「SDGsトレイン」とは、SDGsの普及を目的とした、阪急電鉄、阪神電車、東急電鉄が運行している電車のこと。本記事では、SDGsトレインの特徴や取り組み、運行期間について詳しく説明しながら、SDGsの観点から見る電車のメリットなどについても解説していく。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
「SDGsトレイン」とは、阪急電鉄、阪神電車、東急電鉄が運行している、SDGsの普及を目的とした電車のことだ。
阪急電鉄・阪神電車では2019年5月から、東急電鉄では2020年9月から運行を開始(※1)。電車に乗る人や沿線で暮らす人にSDGsを広めるとともに、身近なところから関心を深め、行動につなげてほしいという目的や願いが込められている(※2)。
SDGsトレインには、どのような特徴があるのか見ていこう。
鉄道会社の思いを込めた、カラフルな車体ラッピングもSDGsトレインの特徴のひとつだ。
阪急電鉄・阪神電車が運行するSDGsトレインでは、さまざまな人や生き物たちが、地域社会をよりよい未来へ続く扉の向こうに案内する様子をイラストで表現。このイラストは、大阪府出身のイラストレーター・ウマカケバクミコ氏によるもので、SDGs17の目標を親しみやすく描いている(※3)。
東急電鉄のSDGsトレインは、長年東急グループが取り組んできた活動を紹介した、展覧会のような車両となっており、車体ラッピングではその展示会への扉を表現している。SDGsを象徴する17の目標のカラーが交じりあうカラーグラデーションを施し、「SDGsトレインが、乗客のみなさまとともに美しい未来へ走っていきますように」という願いが込められているそうだ(※3)。
車体ラッピングだけでなく、車内でもSDGs普及に向けたメッセージを発信している。
たとえば、側面の各ドアの横に、SDGsの全体ロゴおよび17の目標のステッカーと、再生可能エネルギー100%で運行していることを示すステッカーを掲示。吊り革には、SDGs17の各目標を解説するステッカーが貼られている。
さらに車内掲示のポスターでは、SDGs達成のための課題を数字でわかりやすく伝えるシリーズ「数字で見るSDGs」や目標達成につながる身近な行動をまとめたシリーズ「SDGsアクション」を展開しており、乗車するだけでSDGsを身近に感じ、理解を深められるような車内がつくり出されている(※4)。
走行にかかる電力をすべて(実質的に100%)再生可能エネルギーで賄っていることも、SDGsトレインの大きな特徴である。
再生可能エネルギーとは、太陽光や風力、水力、地熱、太陽熱などの自然界に存在する熱や、バイオマス(動植物に由来する有機物)など7種類で生み出されるエネルギーのこと。石油や石炭、天然ガスといった有限な資源と違い、枯渇しないことや、どこにでも存在すること、CO2を排出しないことが特徴だ。
この再生可能エネルギーを使用してCO2の排出を抑えることで、環境への負荷を軽減している。
国や自治体、企業と連携していることもSDGsトレインの特徴だ。
たとえば、車内のすべての広告スペースには、SDGsが掲げる各目標の解説のほか、沿線の自治体や協賛企業のSDGsへの取り組みに関するポスターを掲出している。
これまで、協賛企業による節水やCO2削減を呼びかけるポスターや、滋賀県琵琶湖を切り口とした2030年の持続可能社会へ向けた目標である「マザーレイクゴールズ」、大阪府による「海洋プラスチックごみゼロ」への取り組みを紹介するポスターなど、さまざまなポスターが掲載されている(※4)。
ここからは、現在運行しているSDGsトレインの路線や、運行期間について紹介していく。
2020年9月から運行を開始した東急電鉄のSDGsトレイン『美しい時代へ号』は、2026年3月までの運行を予定。東横線・田園都市線・目黒線・東急新横浜線・世田谷線および相互直通区間で運行している(※5)。
阪急電鉄・阪神電鉄が運行するSDGsトレイン『未来のゆめ・まち号』は、2025年の「大阪・関西万博」までの継続運行を予定している。
阪急電鉄の運行区間は、神戸線・宝塚線・京都線および相互直通区間。阪神電鉄は、本線・阪神なんば線および相互直通区間で運行している。
Photo by Tomas Anton Escobar on Unsplash
そもそも、SDGsと電車にはどのような関係性があるのだろうか。
電車やバスといった公共交通機関を利用することは、さまざまな面でSDGsの目標達成につながると考えられる。
2021年度のデータによると、家庭からの二酸化炭素排出量用途別内訳のうち、24.3%が自動車によるものだそう(※6)。「ひと1人を1km運ぶ」のに排出するCO2の量は、自家用乗用車の約147gに対し、バスでは約51g、航空では約109g、鉄道では約19g。自家用乗用車に比べて公共交通機関、なかでもとくに鉄道はCO2排出量が大幅に少ないことがわかる(※7)。移動手段を見直すことで、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に寄与できる。
また、公共交通機関の需要が増え、さらに発達していくことで、高齢者や学生など車を持たない人の移動が便利になる可能性も高くなる。これは、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」にも影響していくだろう。
Photo by Jacques Bopp on Unsplash
電車を利用したSDGsへの取り組みを行っているのは日本だけではない。
2023年5月には、ベルギー、オランダ、ドイツの3か国の首都(ブリュッセル、アムステルダム、ベルリン)を結ぶ夜行列車が開通。2024年にはドイツのドレスデン、チェコのプラハまで延伸する予定だ。
オーストリアの鉄道ÖBBによれば、ブリュッセルとウィーン間で排出される二酸化炭素は、同じルートを飛行機で移動した場合の約10分の1程度だそう。そのうえ眠っている間に目的地に到着するため、時間の節約になるというメリットがある。
さらに2023年夏には、ヨーロッパ8カ国ですでに運行を開始していた、フランスの鉄道車両製造大手のアルストム社による水素列車がカナダでも運行を開始。ケベック州にあるシュート・モンモランシー公園やべー・サン・ポールなどを結ぶ、約90分のルートを走っている。
水素列車は、運転中に排出されるのは水蒸気のみで二酸化炭素を排出しない。そのうえ、騒音もなく静かで、最高速度は時速140km。近年のエネルギー危機の影響もあり、水素列車はますます注目されている。
その他、EU圏内在住の18歳に無料鉄道チケットがあたる大型キャンペーンが開催されたり、フランスとドイツでは、27歳以下の人に2か国間の鉄道チケットを無料でプレゼントする企画が行われたりと、海外では鉄道の利用を促進する取り組みが活発になっている。
本記事で紹介したように、SDGsトレインには、利用している人や沿線に住んでいる人がSDGsへの関心を深められるようなたくさんの仕かけがある。
また、そのほかの人にとっても、SDGsトレインの存在や意図を知ることは、電車などの公共交通機関を利用することがSDGsの目標達成につながるということを知る、ひとつのきっかけとなるだろう。
※1 SDGs トレインについて|阪急阪神ホールディングス株式会社
※2 モリナガ・サステナブル~笑顔を未来へつなぐプロジェクト~|森永製菓株式会社
※3 東と西で、未来に向かって走る「SDGsトレイン」|阪急阪神ホールディングス株式会社・東急グループ
※4 ポスターギャラリー|阪急阪神ホールディングス株式会社
※5 特別企画列車「SDGsトレイン 美しい時代へ号」をリニューアル|東急株式会社
※6 温室効果ガスインベントリ|国立環境研究所
※7 運輸部門における現在までの排出量及び関連データについて|環境省
ELEMINIST Recommends