タイの高級ホテルが「ハエの幼虫」を育てる理由 昆虫を活用した資源循環の仕組み

菜園で手入れする人の手

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タイ・バンコクの高級ホテルでは、厨房から出る生ごみをハエ目の一種ミズアブの餌として活用し、繁殖させたミズアブを家畜の飼料や肥料として利用する取り組みを進めている。昆虫を活用した資源循環は、食品ロス削減だけでなく、持続可能な食料生産を支える新たな産業として注目されている。

Aoi Kurogi

ライター

元新聞記者。幼少期に地球温暖化のドキュメンタリーを見て以来、環境問題に興味を抱く。現在は国際環境NGOなどでも執筆活動中。

2026.08.24
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高級ホテルが挑む「生ごみゼロ」の資源循環

タイ・バンコクの6つ星ホテル「シバテル・バンコク」の駐車場には、ハエ目の一種「アメリカミズアブ」を育てる施設がある。

その目的は、生ごみをたい肥化すること。アメリカミズアブは、生ごみなどの有機廃棄物から効率よくタンパク質を生み出せる昆虫として世界的に注目されている。ミズアブの幼虫は分解能力が非常に高く、分解スピードは約1,000万バーツ(約4,000万円)相当の業務用コンポスト機を上回るという。

食品ロスに取り組んでいる同ホテルでは、ホテルのビュッフェで出る食べ残しなどの生ごみを、ミズアブの幼虫を活用して堆肥化している。さらに、堆肥化によって繁殖した幼虫はホテル所有の養鶏場でニワトリの飼料として利用し、その糞は有機肥料として再利用される。

2022年のプロジェクト開始以来、約1トン近くの幼虫を生産してきたという。こうした取り組みが評価され、同ホテルは2023年、アジア太平洋観光協会の『食品ロスゼロ・チャンピオン』に選出された。

昆虫大国タイで広がるミズアブ活用

ミズアブの幼虫はニワトリだけでなく、エビなどの飼料としても利用されている。タイの水産養殖の現場では、餌となる魚粉価格の高騰や供給不安への対策として導入が進む。タイでミズアブ由来の飼料を開発・販売する企業によると、同社が月1,000トンの昆虫タンパク質を供給できれば、50匹のうち1匹はミズアブ由来の持続可能な飼料で育てられることになるという。

こうした取り組みが広がる背景には、タイならではの昆虫文化がある。

タイは年間最大7,500トンもの昆虫が生産される世界有数の昆虫生産国だ。200種類以上の昆虫が食用とされているが、近年は昆虫由来の機能性食品やペットフード、家畜用飼料などの開発も進み、昆虫を活用した新たな産業が広がっている。

ミズアブが支える持続可能な食の未来

ミズアブの活用には課題もある。廃棄物を適切に管理しなければ、アンモニアやメタンが発生し、環境負荷が高まる可能性があるためだ。

一方、2022年に発表された研究では、昆虫由来タンパク質は同量の動物性タンパク質を生産する場合と比べ、温室効果ガス排出量は27〜40分の1、水や飼料の使用量も最大13分の1で済むとも報告されており、環境負荷を低減できる可能性がある。

それだけでなく、ミズアブを魚粉などのタンパク質の代替として活用することは人権問題の改善につながる可能性もあるという。魚粉への依存を減らすことで、タイの漁業で長年指摘されてきた強制労働などの解消に寄与する可能性があるからだ。

「ハエを育てるホテル」という一見意外な取り組みは、食品ロス削減だけの話ではない。廃棄物を資源へと変え、環境負荷を減らし、持続可能な食料生産や人権課題の改善にもつながる可能性を秘めている。

※掲載している情報は、2026年8月24日時点のものです。

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