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スマートシティとはデジタル技術によってもたらされる進化した都市構想のことである。IoTやAIなど最先端の技術を利用した街づくりを行うことで、交通や居住、安全性などの都市機能が向上するとされている。一方で、実現のためにはまだ課題も多い。この記事では、スマートシティについて解説する。
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スマートシティとは、最新技術やデータを活用して都市の持続可能性や効率を向上させる都市モデルである。主にIoT、AI、ビッグデータ、5G、クリーンエネルギーといった技術を活かし、交通、エネルギー管理、行政サービス、生活の安全性や利便性を最適化することを目指す。都市の抱える問題、例えば渋滞、エネルギー効率、環境負荷を解決するだけでなく、将来的には持続可能な生活環境を創り出すことが期待されている。(※1)
スマートシティは、人々の生活をより豊かにし、社会全体の効率を高めることを目標としている。従来の都市モデルでは解決できなかった都市の複雑な問題を、新しい技術を活用することで解決し、環境にやさしく、住みやすい都市を実現する。なかでも環境負荷の削減や、より柔軟で持続可能な都市のインフラ構築に焦点が当てられることが多い。(※2)
スマートシティとスーパーシティは、技術活用という点では共通しているが、スーパーシティはより広範な分野で先進技術を活かし、規制緩和も伴う都市構想である。スマートシティは主にICTを活用して効率化を目指すのに対し、スーパーシティは住民参加型で未来社会の早期実現を目指し、国家戦略特区に選ばれた地域で実証が進められるのが特徴だ。(※3)
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ここでは、スマートシティ構想を実現するための核となる、4つの技術を紹介する。
IoTはスマートシティの基盤技術であり、街中のあらゆるデバイスや設備がネットワークでつながることで、データをリアルタイムで共有し、効率的な都市管理を実現する。センサーやカメラ、スマートデバイスが街全体に張り巡らされ、交通の流れやエネルギー消費を監視、最適化する。
ビッグデータとAIは、スマートシティの運営に不可欠な技術である。膨大なデータを収集・分析することで、都市の需要を予測し、効率的なインフラ運用をサポートする。例えばAIを活用して交通信号を最適化する、エネルギー使用量を調整するなど、都市全体の自動化と効率化が進められている。
5Gは、スマートシティにおける高速通信の要である。リアルタイムで膨大なデータを送受信できるため、遠隔医療や自動運転車、スマートホームの導入が加速する。また、データを駆使した新しいサービスの展開も期待されている。
スマートシティでは、クリーンエネルギーの利用とエネルギー管理の最適化が重視されている。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを効率的に管理し、スマートグリッドで電力を必要な場所に供給することで、エネルギーの無駄を省き、CO2排出の削減を図る。
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スマートシティが注目される背景には、都市化の急速な進展や地球規模の課題への対応がある。現在、世界の人口の7割が2050年までに都市部に集中すると予測されており、交通渋滞、エネルギー供給のひっ迫、廃棄物処理など、都市問題の深刻化が懸念されている。また気候変動による災害の頻発や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような感染症対策の重要性も高まっている。さらにSDGs(持続可能な開発目標)のような環境意識の高まりもスマートシティの推進を加速させている。なかでもSDGsの11番目の目標「持続可能な都市づくり」は、エネルギー消費やCO2排出量の削減、都市インフラの強化、災害対策などに焦点を当てており、スマートシティはこれらの問題解決に向けたソリューションとされている。(※2)
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スマートシティが実現することで得られる効果やソリューションを紹介する。(※2)
スマートシティの導入により、交通の効率化と渋滞緩和が実現する。IoT技術を活用し、リアルタイムで交通データを収集・分析することで、最適な交通ルートや信号制御が行われる。そのため渋滞が減少し、通勤時間の短縮や事故のリスク軽減が期待できる。さらに交通手段を最適に組み合わせて検索・予約・決済を一括で行い、公共交通機関の利用を促進するMaaS(Mobility as a Service)も導入され、都市全体の移動効率が向上する。
スマートシティでは、エネルギーの効率的な管理が行われる。電力量をコントロールするスマートグリッドの導入により、需要と供給のバランスがリアルタイムで調整され、無駄なエネルギー消費が削減される。再生可能エネルギーの利用も拡大し、温室効果ガスの排出量削減にもつながるだろう。
スマートシティでは行政サービスのデジタル化が進み、住民の利便性が向上する。オンラインでの行政手続きや、AIを活用した自動化システムにより、役所での待ち時間が削減される。さらにデータの共有と分析により行政の効率化も図られ、住民のニーズに迅速に対応できるようになる。
IoTやAI技術を活用することで、住民の生活がより快適で安全になる。例えばスマートホームシステムによって家庭内の電化製品が遠隔操作できるようになり、エネルギー管理や防犯対策も強化される。また都市全体の防犯カメラやセンサーが統合されることで、犯罪防止や災害時の迅速な対応が可能となり、より安全性の高い環境を構築できる。
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ここまでを見るとスマートシティは理想的なユートピアのように思えるが、実現に向けていくつかの課題もある。なお内閣府の発行する『スマートシティガイドブック』では、これらの課題に対する原則を紹介しているので合わせて参照してほしい。(※4)
スマートシティでは大量のデータが収集・共有されるため、プライバシーとデータセキュリティが大きな課題となる。住民の個人情報が外部に漏洩しないよう、厳格なデータ管理とセキュリティ対策が必要である。またデータ利用の透明性を確保し、住民の信頼を得るためのルールづくりも重要である。
