Photo by Tengis Galamez on Unsplash
一度は絶滅した野生のモウコノウマ。欧州の動物園で繁殖された8頭がカザフスタンでの野生復帰に向けて新たに輸送されることが発表された。世界中の動物園の協力のもと進められるこの取り組みは、絶滅危惧種の保護や繁殖における成功例の一つとして注目されている。
Kojiro Nishida
編集者・ライター
イギリス、イースト・ミッドランズ地方在住。東京の出版社で雑誌編集に携わったのちフリーランスに。ガーデニングとバードウォッチングが趣味。
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モウコノウマは、20世紀初頭まで中央アジアやモンゴル、中国北部の草原地帯に広く分布していた野生の馬だ。だが、開発によって生息地を失われ、さらに乱獲などが原因となって、その数は激減。1960年代には野生のモウコノウマが一度絶滅してしまった過去がある。
そのため、世界各国で繁殖が進められ、日本では「よこはま動物園ズーラシア」でも飼育されており、いま野生下で生息しているモウコノウマは、動物園で繁殖された個体やその子孫にあたる。
欧州や北米の動物園によって中央アジアでの野生復帰が行われるようになってから、その個体数は少しずつ増加傾向にあるが、それでも全世界でわずか2,000頭を超える程度。依然として絶滅危惧種に指定されている。
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そして、1932年からモウコノウマの繁殖プロジェクトに取り組んできたのが、チェコのプラハ動物園だ。同園は先日、ドイツ・ベルリンにあるティアパーク動物園と共同で、少なくとも40頭のモウコノウマをカザフスタンの草原に野生復帰させる予定であることを発表した。
5年間にわたって行われるこのプロジェクト。まずは2024年6月にプラハとベルリンの動物園からそれぞれ4頭ずつの計8頭(オス3頭とメス5頭)がチェコ軍の飛行機によって15時間をかけカザフスタンへ輸送される。
カザフスタンに到着したモウコノウマはすぐに解放されるのではなく、特別に設計された敷地の中で一定期間を過ごし、野生の条件に適応できるよう段階的に慣らした上で、自然へと放される。
プラハ動物園では2011年から2019年までの間に合計34頭を野生に還してきたが、この取り組みはパンデミック以降は中断されていた。
現在プラハ動物園が中心となって取り組んでいるこのプロジェクトは、世界中の動物園による共同資金によって運営されている。
ヨーロッパ動物園水族館協会(EAZA)のエンドレ・パップ会長は、このプロジェクトが野生のモウコノウマの数を増やすためには重要であることを強調した上で、次のように述べている。
「この取り組みに価値があるのは、ただ動物を輸送するというだけではなく、(動物園が)長年にわたって積み重ねてきた経験や知識の共有が行われることです」
世界中の動物園による国際的な協力がなければ、今日私たちが野生のモウコノウマを見ることはできなかっただろう。プラハ動物園が中心となったこの取り組みは、絶滅の危機に瀕した種の保護・繁殖の模範的な例として注目されているだけではなく、動物園の野生動物保護における重要な役割を示している。
※参考
Prague and Berlin zoos to reintroduce endangered horses to Kazakhstan | Le Monde
Prague Zoo Will Transport Przewalski’s Horses to Kazakhstan in June | BRNO Daily
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