写真や彫刻、ドローイング、インスタレーション、建築など幅広いジャンルの作品を生み出しているオラファー・エリアソン。しかし、彼の活躍は芸術の範囲にとどまらない。エシカルを体現する表現者として注目を集めるエリアソンが上梓した料理本のほか、彼の数々の作品を紹介する。
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現代アートの作家であるオラファー・エリアソン(以下エリアソン)は、芸術だけでなく料理の分野でも注目されている。
彼は独ベルリンのビール工場の跡地に巨大なアトリエを構え、そのアトリエには「オラファー・エリアソン・キッチン」と呼ばれる大きな厨房を設置した。
厨房で生まれるのは、地域支援型農業(CSA)*に登録されたバイオダイナミック農法**の食材を選び、可能な限り二酸化炭素の排出量を押さえた料理……。そうしてできあがった約100以上のベジタリアン・ランチは、スタジオのスタッフ90人をはじめ、外部協力者などにも無償で提供されている。
*「Community Supported Agriculture」の略称。消費者が事前に、作物の購入費を生産者へ支払う仕組み。
**循環型農業を実践する有機農法の一種。
2016年に上梓された『スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン』(日本語翻訳版は2018年に発売)では、厨房で生まれた料理の数々を家庭用にアレンジ。植物由来のブイヨンやプラントベースな餃子のつくり方などは、ビーガン料理に興味がある人なら思わず参考にしたくなるアイデアがたくさん盛り込まれている。
しかもアート・スタジオが手がける料理本だけあって、掲載される写真やレイアウトなどはどれも芸術的。眺めているだけでも楽しい1冊だ。
日々100名あまりにつくり続けるキッチンならではの、大人数のための料理のコツなども伝授。これまで何年もの間にスタジオを尋ねた来訪者の面影を垣間見ることができるのも、アートファンにとって心躍る体験になるだろう。
美術出版社
スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン
5,200円
※2020.10.26現在の価格です。
Photo by Runa Maya Mørk Huber / Studio Olafur Eliasson
オラファー・エリアソン © 2017 Olafur Eliasson
エリアソンが生み出す芸術作品は、じつに多彩だ。だが、その持ち味のひとつは、光や水の流れ、霧といった自然現象を“アート”という領域に引き入れている点。
《ビューティー》のような作品では、ふだんならありえない場所に自然現象が再現される。霧のようであり虹のようである不定形な物質の生み出す美しい現象が鑑賞者の感性を呼び覚まし、新しい知覚体験へといざなっていくのだ。
その表現は、決して扇情的ではないが、作品それぞれが持つエネルギーはとても静かで繊細。そしてとても力強い。
Photo by Maria del Pilar Garcia Ayensa / Studio Olafur Eliasson
《ビューティー》 © 1993 Olafur Eliasson
1967年、デンマークに生まれたエリアソンは、2003年の英ロンドン「テート・モダン」***に人工太陽を掲げた《ウェザー・プロジェクト》で、現代を代表するアーティストとしての地位を確立。
***元発電所を利用して2000年に開館した現代美術館。《ウェザー・プロジェクト》は、現在エントランスホールとして活用されているタービンホールに設置された。
Photo by Olafur Eliasson
《ウェザー・プロジェクト》 © 2003 Olafur Eliasson
2008年には、米ニューヨークのイーストリバーで人工滝を出現させたパブリックアート《ザ・ニューヨークシティー・ウォーターフォールズ》が大反響を呼び、アートを海洋文化や歴史、環境問題まで拡充したことが斬新だと評判に。
さらに、2020年に実施された展覧会「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」(於:東京現代美術館)では、エリアソンの環境への想いが感じられる作品が展示されていた。
Photo by Jens Ziehe
(左から)《あなたの移ろう氷河の 形態学(過去)》《あなたの移ろう氷河の 形態学(未来)》 © 2019 Olafur Eliasson
例えば《溶ける氷河のシリーズ 1999/2019》では、故郷・アイスランドの氷河が気候変動で減少する様を克明に記録。この20年でどれだけ環境が変わったのか、シビアな現実を訴えかけてくる。
Photo by Michael Waldrep / Studio Olafur Eliasson
《溶ける氷河のシリーズ 1999/2019》 © 2019 Olafur Eliasson
本展示会では、アトリエで行われた、サステナブルな生分解性の新素材やリサイクルの技術に関する近年のリサーチの一部も公開。
ポリウレタンに替わるモデリング材の検討、効率的な輸送のための折りたためる立体など、アートそのものがエシカルになるための挑戦が示されているようだ。
Photo by Kazuo Fukunaga
《サステナビリティの研究室》 © 2020 Olafur Eliasson
エリアソンの作品たちはまるで、直面している課題に働きかけられるのか問いかけてくるようだ。作品に示される自然の美しさや驚異を、噛み締めてみてほしい。
文/キツカワユウコ 編集/松本麻美(ELEMINIST編集部)
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