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グローバルサウスの動向が世界的に注目されており、日本もこれらの国々との連携を高めている。この記事ではグローバルサウスについてあらためて解説し、注目されている背景やグローバルサウスに含まれる国々について見ていく。また、発展の一方で彼らが抱える問題についても紹介する。
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グローバルサウス(Global South)とは、アジアやアフリカ、中南米などの開発途上国や新興国の総称。これらの国が南半球に多いことから呼ばれるようになり、経済的に豊かな国々が集まる北半球「グローバルノース」と対比されて用いられる。
グローバルサウスは、冷戦時代に西側諸国にも東側諸国にも属さなかった"第三世界"と呼ばれた国々が含まれている。これらの国は、国連に加盟する発展途上国で構成されるグループ「G77」にも参加しており、グローバルサウスは、第三世界、G77と近い意味合いで使われることも多い。
しかしながら、北半球にあり経済発展がめざましいインドがグローバルサウスに含まれていたり、かつては開発途上国とされG77にも加わっている中国はグローバルサウスに含まないとされる見方が多かったりと、時代や状況によって定義が変化する点に注意したい。
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"グローバルサウス"と一括りにしても、経済発展がめざましい国や人口増加が進む国など、それぞれの国で抱える課題や状況は異なる。その点に注意しながら、ここではグローバルサウスの国々が抱える代表的な問題を5つ紹介していく。
貧困は、グローバルサウスが抱える深刻な問題の一つである。現在、世界人口のおよそ10%の7億人以上が、極度の貧困のなかで暮らしており、貧困者数の大多数はサブサハラ・アフリカ(サハラ以南のアフリカ)に集中している。南アジアを含めると85%にものぼるとされる(※1)。
多くの開発途上国では、低い所得水準や高い失業率を抱えており、社会保障も万全とは言い難い状況だ。経済的な貧困は飢餓や栄養不良、病院や学校に通えないなどのさまざまな問題として現れており、なかでも農村地域やスラム地域の貧困層は深刻な状況に置かれている。
開発途上にあるグローバルサウスは、工業化や経済成長の進展にともない、大気汚染、水資源の枯渇、生態系の喪失などの問題が表面化している。経済発展を優先するために、環境に関する観点が後回しにされることも多い。
道路だけではなく、水道や電気などのライフラインの供給や、通信インフラなどの開発が遅れており、経済成長を妨げ、さらなる格差拡大の要因となっている。また災害時の対応が滞ることもあり、自然災害の被害が深刻化する原因となっている。
一部の農園では人権を侵害されるような低所得労働を強いられたり、児童労働が問題になることもしばしばある。政治的な弾圧による人権侵害や経済的、宗教・社会制度の問題から、女性が格差や暴力、望まない制度の犠牲になることも多い。多人種国家では少数民族などの権利侵害なども問題となる。
開発途上国では教育の環境が整っていない、児童労働や生きるための日々の水くみに時間が取られてしまうなどの理由で教育を受けられない子どもも多い。教育格差を表す指標のひとつとして、国ごとの識字率の格差があげられる。識字率の低い国はグローバルサウスに多く、もっとも識字率が低い中央アフリカ共和国では38.5%にとどまっている。(※2)
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ウクライナ危機や米中対立が深刻化するなか、グローバルサウスはこれまで以上に注目されるようになった。ここではグローバルサウスがなぜいま、世界で注目を集めているのか、代表的な理由について解説する。
グローバルサウスの人口は急速に増加しており、2050年までには世界の3分の2を占めると予測されている(※3)。人口の増加により、市場の拡大や労働力の増加などの経済的な潜在能力が高まり、国際社会における影響力が増大していくとみられる。
グローバルサウスに含まれる多くの国々は急速な経済成長を遂げており、世界経済における役割が増大している。ブラジルやインド、南アフリカの発展はめざましく、世界の経済システムにおいて重要な役割を果たしている。2050年にかけて、グローバルサウスの名目GDPの合計がアメリカや中国を上回る規模にまで急拡大すると見込まれている(※3)。
グローバルサウスの国々は、ウクライナ危機や米中対立などの世界の分断が起こるとき、どちらにも属さない中立の立場を取る傾向がある。対立や紛争に巻き込まれることを回避するとともに、どちら側にもつかないことで経済関係を維持でき、恩恵を受けるという利点もある。
1国1票を原則とする国連投票において、約130の国と地域が参加するG77の国々の意見は無視できない。インドを中心に、グローバルサウスの発言力を高めるために「グローバルサウスの声サミット」を開催するなどの動きも出ている。
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ここでは、グローバルサウスを代表する国々の動向をみていこう。
インドは、グローバルサウスにおいてリーダー的な立場を強調している国である。先に述べた「グローバルサウスの声サミット」の開催は、G20の議長国を担うインドが新興国や途上国の120カ国以上に参加を呼びかけて行った。
ウクライナ侵攻に関しても独自の外交路線を貫いており、西側諸国が実施した経済制裁にも同調していない。ロシアとの経済関係を深め、ロシア産の原油を安価に輸入するなどの恩恵も受けている(※3)。一方で、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国で構成される多国間枠組み、クアッド(Quad/日米豪印戦略対話)において、日本やアメリカとの協力関係を強化するといった動きもみられる。
