PCAFとは? 金融業界の脱炭素化を支える新基準

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世界初金融機関の環境イニシアチブ「PCAF」。PCAFの概要や設立背景、金融機関が加盟するメリット、そして持続可能な経済への移行に向けた重要な役割などについて詳しく解説する。PCAFの導入により、金融機関においても気候リスクに対応し、責任ある投資戦略を策定することが可能になる。

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2024.10.31
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PCAFとは

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PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)とは、金融機関が自社の投融資ポートフォリオに関連する温室効果ガス(GHG)排出量を測定・開示するための国際的なイニシアチブである。

金融機関は、自らの直接的なGHG排出量だけでなく、投資先や融資先企業が排出する間接的なGHG排出量も考慮する必要があり、PCAFはこれを正確に測定し報告するための具体的な基準を提供している。PCAFは2015年にオランダで設立され、現在は世界中の銀行、保険会社、資産運用会社などが加盟し、どのように脱炭素化に貢献できるかを具体的に示すための重要な枠組みとなっている。

背景

PCAFが設立された背景には、気候変動問題が世界的な課題となり、とくに金融業界が果たすべき役割が注目されたことがある。金融機関は、直接的なGHG排出は少ないが、投融資先の企業活動を通じて間接的に膨大なGHG排出に関与している。このため、投融資活動におけるGHG排出量を正確に測定し、それに基づいてリスクを評価することが、持続可能な経済への移行に必要とされた。

2015年のパリ協定の採択により、各国政府や企業が気候変動対策を加速させる中、金融機関も自らの役割を再定義する必要が生まれた。金融機関が気候リスクを考慮した投資判断を行い、資金の流れを再生可能エネルギーや低炭素技術に振り向けることが重要視されるようになった。その中でPCAFが設立され、これにより金融機関は自らの投融資活動が環境にどのような影響を与えているのかを可視化することが可能となった。

目的

PCAFの目的は、金融機関が自らの投融資ポートフォリオに関連するGHG排出量を定量化し、それを一貫性のある基準に基づいて報告することである。これにより金融機関は自らの投融資活動が気候変動に与える影響を明確にし、気候リスクを管理しやすくなる。金融業界は、自社の直接的な排出量のみならず、投融資先企業の排出も含めて評価する必要があり、PCAFはそのための標準化された方法を提供する。これにより金融機関は気候変動リスクの管理を強化し、持続可能な未来に向けた投資戦略を策定することが可能になる。

PCAFスタンダードとは

PCAFスタンダードとは、2020年11月にPCAFが作成した「金融業界のためのグローバル温室効果ガス計測、報告スタンダード」のことで、金融機関が自らの投融資ポートフォリオに関連するGHG排出量を測定し、開示するための統一基準を意味する。このスタンダードは、金融機関が自身の活動の環境影響を定量化し、透明性を高めることを目的としており、世界中の金融機関が共通の方法論に基づいてGHG排出量を報告できるよう設計されている。

一方、GHGプロトコルも企業全体のGHG排出を測定するための国際的な基準であり、PCAFスタンダードと共通点を持つが、焦点が異なる。GHGプロトコルは企業が直接排出するGHG(Scope 1)、エネルギー消費による排出(Scope 2)、さらにはサプライチェーン全体を含む間接排出(Scope 3)をカバーする包括的な枠組みである。

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PCAFに加盟するメリット

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金融機関がPCAFに加盟することで、いくつかの重要なメリットが得られる。以下では、その具体的なメリットを詳しく解説する。

透明性の向上

PCAFに加盟することで、金融機関は自社の投融資ポートフォリオに関連するGHG排出量をより詳細に把握することが可能となる。これにより、自社がどの程度の環境負荷を間接的に生み出しているのかを可視化し、その情報を投資家や顧客、規制当局に対して透明性をもって開示できる。環境に対する責任を果たす企業であると示すことで、信頼を高めるだけでなく、環境に配慮した投資を重視するESG(環境・社会・ガバナンス)投資家からの評価も向上する。

またPCAFは投資家や規制当局、さらには社会全体に対して、金融機関が環境に対する責任をどのように果たしているかを示すためのツールでもある。この透明性は、サステナブルな投資の促進と、金融機関が低炭素経済への移行を支援するための行動を強化することを目的としている。結果として、PCAFは金融機関が持続可能な経済発展に寄与し、気候変動への対応を強化するための重要な基盤となるのだ。

社会的責任への対応

PCAFに加盟することは、金融機関が社会的責任に応えるための重要な手段である。現代において、企業が持続可能性や環境への配慮を求められる中、金融機関も例外ではない。とくに気候変動に対する取り組みは、社会からの強い要請となっている。PCAFに参加することで、金融機関は投融資ポートフォリオに関連するGHG排出量を透明に開示し、気候変動の緩和に貢献する姿勢を示すことができる。

またPCAFを通じたGHG排出量の測定・報告は、金融機関が社会に対してどのように持続可能な経済成長に貢献しているかを具体的に示す手段となる。これにより、顧客や投資家、規制当局など、広範なステークホルダーからの信頼を高められる。

