「DEFENDER AWARDS」で日本から受賞した一般社団法人Next Commons Labの取り組みに焦点を当て、流域再生という視点から自然環境と地域社会の持続可能な未来を描きます。人材育成プログラム「Local Regen School」の始動を前に、地域に根ざした実践や思想、社会課題解決の可能性を探ります。

ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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気候変動や生物多様性の危機、地域コミュニティの衰退など、いま世界各地で多様な社会課題が顕在化している。このような課題に対し、地域の現場から新しい解決策を生み出そうとする取り組みもまた、世界中で生まれている。
そうした活動を支援する国際的なアワードが、DEFENDERが新たに立ち上げた「DEFENDER AWARDS」だ。自然環境の保全や地域社会の持続可能な発展に取り組む団体を対象に、活動資金や車両提供などを通じて実践を後押ししている。
前回の記事では、日本で初めて開催された審査会の様子をレポートした。今回はその結果として選ばれた受賞団体に焦点を当て、それぞれのプロジェクトが目指す未来を紹介する。
「DEFENDER AWARDS」は、地域の自然保護および人道支援活動のヒーローを支援するグローバルプロジェクトだ。英国発祥のアドベンチャー・ブランドDEFENDERが主催し、世界各地で社会や環境の課題に向き合う取り組みを対象に、活動資金や車両の提供、専門家によるメンタリングサポートを通じて実践を後押ししている。
アワードは、英国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オーストラリア、南アフリカの7カ国で実施され、4つのカテゴリで構成されている。
Land:森林や土壌、生態系の回復など、陸域の環境保全を対象としたプロジェクト
Sea:海洋生態系の保護や沿岸環境の回復など、水環境に関わる取り組みを評価する
Wild:絶滅危惧種を含む野生動物の保護や、生物多様性の維持に貢献する活動
Humanity:地域コミュニティの再生や社会的弱者の支援など、人と社会に関わる課題解決をテーマとする
審査では、活動の社会的インパクトや持続可能性、地域との関係性、そして将来的な発展性などが総合的に評価される。単なるアイデアではなく、地域社会に根ざした実践であること、そして長期的に社会や環境にポジティブな変化をもたらす可能性を持つことが重要なポイントとなった。もちろん、DEFENDER車両がプロジェクトの成功にどう貢献するかも重要な軸の一つだ。
こうした視点から世界各国で審査が行われ、日本を含む複数の団体が受賞団体として選ばれている。
日本から受賞したのがLandカテゴリで応募した「一般社団法人Next Commons Lab」(以下NCL)だ。同団体は、森・川・里・海をひと続きの「流域」として捉え、自然環境の再生と地域社会の持続可能な発展を同時に目指す取り組みを進めている。
今回「DEFENDER AWARDS」で評価されたのは、その活動をさらに広げていくために構想された流域再生の人材育成プログラム「Local Regen School」だ。
NCLは2015年頃に設立され、「ポスト資本主義社会の具現化」という理念を掲げて活動してきた団体。ファウンダーの林篤志氏は当時の背景について次のように語る。
一般社団法人Next Commons Labの林篤志氏
「資本主義を真っ向から否定するというよりも、私たちが扱っている“資本”があまりにも限定的すぎるのではないか、という問いが出発点でした。森や水、景観、生態系といったものも含めて、多元的に価値を捉え直す必要があると思っています」
林氏が取り組む「流域再生」は、山から川、そして海へとつながる自然の循環を一つの単位として捉えるアプローチだ。日本の里山・里海の自然観とも深く関係している。
「日本の自然というのは、人が関わることで維持されてきた歴史があります。自然を外側から保護する対象として見るのではなく、人間の暮らしの中で関わりながら生態系を維持していくという考え方です」
