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海藻からつくられた生分解性のインクがある。これを使用したアート・プロジェクトをWWF(世界自然保護基金)と、ロンドンのアートキュレーター団体が共同で開催した。

聖京香/Kyoka Hijiri
ライター
イギリス在住25年のフリーランスWebライター。好きなものに囲まれながらも無駄を失くし、丁寧かつサステナブルな暮らしを目指して精進中。好きなものは猫と本と森林浴。
スコットランドのオーシャニアム(Oceanium)社は、水性インク「OCEAN INK®」を製造する。この原料となるのは、持続可能な方法で養殖された海藻で、できたインクは生分解性だ。
海藻は一般的に、成長が早く、伐採を必要としない。石油系溶剤を原料とするインクと比べると、環境への負荷が小さい。
そんなインクを使った初めての展覧会となったのが、2025年5月にロンドンで開かれたアート・プロジェクト「Art For Your Oceans(以下AFYO)」。これは、WWF(世界自然保護基金)と、ロンドンのアートキュレーター団体・Artwise Curators(アートワイズ・キュレーター)が共同で開催した、海洋保全をテーマにしたプロジェクトだ。
この取り組みは、アートの力で「海洋の健全性」への理解を深め、人々の行動変化を促すことを目的としている。
Photo by Image courtesy, Emma Talbot.
Selkie: Every Dream of the Future Calls You to Return. 2025 Seaweed Ink and Acrylic on Silk and Recycled Silk. 160x110cm
海は地球の表面積の約70%を覆っている。そして、 世界で供給される酸素の半分以上は海から供給され、なおかつ二酸化炭素の4分の1以上を海が吸収している。まさに、地球の生命を支える存在だ。
地球の平均気温の上昇を産業革命前より1.5℃未満に抑えようというパリ協定の目標の達成が危ういなか、海藻は海洋の健全性を保ち、気候変動の進行を緩和させ、生物多様性を守るためにも大切だ。
さらに、海藻は栄養価が高く、メタンガス削減のための動物飼料の代替品や、代替バイオプラスチックになる可能性も期待されている。
そこで、海藻や海の大切さに目を向けてもらおうと開かれたのが、本展覧会だ。
完成した作品はロンドンのサザビーズ、続いてヘイスティングス・コンテンポラリーでの展覧会で公開され、観客はアートを通じて海の現実を感じることができる。数字やデータでは伝わらない「海の声」が、色と形によって直接心に届いたようだ。
視覚と感覚の両面から海の現状を伝える試みがなされ、アーティストたちは「美しいだけの海を描くのではなく、いまの海を見つめ直すための作品をつくりたい」と語る。
このプロジェクトは、単なる展示会で終わらない。売上は、海洋生態系の回復や汚染対策を含む海洋保護活動を支援するため、WWFに寄付されている。
海藻インクで描かれた作品は美しいだけでなく、私たちの「選択」を映し出す鏡でもあるだろう。環境に配慮された商品を選ぶこと、使い捨てを減らすこと、海に関する活動へ関心を向けること──それらの積み重ねこそが、未来の海の色を変えていく力にきっとなるだろう。
※参考
Art For Your Oceans Press Release | WWF
Drawing from the deep: seaweed ink makes waves for ocean conservation | Positive. News
Art For Your Oceans an exhibition devised to raise funds & awareness for pioneering ocean conservation initiatives | FAD Magazine
Artwise Curators
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