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欧州のファッション業界ではいま、大きな変化が生まれつつある。強まるファストファッション規制と批判を背景に、イギリスでは「メイドインUK」が復興の兆しを見せ始めた。地産地消と職人技に支えられた高品質なものづくり―それこそが英国製ファッションの真価かもしれない。
聖京香/Kyoka Hijiri
ライター
イギリス在住25年のフリーランスWebライター。好きなものに囲まれながらも無駄を失くし、丁寧かつサステナブルな暮らしを目指して精進中。好きなものは猫と本と森林浴。
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英国の首都ロンドンでは20世紀の大半を通じて製造業が盛んで、膨大な量の衣類や靴、アクセサリ―が生産されてきた。1930年代には英国でつくられた衣類の45%がロンドン製であり、ソ―ホ―周辺は「ホールセール・クチュール(高級ファッションの卸)」の中心地と呼ばれていた。
そして、かつて「メイドインUK」といえば、生産のすべてを英国内で完結させることを意味していた。
しかし、英国内で栽培される綿などの原料の減少や職人不足、少量生産によるコスト高といった課題が国内生産の壁に。さらに、安価に販売されるファストファッションの台頭の影響も受け、メイドインUKの文化は急速に衰退。イギリスのファッション業界も他の欧州諸国と同様に、海外生産の輸入品に依存するようになった。
だがEUでは近年、ファストファッションは大量生産・大量廃棄によって環境破壊を助長し、安価かつ劣悪な環境下での労働につながるとし、ファストファッションの規制を強化。加えて、環境問題への意識の高まりも加わり、英国では国内生産の価値が見直され始めている。
メイドインUK 復興を支えるのは、単なるローカル生産への回帰ではない。輸送距離を短縮し、サプライチェーンをシンプルにすることで地域経済を下支えし、供給の透明性を確保できる点も評価されている。
たとえば、ニットウェアなどを扱うブランド「Herd」は、イギリスの伝統的な羊毛を用いたニットウェアを展開している。製品は半径約240km圏内の小規模サプライチェーンで生産され、地域資源を循環させる仕組みを築いている。
品質の高さと「長く使える服づくり」の精神こそが、支持される理由だろう。
伝統と文化に裏打ちされた基盤があるからこそ、メイドインUKの復興は一過性のブ―ムではなく産業構造の変革ももたらす可能性を秘めている。
英国内には縫製工場のネットワ―クが、いまなお点在している。縮小を余儀なくされたとはいえ、熟練職人や小規模メ―カ―は技術を受け継いできた。その存在があったからこそ、需要回復に応じて再び生産を拡大できる体制が整いつつある。
だが、国内生産品は人件費などのコストが高くなるため、物価高に苦しむ社会には、コスト面が大きなハードルになる。
一方で、生産現場が近くなれば生産背景の透明性が高まるメリットもある。米国の輸入関税の問題もあり、環境意識の高まりとともに、国内回帰の潮流が生まれつつあるようだ。
安価なファストファッションに依存する社会から、資源と地域を尊重する循環型ファッションへ。EUの規制強化や消費者の意識変化に支えられ、メイドインUKの衣類は単なるブランドラベルを超え、持続可能な未来を象徴する存在となりつつあるのかもしれない。
※参考
‘Made In Britain’ Is Making A Comeback—Here Are The Labels Behind Its Reviva|Marie Claire
EU clamps down on food waste, fast fashion|France24
Why Supporting British Manufacturing Matters in 2025: A Call to Action for UK Fashion and Small Businesses|Top Down Trading
Why fashion manufacturing moved away from London|London Museum
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