こうした考えのもと、NCLは三重県尾鷲市をはじめ、日本各地で流域再生の活動を進めてきた。森林の整備や生態系の回復に取り組みながら、地域の産業や経済の再生も同時に目指している。
しかし、活動を広げる中で林氏が強く感じるようになったのが、人材の問題だ。その背景には、日本の地域社会が抱える大きな構造的課題がある。
「自然の循環の中でどう暮らしていくのか、山をどう整備するのか、水がどこから湧いているのか。そういった感覚や技術を持っている方々は、現在90代くらいの世代に多く、その下の世代になるとどんどん薄れてきています。いま現場にいる方々が持っている知恵や技術のバトンを受け継ぐことのできるタイムリミットは、あと10年くらいだと思っています」
こうした危機感から生まれたのが、「流域再生の人材育成機関/プログラム」だ。森林整備や生態系の理解、地域のプロジェクトづくりなどを横断的に学び、実践できる人材を育てることを目指している。
「自然との共生というのは、概念として語られることは増えていますが、実際に現場で体を動かしながら理解している人はまだ多くありません。だからこそ座学だけではなく、フィールドに出て身体を使うことを重視しています。専門家ではなく流域全体や社会との関係性を理解して具体的にアクションできる人たちを育みたいので、年齢は問いません」
プログラムではオンラインでの講義に加え、実際のフィールドでの実習も行われる予定だ。尾鷲や奄美大島など複数の地域での現地研修も計画されているという。先だって2026年2月には、尾鷲市で「DEFENDER AWARDS」のパネリストをはじめ関係者が実際に森に入り、流域再生の現場を体験するワークショップが実施された。
ワークショップではプロジェクトの全体像を説明し、実際に水源の森に入って整備の状況や生態系の変化を見学。最後には“しがら”という伝統的な土木工法を体験した
しがらとは、枝や落ち葉などを使って水の流れを調整する伝統的な技術。自然素材を活用しながら環境負荷を抑える、日本の土木文化の一つでもある
ワークショップでは、尾鷲の自然と産業の歴史について意見を交わす場にもなった
尾鷲は古くから林業や漁業が盛んな地域だが、近年は担い手不足などによって産業の衰退が課題となっている。だからこそ、自然再生と経済活動の両立という難しいテーマに向き合うフィールドでもある。
「我々の活動は、1年や3年で終わるようなプロジェクトではないんです。短くても10年以上、場合によっては一生関わるくらいの覚悟で取り組んでいます。自然を守りましょう、というだけでは現実は動きません。産業やビジネスとどう両立できるのかという問いに向き合うことが重要だと思っています」
今回の受賞は、こうした取り組みが国際的な舞台で評価された出来事でもあった。応募に際し「里山・里海という、とても日本的な自然観に基づいた活動が世界でも評価されるのか確かめたいという思いもあった」というだけに、受賞が決まって自信を得たことはもちろん、チームや地域にも変化が生まれているという。
「僕達は今、『まだ見ぬ社会を生きよう』というメッセージを掲げていて、DEFENDERの“道なき道を切り拓いていく”という姿勢に共通するものを感じています。今回車両が来たことは、いい意味で少し異質な存在、“新しい風”だと捉えています。DEFENDERというブランドがもつ本質、つまりどんな荒野でも課題のあるところに向かって行って挑戦しようという社会的な意義を、メンバーみんなが受け取って、ワクワクしているんです。また、気候変動の解決策としての“本質的な正しさ”がある中で、多くの人たちがそこに繋がれない問題もある。“新しい風”には、そこをわかりやすく繋いでくれる可能性も感じています。実際にDEFENDERが尾鷲に来たことで様々な人が興味を持ってくれるようになりました」
「実際に乗ってみて、“とにかく悪路もいける”と言われていた理由がわかりました。走破能力が非常に高い」(林氏)
「流域再生の人材育成機関」のプログラム名は「Local Regen School」と命名された。ローカルでの実践者を育て、そこからたった一人でも立ち上がることによって地域が生まれ変わり、生き残っていくための空間が立ち現れるという期待を込めている。
