犬猫をペットとして迎える人は、年々増えている。しかしその陰には、劣悪な繁殖や飼育放棄などの課題がある。その根本にあるものはなにか、2020年に定められた数値規制でどう変わるのか。朝日新聞の専門記者である太田匡彦さんに、犬猫について知っておきたい事柄をうかがった。
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くりっとまん丸の瞳に、ふわふわの毛並み。飼い主だけに見せる愛らしい表情を持つ犬猫は、日本のペットブームをリードする存在だ。
しかしペットブームには陰もある。悪質な業者による劣悪な繁殖、飼育放棄、多頭飼育崩壊、殺処分など、その闇を映し出すニュースは絶えない。
今回は朝日新聞社の専門記者で、犬猫をはじめとするペット流通問題の取材を続ける太田匡彦さんにお話をうかがった。私たちが現在の課題を知り、見極める力を持つことが、犬猫の明るい未来につながっていくはずだ。
昭和まで、犬や猫は「買う」のではなく「もらう」ことや「拾う」ことがメインだった。
近年のペットブームがスタートしたのは、犬からだ。年号が平成に変わってから、シベリアンハスキーやチワワ、トイプードルなど純血種の需要が増え、どんどん過熱。猫ブームは、犬から少し遅れて平成半ばごろから始まったが、2017年(平成29年)には猫の飼育数が犬を逆転した。
朝日新聞社の調査によると、日本国内における猫の2018年度の流通量はのべ約19万9千匹で、2014年の約13万3千匹に比べ、4年で1.5倍に増えた。犬の流通量が年間のべ60〜70万匹に到達するまで30年近くかかったことを考えると、猫の流通量がハイスピードで増え続けていることがわかる。
繁殖業者が大量に犬猫を繁殖しペットショップの店頭で大量に売るというビジネスモデルが確立されていったのは、消費者の「かわいい」「ほしい」といった感情が後押しする需要の増加に応えるためだ。
一般社団法人ペットフード協会は、日本国内における2020年の犬の飼育数は約849万匹、猫の飼育数は約964万匹と推定している(※)。
「悪質な繁殖業者は経済的合理性だけを追求します。飼育にコストをかけないよう限られたスペースと人手で、なるべくたくさんの犬猫を生み出そうとする。“生産設備”である親犬猫は厳しい環境に置かれます」
犬猫ともに、8歳くらいで繁殖能力が衰えるとされる。犬の発情期は年に2回のペース、猫は日照時間によって回数が違う。より効率的に子猫を産ませるため、劣悪な業者は猫に人工的に光を浴びせ、自然界ならせいぜい年2回である発情期を年3回に増やしてしまうという。
「パピーミル(子犬工場)」「キトンミル(子猫工場)」と化した繁殖現場では、ときに100〜300匹の親犬猫が閉じ込められ、機械のように扱われる。散歩に行けないどころか
糞尿まみれのまま、生殖機能が衰える年齢まで外の世界に出ることを許されない子もいるという。
(※)一般社団法人 ペットフード協会:2020年(令和2年)全国犬猫飼育実態調査 結果(https://petfood.or.jp/topics/img/201223.pdf)
そもそも動物の販売や展示、譲受飼養などを行うには、動物取扱責任者を置き、都道府県知事や政令指定都市、一部の中核市の長の登録を受けなくてはいけない。動物取扱責任者の資格要件として求められる経験は、2020年6月に「半年以上、常勤職員として実務経験がある」と厳しくなったが、それまではアルバイトやパートの非常勤でも認められていた。
追加の要件として定められた資格の種類や講習内容は、国としては統一されておらず自治体によってばらばらだ。命を扱う仕事でありながら、業界に参入するためのハードルは低いという。
「動物取扱責任者になるのは簡単ですし、動物取扱責任者が1人いれば、誰でも犬猫の繁殖や売買を始められます。最近の猫ブームに乗って、犬の繁殖をしていた人が猫の繁殖も気軽に始めていることもあります」
動物取扱業者には、動物の管理や施設における「守るべき基準」が定められているが、劣悪な繁殖は、人の目に触れられない場所でひっそりと行われている。もし、人の知るところになったとしても、明確な処罰規則が日本にはなく、「かわいそう」だけでは行政が動かないという状況もあった。
大量生産の“設備”として酷使される犬や猫。彼らを悲劇の連鎖から救うため、2020年12月、犬猫の繁殖業者らに対して飼育環境の管理や繁殖の上限回数などを厳格に定めた「数値規制」の施行が決定した。
今回は猫の出産回数に上限は定められなかったが、犬の出産は生涯6回、交配が許される年齢は犬猫(メス)それぞれ6歳までになった。
ほかにケージや運動スペースの具体的な広さについての規定、1日に3時間は運動スペースに置く義務なども盛り込まれている。また、飼育者1人のあたりの飼育数にも上限が設けられることになった。
「実効性を保てるかは課題です。ただ、数値規制どおり適用されるようになれば、いまの状況から大きく改善するはずです」
ちょこんと折れ曲がった耳が特徴のスコティッシュフォールドは、12年連続で人気猫種ランキングの1位を獲得している(※)。主な理由は、かわいらしい見た目と穏やかな性格だ。
実はスコティッシュフォールドの折れ耳は、骨軟骨形成不全症という遺伝性疾患のサインだと言われる。折れ耳の症状が見られると、全身の関節に異常が出る可能性が高く、四肢にできる骨瘤の痛みによって上手く歩けなくなることもある。いまだに治療の方法は発見されておらず、一度発症すると一生痛みをともなう。
スコティッシュフォールドの折れ耳をつくり出す骨軟骨形成不全症は優性遺伝する。親が折れ耳同士なら75%の確率、片親が折れ耳でも50%の確率で、折れ耳の子猫が生まれてくる。ほかに、アメリカンショートヘアやペルシャ猫などに多い多発性嚢胞腎症(PKD)、犬ではコーギーでの発症率が高い変性性脊髄症(DM)なども、遺伝性疾患だ。
遺伝性疾患を持つ個体は、本来であれば、繁殖に使う犬猫の遺伝子検査を行い、原因遺伝子を持つ犬猫を繁殖から引退させることで減らすことができる。それでも遺伝性疾患のある犬猫が誕生し続けるのは、私たち消費者からの需要があるからだ。
有名人のSNSやメディアで愛くるしい犬猫がフィーチャーされるたびに需要が高まり、人気の犬猫が選択的に“増産”されるという悪循環。しかし、1匹でも多く子犬・子猫を供給するために、遺伝性疾患の問題は軽んじられてしまっている。
(※)アニコム損害保険:令和最新版! 「猫の名前ランキング2020」と
「人気猫種ランキング2020」を、一挙公開(https://www.anicom-sompo.co.jp/special/name_cat/)
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