万博から学ぶ、日本のサステナビリティと未来の技術

大阪・関西万博

2025年4月13日から10月13日まで、大阪・夢洲で開催された「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」。158の国と地域が参加し、各国の文化や最先端技術を紹介する展示が集結。来場者数は2,500万人を超える大盛況となった。万博といえば「未来の技術が集まる場所」というイメージがあるが、それだけではない。サステナビリティをテーマとした展示も数多く並び、私たちの暮らしに直結するヒントが随所に散りばめられていた。本記事では、そのなかから日本企業によるサステナビリティの取り組みや技術を中心に紹介していく。

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2025.11.01

大阪・関西万博が目指した、サステナブルな未来社会

国連が掲げるSDGsの目標達成年である2030年まで残り5年となった大阪・関西万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。大阪・関西万博では、人々が「いのち」について改めて考え、行動するきっかけをつくることを目指しており、一人ひとりが小さな努力をすることで、その重なり合いが、他者や地球の未来を支える大きな一歩になる。そして、その思いが響き合い、ともに「いのち輝く未来社会をデザインすること」を通じて、SDGs目標達成への貢献を目指す重要な博覧会となった。

大阪・関西万博では、最先端の技術やアイデアとともに、サステナビリティに関する展示も数多く登場。来場者は「知る」だけでなく、実際に見たり触れたり、「体験する」ことで、持続可能な社会をよりリアルな未来として感じることができた。

ここでは、その展示の一部を「循環」「新しいエネルギー」「インクルーシブ」「いのちとテクノロジー」の4つの切り口から紹介していく。

循環

「循環」とは、資源を使い捨てするのではなく、再利用・再生を通じて未来へとつなげていく考え方であり、SDGsの達成に向けても欠かせない視点である。

①ごみを食べるパビリオン(日本館)

日本館

Photo by 経済産業省

役目を終えてごみとなったものが、次のいのちへと生まれ変わる様子を表現したインスタレーション。

この「循環」を建築と展示で表現したのが、日本館だ。円環状の建築をひとめぐりすると、日本の文化が育んできた循環の知恵と、その先に広がる無限の可能性を感じ取ることができる。また、「ごみを食べるパビリオン」と銘打っている日本館では、万博会場内で出た生ごみを微生物が分解し、水やエネルギーへ変換。そのエネルギーを日本館の電力の一部として活用しており、パビリオンそのもので循環を体現している。

日本館

Photo by 経済産業省

浄化した水が澄みきった水面となって現れる。

さらに、外周通路には見学することのできる実際に発酵を行なっている発酵タンクがあり、生ごみの処理過程で発生した排水を浄化し、無色透明に生まれ変わった水を巨大な水盤として展示している。インスタレーションでの演出や解説に加え、実物を目にすることで、循環は“理想”ではなく現実に実現可能な仕組みであることを来場者に強く印象づけた。

②建材にも循環の工夫

日本館

Photo by 経済産業省

木の板が円環状に立ち並ぶ外観。

日本館では、円を描くように立ち並ぶ無数のCLTという木の板を建材として主に使用。万博終了後にまた建築資材としてリユースできるよう、解体や転用のしやすさを意識してできる限り加工を抑えるなどの工夫がなされていた。

ブルーオーシャンドーム

Photo by ブルーオーシャンドーム

ドームの内側は紙管を組み合わせた骨組みになっている。

同じく海洋資源と環境をテーマにした「ブルーオーシャンドーム」でも、循環を意識した建材を採用。成長が早く、二酸化炭素を効率よく吸収する「竹」、鉄の1/5の軽さで4倍の強度を持つ「カーボンファイバー強化プラスチック」、そして再生紙からつくられた「紙管」。それぞれの特性を活かして建築に用いられ、閉幕後にはモルディブ共和国の海洋リゾートへ移設される予定だという。資源を使い捨てず、未来につなげる循環の発想が、建物そのもので体現されていた。

③サーキュラーエコノミーを楽しみながら学ぶ

循環の考え方を社会全体に広げたものが、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」だ。限りある資源を繰り返し使い、廃棄物を最少化することで環境への負荷を減らしながら持続可能な社会の実現につなげることができる仕組みである。
買うときや使うとき、また、使ったものを手放すときなど、日常の場面でどのような選択をすればサーキュラーエコノミーにつながるのか。その選択のコツを、体験を通じて学ぶことができるイベントが、経産省が期間限定で開催した「サーキュラーエコノミー研究所」だ。小学生に人気の『科学漫画サバイバルシリーズ』とコラボし、「かう」「つかう」「わける」「まわす」の4つの研究所で楽しく遊びながら実際にサーキュラーエコノミーを体感することができるというもの。

サーキュラーエコノミー研究所

Photo by 経済産業省

「わける」の研究所では使い終わったものを28種類に分別し、ごみではなく資源にすることを学ぶ。

謎解きを通して、買い物する際には、新品だけでなく中古品やレンタルといった選択肢があることを学べたり、ごみを28品目に分別して回収している「リサイクル率日本一」の鹿児島県大崎町のごみ分別をゲーム感覚で体験できたり。サーキュラーエコノミーが単なる概念ではなく、日常の生活の中で実践していくべき取り組みであることを、子どもから大人まで楽しみながら学ぶことができた。

新たなエネルギー

世界中でエネルギー需要が増大する一方で、資源枯渇の懸念や、環境への影響などが問題視されている。社会、経済、環境において大きな課題となっており、日本もエネルギー自給率の低さや、化石燃料への依存の高さ、再生エネルギー普及の遅れなど、問題を抱えている。