「DEFENDER AWARDS」をきっかけに始まったこの挑戦は、流域再生という実践を通じて、地域と世界の未来を支える新たな担い手を生み出していくことになりそうだ。
左から深本南氏(社会起業家/環境活動家)、山崎晴太郎氏(セイタロウデザイン代表/クリエイティブディレクター)、松島倫明氏(『WIRED』日本版 編集長)
今回のワークショップには日本での審査会に携わったパネリストからは3名が参加した。実際のプロジェクトの一部を体験した彼らの感想を載せておこう。
「日本人として、自然と生き物、人の暮らしをもう一度調和させていく。その中心となる取り組みであり、日本の未来を担う存在になると確信しています」(社会起業家/活動環境家 深本南氏)
「受賞団体である Next Commons Lab さんの活動拠点、三重県尾鷲市にお邪魔させていただきました。実施している流域再生のワークショップには多くの人が参加し、準絶滅危惧種の アカハライモリの回復も見られているとのこと。行政と民間がそれぞれの役割を持ちながらプロジェクトを進めていて、流域再生とは単に自然を守ることではなく、人を育て地域の仕組みをつくり直すことでもあるのだと実感します。そして何より、森の中のDEFENDERはやっぱり格好よかったですね。ぜひ使い倒していただきたいです」(セイタロウデザイン代表/クリエイティブディレクター)
「新しい自治を環境・つながり・経済の再生といった包括的な視点からアプローチするNext Commons Lab。それは構想や概念を当てはめるだけなく、地域に根差した実践を下敷きにしてこそ実現し得る。それを実際の現場の取り組みにも参加して強く感じた」松島倫明氏(『WIRED』日本版 編集長)
今回のDEFENDER AWARDSでは、日本を含む各国から6団体が受賞した。いずれも自然環境の保全や社会課題の解決に取り組むプロジェクトであり、それぞれの地域の課題に根ざしたアプローチが特徴だ。以下は日本以外の受賞団体。
英国コーンウォール地方のボドミンムーアで、荒廃した土地を再生する「Cornwall Rainforest Project」を推進。128万本の在来樹木を植樹し、希少種の生息地の回復と約22万トンのCO₂吸収を目指すなど、生態系と地域社会の再生に取り組んでいる。
イタリア中部にわずか60頭ほどしか生息しないマルシカヒグマの保護活動を行う団体。人と野生生物の共存を目指す「Bear Smart Landscapes」プロジェクトを通じて、生息地の保全や地域社会の理解促進に取り組んでいる。
遠隔地に暮らす人々の皮膚がん検診を支援するプロジェクト「Project Check Mate」を展開。これまでに2万5,000件以上の検査を実施し、多くの皮膚がんを早期発見。AI技術を使用することで、地域の病院看護師が皮膚がんを早期発見できるように支援しているだけでなく、地域医療ネットワークを構築し、高リスク地域での医師の育成にも寄与。
港湾に流れ込む微細な汚染物質を海底に到達する前に回収する「Blue Odyssey」イニシアチブ。港の出入口に設置した環境ネットを活用し、海洋汚染の防止と地域社会の環境意識の向上を目指している。
河川に設置したプラスチック防止柵「リターブーム」によって、海へ流出する廃棄物を回収するプロジェクト。毎月およそ5トンのごみの流出を防ぎ、海洋生物への被害を抑えるとともに、海洋保全にもつながっている。
受賞したプロジェクトは、荒廃した土地の再生、絶滅危惧種の保護、海洋環境の回復、そして地域社会や医療の課題に向き合う活動など、それぞれ異なる分野から持続可能な未来を模索している。
こうした取り組みの多くは、地域の小さな活動から始まり、やがて社会を動かす力を持つ可能性を秘めている。「DEFENDER AWARDS」は、その挑戦を支援し、次の一歩を後押しするためのプラットフォームでもある。
世界各地の受賞団体の活動に目を向けることは、私たちが暮らす社会や環境の未来について、改めて考えるきっかけにもなるだろう。
取材協力/DEFENDER 取材・執筆/河辺さや香 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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