていることもあります。
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上映したい映画が決まったら、協力者・共同開催者を募りましょう。ひとりで行うことも可能ですが、協力してくれる仲間がいることで、より成功に近づきます。事前準備や当日の運営などの実務的な面でも、開催に向けた強い思いを共有し、困ったときに助けてくれるといった精神的な面でも、支えになります。輪が広がり集客の面でも効果的。
「#上映会やってみたいな」そんなつぶやきをSNSで投稿してみると、4名の方がすぐに連絡をくれました。3名は友人でしたが、残る1名の方は、はじめてやりとりをさせていただいた方でした。その方は、環境に配慮したエシカルなファッションブランドを集めた展示会を開催する予定で、同日に同会場で一緒に上映会を開催しようと申し出てくれました。作品が扱うテーマと、それを広めたいと思う私の思いに賛同してくれたのが理由です。
SNSでの投稿により、もうひとつ嬉しいことが。石垣島に住んでいる友人が映画を観てくれて、それをきっかけに自主上映会を石垣島でも開催することに。私がアクションしたことが波紋となって広がる、その実体験となりました。バトンを受け継いでくれる人がいるというのは、とても嬉しいものですね。
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共同開催者が決まったら、次は会場探し。想定する動員数が収まるか、スクリーン(白壁)や音響などの設備があるか、もしくは設置可能か、上映時に外光を遮断できるか、などが選ぶポイントです。公共施設のホールや会議室、カフェやレストラン、イベントスペース、ヨガスタジオ、屋外、お寺、規模しだいでは自宅など、選択肢は多様にあります。
前述した共同開催者の計らいにより、エシカルファッションの展示会を行うことが決まっていた、カフェ「CAFE & HALL ours(カフェ & ホール アワーズ)」が会場に。想定動員数40人も問題なく収まる大きさでした。日頃からイベントスペースとして場所を提供している店だったため、スクリーンや音響なども店側が用意してくれることに。
また、メニューにオーガニック食材を扱っており、ふだんからプラスチックフリーにも取り組んでいる店だったので、上映作品との親和性が高いことも決め手でした。店長の計らいで、上映会当日、マイカップ持参でドリンクが100円引き、マイタッパー持参で料理が50円引きというサービスも。エシカルな映画を自主上映する場合、その取り組みの意義を理解し、賛同してくれる店や人と出会えるかというのも、成功するうえで大切なポイントかもしれません。
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会場が決まったら、必要な機材を手配。メディア(DVDやBlu-ray)の再生機器、映像投影用のプロジェクター、スクリーンまたは白壁、スピーカーなどの音響設備の有無を会場に確認します。なければレンタルサービスを利用。
前述の通り、会場となるカフェがイベント開催に慣れていることもあり、プロジェクター、マイク、スピーカー、スクリーン、再生機器を手配してくれました。会場手配の場合、機材の利用料もこのタイミングで確認しておくといいでしょう。
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会場や機材が決まったら、総費用を算出します。それにより、収入として得たい金額、つまり入場料が決まります。主な支出は、
1.映画の上映料
2.会場費
3.機材使用料
4.集客活動費(チラシやポスターなどの印刷物を作成する場合)
5.協力者・共同開催者への謝礼(必要な場合のみ)
1の映画の上映料は、映画配給会社・製作会社によってさまざまですが、既定の参加人数までは固定でかかる①基本料と、規定の人数や上映回数が上回った場合に発生する②追加料金の合算である場合が多い。
例:「cinemo(シネモ)」のとある作品の場合
①基本料:55,000円
(上限100人まで一律、同日・同会場の上映に限る、上映回数は同日なら何度でも可)
②追加料金
動員数100人を超過した場合:超過人数×550円
開催日が2日以上の場合:1日につき基本料+超過人数×550円
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費用が算出できたら、入場料を決めます。自主上映会の場合、参加者から入場料を取るか取らないかは自己判断。会社や学校、自治体などで開催する場合は、目的や参加者、イベントの背景などによりますが、個人での開催の場合は、赤字にならない金額に設定することが望ましいでしょう。総費用しだいですが、おおよその相場感は1人1000円〜1500円程度です。
入場料の徴収方法は、当日もしくは、事前の銀行振り込みなどが考えられます。近年はPayPayやLINE PAYなどの電子決済システムも多数あるので、自分にあったサービスの活用を検討してみるといいでしょう。
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入場料が決まったら、いよいよ開催に向けて告知・集客を開始。主な方法は、SNSでの発信、ポスターやチラシの作成、地元紙や地域のフリーペーパー、コミュニティFMなどに働きかけて取り上げてもらう、などが挙げられます。そのほか、イベントプラットフォームやアプリを活用する選択肢もあります。
ポスターやチラシを作成する場合は、作品の既存のポスターデザインを活用してもいいでしょう。自主上映作品を提供している映画配給会社・製作会社が無料でデータ提供していることが多々あります。
告知活動は、参加者情報の収集や、当日の受付業務までをスマートフォンでやりとりできるオンラインイベントプラットフォームの利用を検討。しかし、参加費無料イベントなら利用料も無料ですが、参加費が有料のチケット管理には手数料がかかるとわかりました。今回は少しでもチケット費用をおさえて上映できれば......と思い断念。Facebookのイベントページで集客を行いました。googleフォームに必要事項を入力してもらい、参加者のデータを管理しました。
そのほか、チラシを作成し、会場周辺のお店に置いてもらうよう働きかけました。訪れた「パタゴニア 」大崎店のスタッフの方が賛同してくださったのはとても嬉しい出来事でした。新たな出会いが生まれ、つながりの輪が広がっていく感覚を味わえることは、何にも変えがたい貴重な経験です。
開催当日の前に、上映作品のメディア(DVDやBlu-ray)がレンタルできた時点で、入念な操作確認を行いましょう。再生機器は作動するか、プロジェクターとの連動は問題ないか。また、会場側の許可があれば、スクリーンでの投影や会場の遮光具合、当日の客席の配置や動線などもチェックしておくと安心です。
当日は、共同主催者とともに楽しむのがポイント。主催者側が楽しんでおもてなしをすることで、参加者にも楽しさが伝わります。上映後は、作品の感想を参加者で共有し、映画で扱われている社会的課題についてディスカッションしてみてください。共感したり、異なる意見に学ぶものがあったりと、得るものが必ずあるはず。それが、自主上映会の醍醐味のひとつです。
自主上映会を開催したいと思ったのが、3月末。4月上旬には協力者を募り、あれこれ準備をして開催に至ったのが5月下旬。準備期間は約2ヶ月でした。集客の面で余裕をみても、2〜3ヶ月の準備期間があれば可能ではないでしょうか。
当日は、オンライン・オフライン含め、40名の方が参加くださいました。"映画上映の、さらにもう一歩先"を提案できたらと思い、プラスティック減につながるおすすめのアイテムの展示も行いました。"自分ならどんな言葉で、どんな提案ができるか"も考えた空間づくりができると、自主上映会開催の意義もより深まると思います。参加者の方々は、この上映会で改めて気づきを得て、明日からも続く日常の中で、それぞれの思いをつないでいってくださるんだろうな......そんなふうに思えた上映会になりました。
一緒につくり上げてくれる仲間、そして何より「私でもできるかも!」と一歩踏み出す勇気があれば、どんな方でも実現できます。共同主催者からは、「成功か失敗かの前に、やってみることから得られるものは本当に大きく、何よりもの財産になると感じました」との感想をもらいました。踏み出してみた人にしか味わえない、幸せなセレンディピティが待っていると思いますよ。
企画・執筆・編集/角彩佳(ELEMINIST編集部)
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