わずか0.5cmで温度を2℃下げる 「ペットボトル由来の新素材」シンガポール国立大学が開発

太陽の写真

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シンガポール国立大学の研究チームが、ペットボトルから放射冷却に優れたエアロゲルを開発。これまで航空宇宙産業で断熱材として使われてきた素材を次のステージに引き上げた。低エネルギー消費社会実現のカギになると期待される。

Naoko Tsutsumi

エディター/ライター

兵庫県出身。情報誌、カルチャー誌、機内誌など幅広いジャンルの媒体の編集に携わる。コロナ禍にシンガポールへ移住。「住む」と「旅」の視点の違いに興味を持ち、地域の文化の違いを楽しんでいる。

2024.06.25
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画期的なエアロゲルは廃棄ペットボトル由来

エアロゲルとは、非常に軽くて断熱性の高い物質だ。90%以上が空気で構成されており、その見た目から“凍った煙”とも言われる。当初は航空宇宙産業における断熱材として開発されていたが、地球環境の深刻化が加速するなか、エアロゲルの極めて高い断熱性能の実用化・量産化の研究が世界中で進められている。

シンガポール国立大学(NUS)機械工学の科学者たちが発表したエアロゲルは、使い捨てのペットボトルをアップサイクルしたものだ。さらに、放射冷却と断熱の両方の機能を持つ。

熱管理に対応する優れた素材でありながら、拡張性が高く持続可能。おまけに、世界各国で生まれるペットボトルごみを再利用できるとあって、低エネルギー消費社会実現のカギとなりそうだ。

わずか0.5cmのエアロゲルが建物の温度を2℃下げる

ペットボトル由来の放射冷却用エアロゲルは、ビルの屋上や建物の屋根などあらゆる表面に使用して内部温度を下げることができる。

2024年5月に発表された『ソーラー・エネルギー』のレポートによると、シンガポールでのフィールドテストで、わずか0.5cmのエアロゲル素材によって温度を2℃下げることが実証された。

この結果は、彼らがこれまで開発してきたエアロゲルに比べてエネルギー効率が大幅に向上しており、消費エネルギーは約97%削減され、製造時間は96%短縮されたという。

低エネルギー消費社会実現に向けたエアロゲルの可能性

シンガポールの夜景の写真

Photo by Arul Kumaran on Unsplash

日本では2018年から厚生労働省が一定の条件を満たす生活保護世帯に対してエアコン購入費の支給を開始。地球温暖化が進むいま、熱中症予防としてエアコンの利用を避けられなくなっている。

しかし、周知のとおりエアコンなどの従来の空調システムによるエネルギーの大量消費は問題視されたまま。年々増加する温室効果ガスの排出は、都市のヒートアイランドなどの環境問題に影響を与え続けている。

NUS研究チームは、この再生PET由来のエアロゲルを「エネルギーを消費することなく、放射冷却の自然なプロセスを利用して空間に熱を放散させる、受動的な冷却の代替手段」と話す。しかも、推定される製造コストは、厚さ1cmのエアロゲル1平方メートルで100シンガポールドル(約11,000円)未満と、他の材料でできた同様の素材より大幅に安いという。

シンガポールの住宅や商業ビルでは、昼夜問わず冷房が止まることはない。観測史上もっとも暑い夏を更新し続ける日本も、もはや例外ではない。これからのエアロゲルの進化から目が離せなくなりそうだ。

※掲載している情報は、2024年6月25日時点のものです。

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