投資戦略の最適化

PCAFに加盟することにより、金融機関は持続可能な投資先を選定し、長期的なリターンを最大化するための戦略を策定できる。GHG排出量の測定データを基に、どの産業や企業が気候リスクに対して脆弱であるかを評価し、よりリスクの少ない、持続可能なビジネスモデルを持つ企業に投資を集中させることが可能になる。

また脱炭素化を進める企業や再生可能エネルギー事業に対する投資を増やすことで、持続可能な成長を支援しながら、長期的な投資パフォーマンスの向上が期待できる。さらに気候変動リスクを軽減する投資戦略を採用することで、資金の流れを持続可能な方向にシフトさせることができる。これにより、金融機関は社会全体の脱炭素化への貢献度を高めるだけでなく、気候変動に伴う財務リスクを抑えることができる。

とくに炭素集約型産業への依存度を減らし、低炭素経済への移行を支援する企業やプロジェクトに投資することで、長期的な市場の変動にも柔軟に対応できる体制を整えられる。

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PCAFに加盟している主な企業

PCAFには世界中の主要な金融機関が加盟しており、各企業は自社のポートフォリオにおけるGHG排出量の測定と削減に積極的に取り組んでいる。ここでは、国内外の代表的な金融機関とその具体的な取り組みを紹介していく。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(日本)

日本最大級の金融グループである三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、カーボンニュートラルに向けた取り組みの一環としてPCAFを活用し、投融資ポートフォリオのGHG排出量の測定と透明性向上に努めている。PCAFは金融機関向けに標準化された排出量計算のフレームワークを提供しており、MUFGはその基準に基づきデータの質を向上させ、信頼性の高い情報開示を目指している。

またMUFGは2021年にNet-Zero Banking Alliance(NZBA)に加盟し、2050年までの投融資ポートフォリオのネットゼロ実現を目指す中で、2030年の中間目標を設定している。目標設定には科学的アプローチを採用し、国際エネルギー機関(IEA)のシナリオやPCAFスコアを活用してデータの質を確認しつつ、セクターごとの特性に応じた具体的な支援を行っている。(※1)

みずほフィナンシャルグループ(日本)

みずほフィナンシャルグループは、日本の金融機関として初めてPCAFに加盟した企業で、投融資を通じたGHG排出量の測定と開示に取り組んでいる。みずほは2050年のカーボンニュートラル達成を目指し、パリ協定と整合したポートフォリオへの移行を推進している。投融資を通じたScope3排出量に関する中長期目標を設定し、その実現に向けた基礎となるデータをPCAFの手法を用いて測定・公表している。さらにPCAF加盟金融機関との連携を深め、アジア太平洋地域における排出量測定の取り組みを支援し、この地域においてリーダーシップを発揮している。(※2)

シティグループ(アメリカ)

シティグループは、2050年までに炭素排出量ネットゼロを達成するため、PCAFを通じて投融資ポートフォリオにおけるGHG排出量の測定・開示を行い、Scope3の排出量を算出し、その削減を目指している。2030年までにエネルギーおよび電力ポートフォリオのGHG排出量を大幅に削減する中間目標を設定しており、これに基づき、クリーンテクノロジーへの資金提供やお客様の移行計画の支援を進めている。

また、移行計画の進展に合わせたポートフォリオ管理や気候リスクの管理にも注力している。さらにシティはネットゼロへの移行を、気候変動に関する国際的な規制や政策と整合させるだけでなく、低所得層や新興国を含む脆弱なコミュニティに対する影響にも配慮している。こうしたコミュニティが気候変動の影響をもっとも受けやすいと認識し、持続可能な経済成長と環境保護の両立を図ることを目指している。(※3)

東京海上ホールディングス(日本)

東京海上ホールディングスは、2022年1月にPCAFに加盟。これまで上場株式や社債、商用ローン、プロジェクトファイナンス、住宅ローン、自動車ローン、ソブリン債といった投融資に関するGHG排出量を計測する手法の開発、公表を行ってきた。

さらに2022年11月には、保険引受ポートフォリオに関するGHG排出量の測定手法も開発、公表している。これにより保険業務におけるGHG排出量の計測も可能となり、気候変動対策の透明性を一層高められるようになった。東京海上ホールディングスは、GHG温室効果ガス排出量の計測・分析技術のさらなる向上を目指し、投融資先との質の高いエンゲージメントを継続的に行っている。(※4)

PCAFの重要性と今後の展望

緑の木々と茶色の野原

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PCAFは、金融機関がGHG排出量を定量化し、持続可能な経済への移行を支援するための重要なツールである。金融機関は自らの投融資活動がどのように環境へ影響を与えるかを明確に把握し、そのデータに基づいて持続可能性を考慮した意思決定を行う必要がある。PCAFスタンダードを用いることで、金融機関は気候変動リスクに対応し、責任ある投資を促進できる。この取り組みは今後さらに重要性を増し、持続可能な投資の主流化に寄与することが期待される。

※掲載している情報は、2024年10月31日時点のものです。

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