Photo by OCVB
沖縄ではいま、自然や文化を大切にしながら旅を楽しむ「エシカルトラベルオキナワ」という取り組みがゆっくりと広がっている。美しい自然や食、ものづくり──そんな沖縄の日常に寄り添う小さなアクションが、旅の時間をやさしく豊かにしてくれる。これから紹介する場所が、次の沖縄旅のヒントになればうれしい。

ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
Photo by EMウェルネス 暮らしの発酵ライフスタイルリゾート
今回の旅では、2025年1月に訪れたとき以上に、地域の人や事業者の想いがよりしなやかにつながり、体験できることがぐっと増えていた。
エントランスに足を踏み入れた瞬間、体の深いところがふっと緩んだ。澄んだ空気、適度な湿度、やわらかな雰囲気——この心地よさは、長く大切に受け継がれてきた“発酵の知恵で空間を整える”という姿勢そのものだ。
「EMウェルネス暮らしの発酵ライフスタイルリゾート」では、化学薬品を使わず、EM発酵液で磨かれた環境は、清潔さだけでなく、呼吸をゆっくり整えてくれるように思える。
施設の成り立ちや基本的な取り組みは、前回の滞在記で触れているため、今回の記事ではそこからさらに深まった体験を中心に綴りたい。
滞在を支えるサステナブルな仕組みは、今回の訪問でさらに進化していた。館内から出る生ごみはすべて資源として扱われ、かつては直営農場で堆肥化されていたが、現在では大型商業施設、学校、病院などの連携した施設からも回収され、メタンガス発電へとつながっている。発電後の残渣は再び堆肥となり、地域の畑へ戻っていく。
循環型のシステムが特別な“仕組み”ではなく、日々の営みの延長にあるのが、この宿の確かな魅力だ。
朝食は、この理念をもっとも自然に伝える存在だと感じている。直営農場「サンシャインファーム」で育った有機野菜や、平飼いの無投薬卵は、どれも主張しすぎず、するりと身体に沁みる味わい。甘酒やきび糖でやさしく仕上げた料理、朝4時から丁寧にとられる出汁——沖縄の食文化と発酵の技が重なり合い、“旅先で整う”という感覚を自然に運んでくれる。
旅をしていると、つい生活のリズムが乱れやすい。それも楽しさのひとつではあるけれど、この宿ではむしろ心身が軽くなり、呼吸までやわらぐ。発酵と循環が日常の速度で根づいた環境に身を置くことで、旅の時間がそっと整っていく。その穏やかな作用を、今回の再訪であらためて実感した。
Photo by OCVB
やんばるの濃い緑に抱かれた廃校跡地に足を踏み入れると、本土では聞いたことのないセミの声が響き、空気の質がふっと変わるのを感じた。湿った土の気配、柔らかな光、そして“自然に生かされている”という感覚がゆっくりと身体にほどけていく。まさに蘇るような静けさだった。
「喜如嘉翔学校(きじょかしょうがっこう)」は廃校となった小学校を再生し、地域の文化を守り育みながら未来へつなぐ拠点。工芸・観光・交流を柱とした複合施設として、地域資源を活かした持続可能な取り組みが進められている。この土地に古くから語られる精霊“ぶながや”をコンセプトとしている。
敷地を歩いていると、志を同じくする人たちが自然と集まり、ゆるやかなつながりを生み出している“場の力”を感じた。商業的な目的だけでなく、「沖縄の自然と文化を大切にしたい」という想いが根底にあり、その想いが施設全体の空気をやわらかくしているのだと思う。洗練と親しみやすさが同居する、不思議な心地よさがあった。
サウナ「BUNA SAUNA」では、オーナーの幸野志勇さんから、在来植物をベースにした蒸気浴の仕組みや、植物を“採取”ではなく“選定”として山から持ち帰り、使用後は森へ返すという循環の思想を教えてもらった。
2025年6月にオープンした宿泊棟「BUNAGAYA」は、装飾を抑えた静かなつくりで、自然の中で眠る体験そのものを大切にしている。
Photo by OCVB