大阪・関西万博では、そんなエネルギー問題への取り組みが随所で実装されており、「新たなエネルギーのある社会」を体験できる貴重な機会となっていた。

①再生可能エネルギー

大阪ヘルスケアパビリオン

Photo by (公社)大阪パビリオン

再生可能エネルギーのなかでも身近なものといえるのが、太陽光発電ではないだろうか。近年、太陽光パネルを屋根に取り付けている住宅やビルも増えてきている。万博でも、大阪ヘルスケアパビリオンをはじめ、万博会場内の街灯、一部のスタッフユニフォームなど、さまざまなところに、ペロブスカイト太陽電池を搭載。従来の「屋根の上に置くもの」というイメージを超え、軽くて柔軟な構造を活かし、これまで難しかった場所にも設置できることを証明していた。再生可能エネルギーは特別な発電ではなく、毎日の暮らしに自然に組み込まれていくものへと進化している。

②循環型エネルギーの実践(日本館)

日本館

Photo by 経済産業省

バイオガスプラント内の発酵タンクは実際に稼働していた。

前述のように、日本館では万博会場で出た生ごみを、微生物の力で水やバイオガスへと分解。そのバイオガスを使って電気を生み出し、発電された電気を日本館の電力の一部として運用する仕組みが展示されていた。

これまでELEMINISTでも何度か取り上げてきたが、生ごみは水分を多く含むため、焼却処分する場合は多くのエネルギーを必要とすると同時に、二酸化炭素排出量も多い。そんな生ごみを循環させて新たな電力に変える様子を目の当たりにし、エネルギー問題に対して、明るい未来を期待させる展示となっていた。

③未来のエネルギー源(日本館)

日本館

Photo by 経済産業省

ファームエリアで実際に培養されている微細藻類。

日本館の「ファームエリア」では、さまざまな藻類の可能性を紹介。そのひとつが、微細藻類の「ボツリオコッカス」である。石油の主成分である炭化水素を生み出す性質を持ち、石油の代替品としての活用が期待されている。二酸化炭素を吸収して成長する上、培養可能で枯渇の心配もない。もし大規模に実用化できれば、地球温暖化対策や化石燃料依存からの脱却に大きく貢献すると考えられている、大注目の藻類だ。

いのちとテクノロジー

大阪ヘルスケアパビリオン

Photo by (公社)大阪パビリオン

大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を象徴するように、来場者が「いのち」について改めて考える展示も多く登場した。

大阪ヘルスケアパビリオンでは、カラダ測定ポッドによって健康データを測定。その結果をもとに生成された25年後の自分(アバター)に出会うことができる。未来の自分を見ることで、老いや健康など、自分のカラダ、そしていのちについて改めて考えるきっかけとなった。

大阪ヘルスケアパビリオン

主催者展示のパーソナルフードスタンド。質問に答えていくといま必要な栄養が含まれるサンプル品が貰える。

そのほか、カラダの状態に合わせて、AIが必要な栄養や食材、レシピを提案したり、いまの状態に合わせたパーソナルフードが自動販売機のように出てきたり、パビリオン内ではさまざまな未来のヘルスケアを展示。ここで表現されていたのは、病気になってから治療する社会ではなく、日常的に自分のカラダと向き合い、予防や未病を重視する未来の都市生活だ。最先端の技術が、単なる効率化ではなく、人がより長く健康で過ごすためのサポートツールとして活用されていた。

インクルーシブ

世界中から多くの人が集まる万博では、性別や年齢、人種、文化に関わらず、すべての人が安心して楽しめる環境づくりも重視されている。

その一例が、会場内に設けられた「オールジェンダートイレ」。男女別トイレと同じくらいの人が並び、多くの人が活用しているのが印象的であった。また、会場や一部のパビリオンには「カームダウン・クールダウンルーム」を導入。光や音といった刺激を抑えた空間で、外出に不安を抱える人も安心して過ごせるよう配慮されている。

さらに、多文化共生を意識した取り組みとして、祈祷室を設置。祈りや黙想、瞑想といった多様な宗教・文化的営みを尊重できる空間が用意されていた。世界各地から人が訪れる万博ならではの設備であり、文化や信仰の違いを受け入れる姿勢が形として表れていた。

体験を日常に活かす、サステナブルな行動へ

テーマの通り「いのち」に向き合うきっかけが散りばめられていた大阪・関西万博。いまここにいる自分が“未来を生きていく自分”でもあることを認識することで、いのちや健康の尊さ、自分自身も循環の一部であるという実感を得られる展示ばかりだった。

同時に、これから生きる未来の地球について真剣に考えるきっかけともなり、持続可能な社会を実現する意義を、より自分ごととして感じられた来場者も多かっただろう。テクノロジーによる明るい未来をほんの少しだけ垣間見ることができたのではないだろうか。

環境問題のニュースではネガティブな話題が目立つことも多いが、万博では微細藻類の活躍をはじめ、希望を感じさせる展示が数多くあった。再生可能エネルギーやサーキュラーエコノミーの仕組みなど、日常生活に生かせるヒントも随所に示されていた。

テクノロジーと共生しながら、環境に配慮した製品を選んだり、ごみを正しく分別したりといった、私たちの日々の小さな行動も、積み重なれば大きな変化となっていく。大阪・関西万博から得た学びを暮らしに取り入れ、続けていくことこそ、「いのち輝く未来社会」への一歩となるはずだ。

取材・執筆/永原彩代 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2025年11月1日時点のものです。

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