「海藻からできたインク」で海洋の健全性を伝えるアート展

海藻インク Art For Your Oceans アートプロジェクト

Photo by Thomas Peham on Unsplash

海藻からつくられた生分解性のインクがある。これを使用したアート・プロジェクトをWWF(世界自然保護基金)と、ロンドンのアートキュレーター団体が共同で開催した。

聖京香/Kyoka Hijiri

ライター

イギリス在住25年のフリーランスWebライター。好きなものに囲まれながらも無駄を失くし、丁寧かつサステナブルな暮らしを目指して精進中。好きなものは猫と本と森林浴。

2025.10.22

海藻インクがもたらす環境へのインパクト

スコットランドのオーシャニアム(Oceanium)社は、水性インク「OCEAN INK®」を製造する。この原料となるのは、持続可能な方法で養殖された海藻で、できたインクは生分解性だ。

海藻は一般的に、成長が早く、伐採を必要としない。石油系溶剤を原料とするインクと比べると、環境への負荷が小さい。

そんなインクを使った初めての展覧会となったのが、2025年5月にロンドンで開かれたアート・プロジェクト「Art For Your Oceans(以下AFYO)」。これは、WWF(世界自然保護基金)と、ロンドンのアートキュレーター団体・Artwise Curators(アートワイズ・キュレーター)が共同で開催した、海洋保全をテーマにしたプロジェクトだ。

この取り組みは、アートの力で「海洋の健全性」への理解を深め、人々の行動変化を促すことを目的としている。

アートが変える「海を見る目」

海藻からできたインクを使ったアート作品

Photo by Image courtesy, Emma Talbot.

Selkie: Every Dream of the Future Calls You to Return. 2025 Seaweed Ink and Acrylic on Silk and Recycled Silk. 160x110cm

海は地球の表面積の約70%を覆っている。そして、 世界で供給される酸素の半分以上は海から供給され、なおかつ二酸化炭素の4分の1以上を海が吸収している。まさに、地球の生命を支える存在だ。

地球の平均気温の上昇を産業革命前より1.5℃未満に抑えようというパリ協定の目標の達成が危ういなか、海藻は海洋の健全性を保ち、気候変動の進行を緩和させ、生物多様性を守るためにも大切だ。

さらに、海藻は栄養価が高く、メタンガス削減のための動物飼料の代替品や、代替バイオプラスチックになる可能性も期待されている。

そこで、海藻や海の大切さに目を向けてもらおうと開かれたのが、本展覧会だ。

完成した作品はロンドンのサザビーズ、続いてヘイスティングス・コンテンポラリーでの展覧会で公開され、観客はアートを通じて海の現実を感じることができる。数字やデータでは伝わらない「海の声」が、色と形によって直接心に届いたようだ。

視覚と感覚の両面から海の現状を伝える試みがなされ、アーティストたちは「美しいだけの海を描くのではなく、いまの海を見つめ直すための作品をつくりたい」と語る。

このプロジェクトは、単なる展示会で終わらない。売上は、海洋生態系の回復や汚染対策を含む海洋保護活動を支援するため、WWFに寄付されている。

海藻インクで描かれた作品は美しいだけでなく、私たちの「選択」を映し出す鏡でもあるだろう。環境に配慮された商品を選ぶこと、使い捨てを減らすこと、海に関する活動へ関心を向けること──それらの積み重ねこそが、未来の海の色を変えていく力にきっとなるだろう。

※掲載している情報は、2025年10月22日時点のものです。

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