自然と人、過去と未来、地域と外から訪れる人——そのすべてが穏やかにつながり、再び動き出していく姿に触れると、感覚が少しずつ澄んでいく。ここで過ごす時間は、旅先で何かを“消費する”体験ではなく、自分の生き方をそっと整えてくれる“学び”そのものだった。
Photo by OCVB
観光客も参加できるビーチクリーン
「プロジェクトマナティ」は、旅の途中でも気軽に参加できるビーチクリーンの場を提供している。受付で手渡された蛍光イエローの袋は、思わず目を引く鮮やかさだった。環境保全の活動というと少し身構えてしまうものだけれど、こうした“参加したくなる工夫”があるだけで、旅の一部として自然に組み込める。
実際に海辺を歩いてごみを拾ってみると、数分で袋が膨らんでいく現実に驚かされる。けれど、その行為が妙に前向きに感じられるのは、活動そのものが丁寧にデザインされているからだ。
この仕組みをつくったのが、「プロジェクトマナティ」代表の金城由希乃さんだ。彼女が挑んだのは、「ビーチクリーンをすること」ではなく、旅人が無理なく保全に関われる仕組みそのものを再設計すること。 海岸に漂着するごみは一般の処理ルートには乗りづらく、ルールも地域ごとに異なる。
そこで金城さんは、地域の事業者と協力し、回収から仕分け処理まで一貫して担う体制をゼロから構築した。現在、約80のパートナー施設(変動あり)が関わり、参加費500円で取り組める“旅のアクティビティ”として成り立っている。
今回の拠点は地域のベーカリーで、日常の営みのすぐそばで環境活動が息づいているのが印象的だった。
旅人の行動は大きな仕組みの中の小さなひとしずくにすぎない。それでも海辺に目を落とすと、どこから来たのかわからないごみが混ざり合い、海が国境を持たず、世界がごみを通してつながっていることを静かに語りかけてくる。
旅の途中で環境負荷を深刻に捉えるのは簡単ではない。でも、金城さんのように“小さな行動をポジティブな体験として設計する”人がいることで、私たちは自然と海との距離を考え始める。拾い上げたごみのひとつひとつは、世界のどこかの暮らしの痕跡であり、同時に自分に返ってくる問題でもあると気づかせてくれた。旅先で生まれたその気づきが、日常へ戻ったあとも海を思い出すきっかけになっていく。
「工房うるはし」の工房主・鈴木仁さん
喜如嘉翔学校の複合施設内で行われている「工房うるはし」の箸づくり体験では、シークワーサーなど沖縄にゆかりのある木材を使い、琉球箸を手づくりできる。削って磨くシンプルな工程ながら、ものづくりの喜びがぎゅっと詰まった時間だ。短時間で完成するのに、自分の手の跡が残り、旅のおみやげとしても特別感がある。
箸づくり体験の様子
工房主・鈴木仁さんは、箸づくりを通じて食育やマナー、さらにはメンテナンスの大切さまで丁寧に伝え、「長く使えば、使い捨てを減らせる」と話す。そのやさしい視点に触れることで、日々の“食べる”という行為にも小さな変化が芽生える体験だった。
店主の満名匠吾さん
また、沖縄の豚食文化を深く知る入口として訪れた飲食店「満味」は、食の背景を丁寧に伝える場所だった。かつて豚は脂が重視され、薬や暮らし、祈りにも関わっていたという話を聞くと、食材が地域の歴史と密接につながっていることがよくわかる。アーグーという言葉は、本来は“黒い豚”を指す呼称であり、ブランド化とは異なる文脈にある。
無駄なくおいしくいただく知恵がつまった島豚料理
料理は思いのほか食べやすかった。何より印象的だったのは、生産者情報や育て方を包み隠さず共有し、商業化の波に埋もれがちな“文化の核心”を守り伝えようとする姿勢。食べる行為の裏側に通じる透明性と誠実さが、静かに心に残った。
旅の中で出会った小さな体験が、沖縄の文化や自然へのまなざしを少しだけ広げてくれた。続く記事Vol.2では、ものづくりの現場から、この土地の魅力をさらに覗いてみたい。
取材協力/近畿日本ツーリスト沖縄 取材・執筆/河辺さや香 編集/佐藤まきこ(ELEMINIST 編集部)
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