Photo by DEFENDER
英国発のラグジュアリーなSUV「DEFENDER(ディフェンダー)」による新たな取り組み「DEFENDER AWARDS」。今年9月、千葉・木更津の「クルックフィールズ」で行われた日本初の審査会をレポートする。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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持続可能な未来を実現するために、いま何ができるのか。――その問いに真正面から向き合う人々の活動を称え、次なる挑戦を後押しするのが「DEFENDER AWARDS」である。ジャガー・ランドローバー(JLR)が展開する本アワードは、「DEFENDER」ブランドが体現する“挑戦心”や“未来を切り拓く力”を社会貢献へと結びつける取り組みとして、世界7カ国で開催されている。海(Sea)、森や大地(Land)、野生(Wild)、人間社会(Humanity)の四領域で活動する団体を選び、資金や車両、ネットワークを通じて支援することで持続的なインパクトを生み出すことを目的としている。
日本初の審査会の舞台となったのは、千葉・木更津の「クルックフィールズ」。自然と人が共生する場をあえて選んだことに、このアワードの哲学が表れている。2025年9月3日、環境活動やデザイン、メディアなど異なる専門性を持つ4名の審査員が集まり、応募書類をもとに20団体の活動を精査した。
数字では測れない“活動の未来”をどう評価するか。事前に採点を行っていた審査員たちも、意見交換を経て評価を見直す場面があり、議論を重ねるほどに「いま社会に必要な活動とはなにか」が浮かび上がった。そして最終的に、8団体がファイナリストとして選ばれた。
9月3日、千葉・木更津の「クルックフィールズ」で審査会が行われた。農と食、アート、再生可能エネルギーを通じて“人と自然が共生する未来”を体現するこの場所は、DEFENDER AWARDSの理念とも響き合う。
集まったのは、海洋研究、社会起業、テクノロジーメディア、デザイン――異なる専門性を持つ4名の審査員。応募書類をもとに1次選考を通過した20団体を対象とし、1日をかけて議論が進められた。事前に各々採点を済ませた上で、当日の対話で順位を再検討し、合意によって最終的な判断を導く。会場には終始、心地よい緊張感と熱意が漂っていた。
菊池夢美氏(一般社団法人マナティー研究所理事)
海洋生物・環境教育のバックグラウンドを持ち、審査では科学的根拠と人間の介入度に関する論点を重視する立場が示された。科学と倫理のバランスを検討課題として提示した点が特徴だった。
深本南氏(社会起業家/環境活動家)
社会課題を扱う現場を熟知し、活動が持つ普遍性と広がりを重視。単なる取り組みの質だけでなく、社会に共感を生む力を評価の軸に据えていた。
松島倫明氏(『WIRED』日本版 編集長)
社会実装まで見据えたプロジェクトの質と持続性に着目し、議論を構造化する役割を果たした。審査過程では、評価プロセスの整理に寄与した。
山崎晴太郎氏(セイタロウデザイン代表/クリエイティブディレクター)
活動の実効性やクリエイティビティのみならず、ブランドの親和性が社会的インパクトの可視化にどう寄与するかという評価軸を提示した。※オンラインでの参加
議論の最中、ある審査員がふと漏らした「最初に見たときには気づかなかったが、他の視点を聞いて考えが変わった」という一言は、この日の審査会を象徴していた。事前採点だけでは見えなかった要素が、複眼的な対話によって浮かび上がる。結果として、当初低評価だった活動が高く見直されるケースも少なくなかった。
地域の一角で行われている小さな取り組みが、議論の中で「社会全体に波及しうる可能性」を持つと再評価される。あるいは、着想は斬新だが実行力に疑問が残る活動が、他の視点から補強される。こうしたやり取りが繰り返されるたびに、会場には真剣な静けさと、時折交わされる熱のこもった声が響いた。
深本氏は「伝える努力とその力は、社会変革を通すうえで必要なスキルだ。どんなに内容が素晴らしくても、そこが乏しいと弱い」と指摘。他の審査員もうなずき、単に活動を行うだけではなく、それをどう社会に届けるかが重要であることが浮き彫りになった。議論を通じて、時代に即した情報発信の必要性が改めて確認された。
一方で海洋保護をめぐる議論では、「人間はどこまで自然に介入すべきか」という問いが投げかけられた。菊池氏は「科学的根拠を前提にしなければならない」と発言。自然を守る営みの根拠や手法を問い直す場面は、審査会全体に重みを与えた。科学と倫理のバランスをどう取るかが、持続可能な活動に不可欠であることが確認された。
災害支援については、実効性だけでなく「社会にどう届くか」という象徴性も議論された。「災害が起きたとき、DEFENDERが颯爽と現れ助ける姿は、日本が世界に誇れる物語になる」という山崎氏の意見に加え、「なぜDEFENDER車両である必要があるのか」という視点も共有された。悪路走破性や耐久性といった性能は、被災地の現場で大きな意味を持つ。議論は、活動の有用性に加えて車両の特性とブランド価値を公共性にどう結びつけるかへと広がっていった。
点数表は何度も修正され、そのたびに議論が深まった。最終判断は単純な平均点ではなく、4人の多様な視点を突き合わせることで導かれた。審査員同士の対話によって「いま社会にとって本当に必要な活動」が浮かび上がり、合意に至った。応募書類を材料にしながら、多角的な議論を通じて選び抜かれたプロセスそのものが、DEFENDER AWARDSの精神を体現していた。
