食品の寄付で人を助ける「フードバンク」 フードロス削減にもつながる仕組みとは

フードロス(食品ロス)は現代社会の大きな問題だ。「フードバンク」は問題解消の一端を担う力を持った活動である。フードロス問題の解消とともに、何らかの事情で食料が必要な人々への支援にもつながるフードバンクは、日本でも徐々に広がりを見せている。

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2021.01.13
SOCIETY
学び

エシカルマーケティングとは? メリットや実例をわかりやすく紹介

フードバンクとは、企業による食品の寄付

食料銀行と呼ばれる「フードバンク(Food bank)」とは、主にNPOやボランティア団体が食品を扱う企業に呼びかけを行い、余剰食品を集めて必要な人々へ配布する活動を指す。企業には農家も含まれる。配布先は児童養護施設や障害者福祉施設、ホームレス支援施設や炊き出し、女性シェルターなど支援を必要とする場所である。

余剰食品といえども傷物や余り物を意味するわけではない。食品パッケージの小さな傷や印字ミスで規格外になり、商品として流通させられないものが該当する。農家の場合には、つくり過ぎや形の問題で市場に出せない農作物を指す。食品としての品質にはまったく問題のないものが寄付されるのである。

フードバンクの始まりは1960年代のアメリカだ。1967年、ボランティア団体はスーパーマーケットでの大量の食品廃棄を知り、寄付の呼びかけを行った。同年、世界初のフードバンクとなるセント・メアリーズ・フードバンク」が誕生した。(※1)

1976年には「セカンドハーベスト」が設立され、のちに200以上のフードバンク団体を統轄するようになった。1980年代に入るとフードバンクは欧州をはじめ世界中に広がりを見せ、2000年代にはアフリカ、アジアでも設立が行われた。日本でも2002年、初のフードバンク団体が誕生している。

フードロス削減に向けたフードバンクの役割

食品が並んだスーパーの陳列棚

Photo by Mehrad Vosoughi on Unsplash

フードバンクの役割は困難な環境の人への食料支援だけにとどまらない。先進国では大量のフードロスが社会問題として注目されて久しいが、その問題解消にも大きな力を発揮しているのである。

農林水産省によると、年間平均で約600万トンのフードロスが発生しているという。600万トンというと、日本の人口の1人ずつが毎日茶碗1杯分の食料を捨てていることになる。(※2)

フードバンクでは廃棄されるはずの食料を必要な人々へ届けることにより、フードロスを削減する役目を果たしている。フードバンクの活動は環境にとっても大きなメリットをもたらしているのである。

また、フードバンクに余剰食品を寄付する企業にもメリットがある。廃棄コストが下がること、社会貢献活動の一端を担うことによる社員のモチベーションの増加である。CSR活動にもおおいに役立っている。

海外でのフードバンク活動事例

ボランティア活動に従事する男女

Photo by Joel Muniz on Unsplash

欧米ではフードバンク活動が活発だ。アメリカでは200以上の団体が活動している。初期はフードロス削減に焦点を当てていたが、その後は飢餓解消にシフトした。政府の支援も手厚く、食品管理への協力度合いも高い。企業レベルの衛生管理、保険局の立入検査によって安全な食品を確保することができている。

フランスのフードバンクは政府や自治体の積極的な支援を受けている。政府は生鮮品の提供や寄付者の税制優遇制度を施行、自治体は資金援助を行っている。とくに自治体では雇用支援制度を用いてスタッフを有給で職員雇用し、スタッフ側も生活資金の心配をせずに活動することができる。

ポーランドは他国同様のシステムに加え、独自の方針を採用している。PEAD(European Food Aid Program)と呼ばれるEUの食糧援助制度から資金提供を受け、農業市場局が支援用の食品を生産する。また、HACCPシステムが義務づけられていることから高度な衛生管理がうかがえる。

他国では政府や自治体からの資金援助制度が見られるが、イギリスにおいてはほとんど行われない。しかし、民間の慈善団体「FareShare」がフードロスに焦点を当てて活動している。寄付元の企業からの信頼を得るため、ボランティア研修や高度な衛生管理に力を入れている。(※3)

日本のフードバンク推進と各地の事例

調味料が並んだスーパーの陳列棚

Photo by Daria Volkova on Unsplash

国内ではおよそ120のフードバンク団体が活動している。企業や農家からの寄付だけではなく、政府・自治体からの助成もあるため、フードロス対策と食料支援が積極的に推進されている。だが助成があっても資金不足の声は後を絶たない。環境と貧困問題にも深くかかわることであり、公的支援や民間からの寄付の増加が課題となる。

東京都

それでも前向きな活動を続ける団体は多い。東京では日本初のフードバンク団体「セカンドハーベスト」主導により、食料を必要とする10万人が必要な時にすぐ食料を受け取れる「フードパントリー」の設置を進めている。

10万人プロジェクトと名付けられたこの活動は、東京だけではなく、神奈川、埼玉を含めた、合計73ヶ所のフードパントリーを設置することが第一の目的だ。達成後は全国へ広める展望がある。

山梨県

フードバンク山梨では「もったいないをありがとうに」をコンセプトに、フードロス解消と食料支援の両者を前提にした活動を行っている。寄付元が企業に限られるフードバンクに加え、一般家庭、個人も寄付がしやすいフードドライブの実施、活動資金のためのクラウドファンディングにも成功した。

大阪府

大阪の団体「ふーどばんくOSAKA」は、従来のフードバンク活動に加え、地域のボランティアにも積極的だ。ボランティアを通じた触れ合いにより、地域の人々からフードバンクへの理解を深く得ることができる。フードドライブや子ども食堂への取り組みにも力を入れている。

横浜市

横浜市では自治体がフードバンク、フードドライブ活動に力を入れ、啓発活動にも熱心だ。市内の一般家庭の食料廃棄量が2万トンにのぼることに警鐘を鳴らし、個人の意識をフードロス削減へと向けさせている。

また、横浜市ではNPO法人「フードバンク横浜」の活動成果も大きい。活動の場をフードロス、食料支援に限定せず、教育格差の解消を目指す「こどもみらい塾」を開設し、貧困の連鎖を断ち切るため、質の高い教育普及を試みている。

仙台市

歴史的に助け合いの土壌がある仙台ではフードバンク団体の数が多い。震災での物資不足も現代のフードバンク活動を推し進めた理由だと考えられる。自治体の取り組みも積極的である。フードロス削減やフードバンク、フードドライブについての啓発、関係イベントの宣伝が広く行われている。

※1 フードバンク運営マニュアル|セカンドハーベストジャパン
https://www.2hj.org/about/pdf/H2709_Maff-FoodBankManual_2HJ.pdf
※2 食品ロス量(平成29年度推計値)の公表について|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kankyoi/200414.html
※3 フードバンク調査報告書
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/foodbank/pdf/data1-2.pdf

※掲載している情報は、2021年1月13日時点のものです。

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