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近年、減少の一途をたどる生垣(いけがき)を保護・増やすために、イギリスではさまざまな取り組みが行われている。その動きを後押しするような研究結果が新たに発表された。生垣によって、土壌の炭素貯留量が約40%増えるというのだ。
Kojiro Nishida
編集者・ライター
イギリス、イースト・ミッドランズ地方在住。東京の出版社で雑誌編集に携わったのちフリーランスに。ガーデニングとバードウォッチングが趣味。
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イギリスの田園風景に欠かすことのできない生垣。隣接する土地や道路との境界を示すために古くから利用されてきたものだが、生垣を植えることで土壌の炭素貯留量が増加することがリーズ大学の研究によって明らかになった。
この調査はイングランド北部のヨークシャー地方、カンブリア地方、そして南部のウェスト・サセックス地方の5箇所、計9つの農場から採取した土壌のサンプルを分析したもの。生垣の下の土壌は、隣接する草地と比べて1ヘクタールあたり平均40トン多くの炭素を貯留していた。これは、生垣のない土地に比べておよそ40%の増加だ。落ち葉や根などの有機物が土壌に取り込まれることが理由だと考えられている。
気候や気温、降水量、土壌タイプなどの条件が異なる5箇所のすべてのサンプルで、炭素貯留量が増加していたことから、イギリス全土で同様の傾向がみられると期待できる。
農地では、植物の光合成によりCO2が吸収され、そのCO2が微生物によって分解されるというように、大気、植物、土壌の間で炭素の循環が行われている。つまり、土壌の炭素貯留量が増加することは、大気中のCO2の減少につながるのだ。
そもそも生垣がイギリスで一般的に使われるようになったのは、19世紀初頭に行われた「囲い込み(エンクロージャー)」がきっかけ。土地の所有者を明確にし、羊や牛などの家畜が移動するのを防ぐために、この時期に多くの生垣がイギリス全土で植えられた。
それ以前から存在している生垣も多く、例えば南西部のデヴォン州では、現存する生垣の約4分の1が800年以上前につくられたものと考えられている。
しかし、20世紀中頃から食料や資源の生産量を増やすために農地が拡大されるようになり、土地を隔てていた生垣の多くが取り払われてきた。
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生垣が自然環境にもたらすメリットは、土壌の炭素貯留だけではない。蝶や蜂、コウモリ、鳥類、ハリネズミ、ヨーロッパヤマネなどの哺乳類に至るまで、イギリスで見つけられる野生生物の多くが生垣に巣をつくったり、餌場にしたり、天敵から身を隠すためのシェルターにしたり、さまざまに利用しているのだ。
生垣を増やすことは生物多様性を豊かにすることにもつながる。
リーズ大学の研究では、古い生垣の下にある土壌は、若い生垣の植えられている土壌よりも多くの炭素を貯留していた一方で、貯留できる炭素量には上限があることも明らかになった。そのため現存するものを残しつつ新たな生垣を植えていくことが重要だ。
イギリス政府は、2050年までにイングランドに72,500kmの生垣を植える目標を発表しているほか、英国気候変動委員会は、同年までに生垣のネットワークを40%増加させることを提案している。
近年では、よりはっきりと境界を示すことができ、剪定などの手間もかからない鉄柵や木製フェンスの利用も増えていたイギリス。今回の研究結果を受け、伝統的な境界線である生垣へと回帰していく動きはますます大きくなりそうだ。
※参考
Hedgerows increase soil carbon storage by 40%, study finds|Phys.org
Hedges of Biodiversity|National Geographic
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