近年インドは急速に経済成長を遂げ、技術の分野やサービス産業で成長しており、グーグルのサンダー・ピチャイ氏やマイクロソフトのサティア・ナデラ氏など、世界的企業の経営者を数多く排出している。経済大国としての存在感を増すうえに、両陣営にとって肝となる国であり、されにはグローバルサウスにとっても主要な国として世界的に動向が注目される。
ブラジルは、BRICS(ブリックス)の一端を担う、南アメリカ大陸で最大の経済規模を持つ国だ。BRICSとは、中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカで構成する新興5カ国の総称であり、米欧中心の国際秩序への対抗を狙う。
2024年には新たにエチオピア、エジプト、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の5カ国が加盟し、世界経済の約28%のGDPを占める約28兆5,000億ドル規模になり、世界の原油生産量の約44%を占める経済圏となった(※4)。BRICSは「グローバルサウス」を代表するグループを目指している。
しかしながらBRICSが一丸となっているとは言い難く、複雑な政治情勢からBRICS内の分断も複数存在する。ウクライナ進行に対してブラジルは国連において非難の意を示し、中国、インド、南アフリカは決議案採択を棄権した(※5)。
南アフリカはアフリカ大陸でもっとも経済的に発展した国であり、随一の工業国であり、唯一のG20参加国だ。かつブラジルとともにBRICSの一角を占める。プラチナなど豊富な鉱物資源を有し、インフラも欧州並みに整備されている(※6)。
南アフリカの主要な貿易国は中国とアメリカであり、そしてドイツ、日本と続く(※7)。対立する両陣営との関わりも強く、対立が激化すると立場が難しくなる。
自国内においては格差や貧困が深刻な社会問題となっており、政治においては長らくANC(アフリカ民族会議)が政権与党であるが、汚職や不正が横行し、政治的な不安定さが指摘されている。経済面では、不況や失業率の上昇が課題となっている。
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世界的にグローバルサウスへの注目が高まるなか、日本では今後どのような対応をとっていくのだろうか。日本によるグローバルサウスへの具体的なアプローチを紹介する。
先に述べたクアッド(Quad/日米豪印戦略対話)での協力関係をはじめ、日本はインドを重要な戦略的パートナーと位置付けている。2023年5月に開催されたG7広島サミットでは、議長国である日本がインドを招待した。両国は経済面や安全保障面での協力関係を深めており、高官レベルでの対話や経済協力の推進が進められている。
先に述べたとおり、グローバルサウスは2050年までに世界人口の3分の2を占め、名目GDPの合計がアメリカや中国を上回ると予想されている。日本企業はグローバルサウス諸国を投資対象として注視しており、その経済成長や市場の拡大に期待する。グローバルサウスの株式に実質的に分散投資を行う銘柄も登場している。
また、インフラ整備やエネルギー関連などの分野においても、日本企業の進出が活発化している。インドでは日本の新幹線が導入されており、投資だけでなく技術移転や人材育成などの面でも積極的な取り組みを行っている。
日本の内閣府は2023年に「グローバルサウス諸国との連携強化推進会議」を開催した。この会議には経済産業省や外務省など関係省庁が参加し、グローバルサウスとの経済的・政治的な協力強化に向けた戦略を検討した。(※8)
東南アジア10か国から成るASEAN(東南アジア諸国連合)との関係強化も重要だ。そのための武器として、日本は脱炭素分野での技術提供に期待する。ASEAN諸国は成長と脱炭素を両立した発展が必要な段階にあり、そのための外国からの投資を求めている。
日本はG7中で一人当たりのエネルギー消費量(家庭部門)がもっとも低く抑えられているなど、高い技術力や経験を有する。また、背景として、ASEAN各国と同様に人口密度が高く、また、再生可能エネルギーに必要となる広い用地を確保するといった問題を有する。
こういった課題の解決に日本が持つ技術の活用が期待される。今後、ASEAN各国の発展に向けて貢献していくことが予想される(※9)。
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グローバルサウスという言葉が一般的に使われるようになって、まだ日は浅い。しかし今後の世界経済の発展にはグローバルサウスが大きく関わっており、実際にインドのような急成長する国も誕生している。また、世界の分断が危惧されているいま、多くの国と地域、人口を有するグローバルサウスの意思は無視できず、その存在感は今後も増していくと考えられる。
欧米や日本を中心とした民主主義や自由経済の考えは、他の国にとっては当たり前ではないこともある。グローバルサウスの国のなかには、異なる理念を掲げる国もあるため、その価値観を押し付けてはいけない。異なる価値観や多様性を受け入れる姿勢が、私たちにも求められる。
※1 世界の貧困に関するデータ|世界銀行
※2 世界子供白書2023|ユネスコ
※3 ウクライナ危機で存在感増す「グローバルサウス」①|三菱総合研究所
※4 2024年1月からUAEなど5カ国がBRICSに加盟|日本貿易振興機構(JETRO)
※5 ロシア寄りの経済圏BRICS、拡大で得をするのは誰か?|CNN
※6 南アフリカ経済の現状と今後の注目点|三菱UFJリサーチ&コンサルティング
※7 南アフリカ共和国の貿易と投資|日本貿易振興機構(JETRO)
※8 グローバルサウス諸国との連携強化推進会議|首相官邸
※9 グローバルサウスに「選ばれる」ための連携・協力のあり方|日本経済団体連合会
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