「人の尿を肥料に」スウェーデンで始まった実証実験 中東情勢が背景

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スウェーデンのサッカースタジアムで、観客の尿を回収し、合成肥料の代替として活用する実証実験が始まった。中東情勢による窒素肥料の供給不足を背景に、資源循環だけでなく、脱炭素、食料安全保障にもつながる可能性が注目されている。

Aoi Kurogi

ライター

元新聞記者。幼少期に地球温暖化のドキュメンタリーを見て以来、環境問題に興味を抱く。現在は国際環境NGOなどでも執筆活動中。

2026.07.15

サッカースタジアムのトイレから、次世代の肥料を

スウェーデンのサッカークラブ、マルメFFの本拠地であるエレダ・スタジアムで5月24日から、スタジアムのトイレで集めた人間の尿を加工して農業用肥料に活用する実証プロジェクトが始まった。

同プロジェクトはスウェーデン農業科学大学(SLU)、オーツミルクメーカーのオートリー(OATLY)、マルメFF、スウェーデンのスタートアップSanitation360が共同で行っている。

人間の尿には植物の成長に欠かせない窒素、リン、カリウムの三大栄養素が豊富に含まれており、適切に回収・処理すれば農業用肥料として再利用できる可能性があるという。

実証実験では、スタジアムのトイレで回収した尿を合成肥料へ加工し、尿に含まれる医薬品成分の残留や病原体への懸念等を評価し、実用化に向けた課題を明らかにする。将来的には、尿由来の循環型肥料で育てた農産物が消費者に受け入れられるかどうかについても検証を進める方針だ。

尿の肥料化に向け、シーズン終了の11月29日までに1,000リットルの尿を集めることを目標とする。このスタジアムは収容人数が2万2500人で、スタジアム内のトイレに、尿を分離回収できる専用の小便器15基と通常の便器1基が新たに設置された。

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ホルムズ海峡封鎖による世界的な肥料供給不足

プロジェクトの目的は、尿に含まれる成分を作物の肥料として循環利用し、スウェーデンが輸入に依存している化石燃料由来の合成肥料から脱却することにある。

現在、世界の食料生産の半分近くは窒素肥料に依存していると言われるが、イランによるホルムズ海峡の封鎖状態が続き、世界の肥料貿易の約3分の1が滞っているという。同海峡は窒素系合成肥料の製造に欠かせない天然ガス輸出の重要ルートでもある。

国内で調達できる人の尿から窒素などの成分を抽出し、肥料として活用することは、こうした輸入リスクを抑え、農業や食料安全保障を支える新たな選択肢としても期待されている。

それだけでなく、国内で調達できる尿を原料に肥料へ活用すると、温室効果ガスの削減にも寄与すると見られている。

天然ガスを原料とする合成肥料は製造過程で大量のエネルギーを消費する。国際環境法センター(CIEL)によると、窒素系合成肥料による温室効果ガス排出量は年間約11億3,000万トンにのぼり、航空業界全体を上回る規模だという。

「捨てる」から「循環させる」へ

研究チームによる試算では、スウェーデンで使用される合成肥料の最大30%を人間の尿で代替できるという。

尿を資源として回収することができれば、水質汚染の抑制に加え、大規模施設における廃水処理の負荷軽減にもつながる可能性もある。

現在、尿に含まれる栄養分の多くは回収されないまま下水へ流れ、湖や海の水質悪化や富栄養化を引き起こす要因の一つとなっている。

身近な資源を循環させる仕組みは、環境負荷の低減だけでなく、肥料の安定供給や食料安全保障にも貢献する可能性がある。スタジアムで始まった実証実験は、資源循環型社会の実現に向けた新たな可能性を示している。

※掲載している情報は、2026年7月15日時点のものです。

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