レスポンシブルツーリズムという新たな観光のかたち そのメリットや取り組み事例とは

たくさんの観光客を乗せた水路を走る遊覧船

Photo by Kristijan Arsov

新たな観光の形として提唱されてきたレスポンシブルツーリズムについて、その言葉の意味やメリットを学んでいこう。レスポンシブルツーリズムは、観光業が抱えるさまざまな課題を解決するための考え方だ。ここ数年で急速に広まっている理由とともに、具体的な事例を紹介する。

ELEMINIST Editor

エレミニスト編集部

日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。

2021.12.21
EARTH
編集部オリジナル

地球を救うかもしれない… サキュレアクトが出合った「未来を変える原料」と新たな挑戦

Promotion

レスポンシブルツーリズムとは

レスポンシブルツーリズムとは、「責任ある観光」を意味している。観光客が自身を「ツーリズムを構成する重要要素の一つ」と捉え、責任ある観光を通じて、よりよい観光地をつくり上げようという動きである。

グローバル化が進んで交通網が発達していくなか、有名観光スポットには世界中から多くの人々が集まるようになった。観光業でにぎわうエリアが増える一方、観光客が現地の環境に与える影響が問題視されるように。とくに2015年以降はSDGs(エスディージーズ/持続可能な開発目標)への関心が鍵となり、レスポンシブルツーリズムの考え方がより一層広がっていった。

2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的なパンデミックが起きたことが、レスポンシブルツーリズムの重要性を一層知らしめる要因となった。2021年現在、多くの国がレスポンシブルツーリズムに関心を抱き、その必要性を認めている。

背景にある観光地の問題点

レスポンシブルツーリズムという考え方が広がった背景には、世界の観光地が抱える問題があった。具体的には、以下のような問題点が挙げられる。

・観光客増加に伴う、ごみの増加
・観光客のマナー違反による環境破壊
・地域住民の生活環境への悪影響

観光地の環境が破壊されれば、その地の魅力そのものが失われてしまい、地域住民の生活環境が脅かされれば、地域生活そのものが立ち行かなくなってしまうだろう。観光地のキャパシティを超える観光客が押し寄せることを「オーバーツーリズム」と言う。

観光業に従事する人々が少なくなれば、やはり観光業そのものが成り立たなくなってしまうのだ。だからこそ重要なのが、観光業と地域環境の両立である。

こうした考えのもとで生まれたのが、持続可能な観光を指す「サステナブルツーリズム」という考え方だ。とはいえ、いくら観光地側が工夫をしても、できる対策には限界があった。そこから、観光客一人ひとりに責任ある行動を求める「レスポンシブルツーリズム」という考え方が生まれたのだ。

また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって観光地を取り巻く状況が一変したため、感染リスクを低減しつつ経済を回していくためには、これまで以上に観光客側に対して「責任ある行動」が求められるようになった。

これまでの観光業は、「観光客が行きたい観光地を選び、自由に訪れる」という観光客の要望に応えるものだったが、今後はレスポンシブルツーリズムという新たな考え方を取り入れ、観光業そのものの仕組みを大きく変える必要がある。「観光地側が、責任ある行動を取れる観光客だけを選び取る」という流れへの、変革のときと言えるだろう。

レスポンシブルツーリズムがもたらすメリット

レスポンシブルツーリズムがもたらす具体的なメリットは、観光地側と観光客側の双方に発生する。具体的なポイントとしては、以下のようなものが挙げられる。

【観光地側】
・地域環境への負荷を軽減できる
・観光客へ満足度の高い観光体験を提供できる
・安定した観光業経営につながる

【観光客側】
・ゆったりと観光できる
・地域の魅力をよりじっくりと楽しめる

レスポンシブルツーリズムを実施すれば、オーバーツーリズムの解消につながるだろう。観光客の数を絞り込むことができれば、責任を持って行動する一人ひとりの観光客に対して、より深く関われるようになるはずだ。理想的な観光客がリピーターになってくれれば、安定した経営につなげやすくもなるだろう。

観光地側に余裕が生まれることは、観光客側にとっても非常に大きなメリットがある。地域の観光を通じて、より満足度の高い体験ができる可能性が高まるからである。

日本や海外におけるレスポンシブルツーリズムの事例

レスポンシブルツーリズムへの注目度が高まっているいま、日本や海外で、すでに実践しているケースが多く見られる。2つの事例を紹介しよう。

白川郷の観光客数絞り込み(日本・岐阜県)

地域住民の人数を大きく超える観光客数

岐阜県白川郷は、国内でも人気の観光地の一つ。限られた地域に多くの観光客が訪れるオーバーツーリズムが問題視されていた。2009年には173万人もの観光客が来訪。これは住民の数を大きく上回っており、車による渋滞の発生や環境破壊が非常に由々しき問題となっていた。

来訪観光客数をコントロール

2014年4月1日からは、対象エリア内への車両侵入制限などの交通対策を実施。世界遺産の景観保全と、観光客および住民の安全対策が目的であった。また2019年からは、夜間ライトアップイベントについて、完全予約制・有償化の取り組みを実施した。(※1)

ハワイの取り組み(アメリカ合衆国)

観光客による環境破壊の深刻化への対応

世界中から多くの観光客が集うハワイは、レスポンシブルツーリズムを積極的に推進する観光地の一つである。ハワイでは、観光客の増加に伴う環境破壊が深刻化。そのため、重要な環境資源はもちろん、独自の生態系や固有種をどのように守っていくのかが、長年問題視されていた。

ハワイ州では観光業が主な産業であり、だからこそ持続可能な観光業の実現は急務であったと言えるだろう。実際に、1970年代には早くも、レスポンシブルツーリズムの考え方のもととなる「Mālama Hawaiʻi(マラマハワイ)」というスローガンが生まれている。

観光客へのルールの徹底

ハワイでは観光客に対して、具体的に「海洋動物への接近禁止」や「有害成分入りの日焼け止めの使用禁止」、「エコバッグやマイストローの持参」といったルールを守ることを求めている。観光客に求める行動を具体的に示し、理解を求めた。

近年注目されたのは、日焼け止めに関する新たなルールの制定だろう。2021年1月からは、法律によってハワイ州内での該当商品の販売・流通・使用が禁止されている。とはいえ、効果の高い日焼け止めの使用中止に伴い、皮膚がんなどの健康被害の増加が懸念されてはいる。(※2)

レスポンシブルツーリズムによって実現する新たな観光

観光客に対して、一定の責任を求めるレスポンシブルツーリズム。自然環境や住民の生活を守り、持続可能な観光業を実現することは、観光客自身にとってもプラスに働くだろう。「責任」と言われると、なんとなく重い雰囲気を感じ取る人がいるかもしれないが、観光客に求められているのは地域を守るために必要なことばかりである。

レスポンシブルツーリズムがさらに浸透すれば、いまよりもっと快適で、もっと満足度の高い観光体験ができることが当たり前になるだろう。観光客自身もツーリズムを担う一員であると理解し、「責任ある観光」を実践していこう。

※掲載している情報は、2021年12月21日時点のものです。

    Read More

    Latest Articles

    ELEMINIST Recommends