スマートシティを実現するためには、膨大な技術導入やインフラ整備が必要となり、そのコストが課題となる。大都市はともかく、中小規模の自治体では予算不足や技術面でのリソースが限られているため、国や企業との連携が不可欠である。効率的な資金調達と、段階的な導入計画が求められる。
日本のような高齢化社会では、スマートシティの技術が高齢者にとって使いやすいものでなければならない。ICTやAIを活用した介護支援や医療サービスの提供が進められる一方で、高齢者が新技術に対応できるよう、デジタルリテラシー向上の支援も必要である。
スマートシティ導入における地域間格差やデジタルデバイドも課題である。都市部と地方の技術導入スピードには差があり、インフラ整備が遅れている地域ではスマートシティの恩恵を十分に受けられない可能性がある。国全体での技術支援と、地方自治体へのバックアップが求められている。
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日本の各自治体でもスマートシティへの取り組みが進みつつある。ここでは、現在国内で着手されているスマートシティ構想を紹介する。
東京都の大手町・丸の内・有楽町地区では、スマートシティの取り組みが進んでいる。産官学の連携によりデジタル技術を活用した都市運営が行われており、交通インフラの効率化やエネルギー管理の最適化が実現している。この地区は、日本の国際競争力向上を目指すモデル都市として注目されている。(※5)
静岡県裾野市にトヨタが開発中の「ウーブン・シティ」は、先端技術を導入した実験都市である。AI、自動運転、スマートホームなどの技術が導入され、住民の生活を支える。約2,000人が暮らすこの都市は、新たな技術の検証と実用化に向けた実証実験の場となっており、未来の都市モデルが模索されている。(※6)
千葉県柏市に位置する「柏の葉スマートシティ」は、環境共生、健康長寿、新産業創造をテーマに掲げた持続可能な都市づくりが進められている。公民学の連携を活かし、超高齢化社会への対応や新たな産業の育成を目指しており、世界の未来像を示す先進的な取り組みとして評価されている。(※7)
札幌市の「DATA-SMART CITY SAPPORO」は、地域のデータを活用したスマートシティ構築プロジェクトである。官民のデータを共有・活用し、地域課題の解決や市民サービスの向上を目指す。地域で発生したデータをその地域で生かす「データの地産地消」が特徴で、新たな価値創出を図る取り組みが進行中だ。(※8)
福岡県北九州市では、スマートグリッドを活用した「北九州スマートコミュニティ創造事業」が展開されている。スマートメーターを設置し、電力需給に応じて料金を変動させるダイナミックプライシングを導入。これにより省エネ効果を実現し、地域全体のエネルギーマネジメントを進める取り組みが行われている。(※9)
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次に、海外の事例も見ていこう。スマートシティに積極的に取り組む5つの国での事例を紹介する。
アムステルダムは2009年に「アムステルダム・スマートシティ・プログラム(ASC)」を開始し、スマートシティの先駆けとなった。地域住民、企業、教育機関、政府が連携し、電気自動車やスマートライティングなど、持続可能な都市づくりを目指すプロジェクトが数多く進行している。また2025年までにCO2排出量を40%削減する目標を掲げ、エネルギー管理や交通インフラの改善にも取り組んでいる。(※10)
ヘルシンキは、2016年に世界初のMaaS(Mobility as a Service)を実用化した都市だ。交通手段の情報検索や予約、決済を一元化したこのシステムにより、移動の利便性が大きく向上した。ヘルシンキは、オープンデータを活用した「Helsinki Region Infoshare(HRI)」を提供し、都市情報を市民や企業に公開。この取り組みによって、観光や教育、ヘルスケアなどさまざまな分野でのイノベーションが生まれている。(※11)
シカゴは、2015年に「Array of Things (AoT)」と呼ばれるIoTプロジェクトを開始し、都市データのリアルタイム収集を行っている。センサーを使い、大気質、温湿度、騒音、交通渋滞などのデータを集め、都市の問題解決に役立てている。AoTは市民や研究者にオープンデータとして公開され、環境保全や都市計画に幅広く活用されている。(※12)
バルセロナは、スマートシティの技術を多岐にわたり活用している都市である。街に設置されたセンサーを通じて交通渋滞の抑制やエネルギー管理を行い、水資源の節約や大気汚染削減に貢献している。また歩行者優先の「スーパーブロックプロジェクト」も進行中で、都市の車道を減らし、コミュニティスペースの創出に成功している。(※13)
シンガポールは、2014年に「Smart Nation Initiative」を発表し、スマート国家を目指した取り組みを進めている。交通、住環境、高齢化といった都市課題の解決を目指し、データと技術を積極的に活用している。3Dマップ「バーチャル・シンガポール」を通じて、都市計画や交通シミュレーション、環境への影響をリアルタイムで把握できるシステムを展開している。(※14)
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スマートシティは都市の課題を解決し、持続可能な未来を築くための先進的な取り組みだ。世界中でさまざまな都市がその実現に向けた挑戦を続けており、技術革新とデータ活用によって実現を目指している。実現すれば、環境保全やエネルギー管理、交通効率化など、都市機能や生活のしやすさが格段に向上するだろう。今後、技術進化とともにスマートシティがどのように発展するか注目したい。
※1 スマートシティに関する取り組み|国土交通省
※2 日本のスマートシティ|首相官邸
※3「スーパーシティ」構想について|内閣府
※4スマートシティガイドブック|内閣府
※5スマートシティ|一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会
※6ウーブン・シティ」トヨタ
※7柏の葉スマートシティ
※8DATA-SMART CITY SAPPORO
※9北九州スマートコミュニティ創造事業
※10循環経済とCO2削減に対して野心的なアムステルダムのスマートシティ - Beyond X 最前 線 | 未来図(ミライズ)
※11欧州のスマートシティ戦略 フィンランドのスマートシティを中心に|内閣府
※12Array of Things (AoT)
※13Barcelona Digital City
※14Smart Nation Initiative
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