審査会の議論を通じて浮かび上がったのは、いま社会が直面する課題の輪郭である。海洋保全や森林再生といった自然環境の持続性、気候変動を背景とした災害対応力の強化、そして活動を広げるための伝える力の重要性。さらに、地域レベルにとどまらず社会システムを変革しようとする視点も、複数の応募団体に共通していた。
これらの潮流は、単なる個別の取り組みを超え、「未来の社会をどうデザインするか」という大きな問いを突きつけていた。
そうした議論の果てに、審査員たちは合意に基づき、8つの団体をファイナリストとして選び出した。次に紹介するのは、その活動内容と、審査員がそこに見出した可能性である。
1. 一般社団法人 OPEN JAPAN 緊急支援プロジェクト 災害の最前線で駆けつける
全国のボランティアをつなぎ、災害発生直後から現場で炊き出しや物資供給、家屋片付けを行ってきたネットワーク。応募プロジェクト「災害支援緊急プロジェクト」では、発災直後に最初に駆けつける即応力と連携体制を強化することを掲げている。
山崎氏:「DEFENDERが現場で支援する姿は、日本が世界に誇れる物語になる」
2. 一般社団法人 Next Commons Lab(ネクストコモンズラボ) 流域から未来を変える
地域に人材を送り込み、流域単位で「食・水・森・エネルギー」の循環を再生するプロジェクトを実践。応募プロジェクト「流域リジェネレーション」では、森林再生ワークショップや人材育成を通じ、循環型経済のモデル化を目指す。
山崎氏:「展開の幅広さがあり、評価方法もしっかりしている。活動自体をスケールさせていく力が見える」
3. 特定非営利活動法人 Nature Service(ネイチャーサービス) 自然を記録し伝える
キャンプ場や自然体験の場を運営しつつ、自然環境を映像で長期記録。景観美と課題をセットで社会に発信している。応募プロジェクトでは、バーチャル体験や映像データベース化を進め、誰もが環境の現実を体感できる仕組みづくりに挑戦。
松島氏:「日本で活動する意味が明確であり、提案力の高いプロジェクトだ」
4. 一般社団法人 UMITO Partners(ウミトパートナーズ) 漁業の未来をつくる
漁師と協働して資源管理型漁業を推進し、乱獲防止やブランド化で地域漁業を持続可能にする。応募プロジェクト「焼尻UNIMOBAサステナブル漁業プロジェクト」では、藻場再生やモニタリングを導入し、再生型漁業モデルを構築。
菊池氏:「科学的根拠を持ちながら、地域と共に海を守る姿勢が素晴らしい」
5. 認定NPO法人 エバーラスティング・ネイチャー ウミガメと共に生きる未来
関東や伊豆・小笠原諸島でウミガメの調査・保護を行い、学校教育や地域協働も推進。応募プロジェクト「人とウミガメが共に生きる未来」では、教育・研究・モニタリングを強化し、絶滅危惧種の産卵地を守ることを掲げる。
菊池氏:「研究者と連携して確かなデータを積み上げており、車両支援によって活動の幅がさらに広がる」
6. NPO法人 近自然森づくり協会 森を蘇らせる「実生銀⾏」
「近自然」思想に基づき、人工林を健全な森へ移行させ、教育や政策提言にも取り組む。応募プロジェクト「実生銀⾏」では、地域固有の生態系を守る苗を安定的に供給できる「盆栽型実生苗」を用い、荒廃地から多様な森を再生する仕組みを提案。
松島氏:「プロジェクト自体は小さいが、盆栽のように増やしていけるリジェネラティブな仕組みがあり、ネットワーク化することで大きな影響を生む可能性がある」
7. 一般社団法人 ふるさとと心を守る友の会 福島からの挑戦
原発事故の被災地で心のケアや地域再生に取り組み、文化を未来へつなぐ活動を展開。応募プロジェクト「もーもープロジェクト」では、牛の放牧による土壌改善と里山再生を進め、防災拠点の里山モデル構築を目指す。
深本氏:「被曝した牛や汚染土壌に向き合い、原発事故の現実を忘れさせない存在である。支援を有意義に使い、エネルギー問題を考えるきっかけにもなる」
8. 特定非営利活動法人 HUB&LABO Yakushima(ハブアンドラボヤクシマ) 島から世界へ
屋久島を拠点に、地域資源を活用した実験的なプロジェクトを展開し、外部とのネットワークを築いている。応募プロジェクト「屋久島と地球の未来会議」では、流域再生や脱炭素教育など9つの実証実験を通じて、島から地球規模の環境課題に応える。
深本氏:「屋久島の活動は地域から社会へ広がる可能性がある」
今回選ばれた8団体の活動は、海洋保全や森林再生といった地球規模の課題と、災害対応や地域再生という日本特有の課題を鮮明に映し出していた。DEFENDER AWARDSは、その現実に光を当て、地域から未来を変える挑戦を後押しする。
7カ国で選ばれた計56団体は、グローバル審査を経て各国1団体に絞られる。それが今後発表されるグローバル・ファイナリストとなり、計7団体が2年間で2,000万円とDEFENDER車両1台、必要に応じた専門的支援を受けることになる。
DEFENDER AWARDSは、単に優れた活動を評価し称えるだけの場ではない。対話と共感を通じて未来を描き、日本から世界へと「守るべき未来」の物語を届けるための一歩である。「DEFENDER」は、悪路を走破して人々を支えてきた車両のように、困難な時代に挑む活動をこれからも力強く後押ししていくだろう。
取材協力/DEFENDER 取材・執筆/河辺さや香 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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