海に浮遊するだけでなく、海の生き物などを通じて人の体内にも入り込み、影響が懸念されているマイクロプラスチック。海洋にプラスチックごみが流出し、波や紫外線等の影響により小さくなって発生する。洗顔料や歯磨き粉にスクラブ剤として使われてきたプラスチックの粒子や、衣料の洗濯等から抜け落ちた繊維くずも原因の一つだ。この深刻な地球課題に、生地づくりを通して挑むのが帝人フロンティアだ。記事末には、使い捨てプラスチックを減らすアイテムのプレゼントも行っているので、そちらもチェックしてほしい。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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マイクロプラスチックとは、ビニール袋やペットボトル、たばこのフィルターなどのプラスチックが5mm未満まで小さくなった欠片。私たちの生活で使われたプラスチックごみが、川・海の流れや紫外線の影響で砕け、かけら状に細かくなったもの。
そんなマイクロプラスチックが発生する要因のひとつとして、合成繊維を原料とした衣料から出る繊維くずも挙げられる。合成繊維のくずは、プラスチックの一種。排出された微細な繊維くずは、下水処理で処理し切れないことも多い。また、風で舞い上がり、雨水と一緒に河川に流れ込む可能性もある。最後は海へ辿り着き、地球上のごみとして、長期間残り続ける。海洋汚染の原因となり、生態系を崩し、地球環境に大きな影響をおよぼす。
マイクロプラスチック問題は、地球規模で取り組むべき、喫緊の課題であるのだ。
帝人フロンティアが開発した、繊維くずが出にくい「デルタ®TL」(後述)。
私たちの身近に迫っているマイクロプラスチックをこれ以上増やさないためには、その原因を減らすことが必要だ。そこで、マイクロプラスチックの要因のひとつとなる合成繊維の繊維くずが出にくい生地を作ろうと挑んでいるのが、繊維メーカーである帝人フロンティア。
同社では2017年頃から、マイクロプラスチック問題を意識しはじめたという。営業職と技術職がチームを組み、生活シーンにおいて繊維くずが抜けにくい素材の開発を進めてきた。
どのような生地からも繊維くずは発生するが、なかでも、繊維の表面を毛羽立たせる起毛加工が施されている生地は、毛羽が落ちやすい傾向にある。
例えば、日常着によく使われているフリース素材は、やわらかい触感や保温性を付与するために、生地の表面を引っかく起毛加工が施される。起毛加工時に繊維が切断されるため、製造工程や、私たちがふだん着るとき、そして洗濯するときなど、さまざまなシーンで繊維くずが出やすくなるのだ。
そこで、帝人フロンティアがマイクロプラスチック問題に対応する生地として開発したのが、非起毛加工の「立毛構造」。起毛加工品の最大の特徴である保温性や肌触りはそのままに、繊維くずの抜け落ちを抑制できる、画期的な生地だ。
繊維くずが発生しにくい素材として誕生したのが、「デルタ®TL」と「サーモフライ®」。開発においてもっとも難しかったのは素材の構造だという。どちらとも起毛加工が施されていないにも関わらず、毛羽感があるのが特徴だ。
「デルタ®TL」は、フワフワとした毛羽感のある手触り。染色段階の特殊加工により、パイルがねじれた構造になる。それによって、タオルのような柔らかな手触りを実現しているのだ。
起毛加工が施されていないだけでなく、パイル糸が切れ目なくつながった状態で生地に編み込まれているのもポイント。繊維くずが抜け落ちにくい理由はここにある。優れた吸水性や保温性も持ちあわせており、快適素材としても期待されている。
「サーモフライ®」は、特殊な断面を持つ中空糸(中に隙間のある糸)を層状に編み、中間部分を半分に裁断することで毛羽感を出した繊維。起毛加工ではなく、もともと1枚の生地を半分にしているため、繊維くずが抜け落ちにくい。
着用快適性が追求されており、保温力と汗拡散機能の両方を持ちあわせているのもポイント。「激しく動いて汗をかいても、べとつきおよび汗冷えを防止する」ため、アウトドア業界から注目されている。
「デルタ®TL」と「サーモフライ®」は、洗濯時に繊維から脱落する繊維くずの量を評価する試験*によって、繊維くずの抜け落ちが抑制されていることが証明されている。
「デルタ® TL」は、帝人フロンティアの起毛加工製品と比較して約85%、「サーモフライ®」は約72%、繊維くずの発生が抑制できている。
*試験方法は、2021年8月に米国繊維化学技術・染色技術協会から発表された「AATCC TM212-2021」
*結果は、個々の生地によって異なるため、比較数値はあくまでも一例。
環境配慮型なのに加え、機能性の高さも持ちあわせた「デルタ®TL」と「サーモフライ®」。どちらもスポーツ・アウトドアウェアとの相性がよく、多くのブランドで採用されている。
例えば、カナダ・バンクーバー発祥のアウトドアブランド「ARC'TERYX(アークテリクス)」は、「デルタ フーディ(メンズ)」と「デルタ ジャケット(ウィメンズ)」に「サーモフライ®」を採用。柔らかな着心地で、通気性と耐久性をあわせもつ保温素材だ。
一枚でさらっと着られるほか、キャンプや移動時の保温レイヤーとしても利用できる。高い機能をもちながら、ミニマルで軽量なところも魅力。
使用済みのペットボトルや繊維くずをリサイクルした「エコペット®」。
試験結果が証明しているように、繊維くずが抜け落ちにくい素材は、マイクロプラスチックの流出対策に有効だ。ただ、ほかにも素材面から可能なアプローチはある。
帝人フロンティアは、原糸からリサイクルポリエステルを採用することや、リサイクルをしやすくするために単一素材への置き換えも重要だと考えている。現に「デルタ®TL」と「サーモフライ®」には、使用済みペットボトルや裁断くずなどを使用したリサイクルポリエステル「エコペット®」が使われることも多くなっている。
サステナビリティを重視する欧米のアウトドアアパレルブランドでは、既に、環境に配慮された繊維や生地を採用することがスタンダードになりつつある。日本でも、環境配慮型であることが当たり前になる時代が来るだろう。
「デルタ®TL」と「サーモフライ®」の今後にますます注目したい。そして、私たちも地球にやさしい素材を積極的に選んでいきたいものだ。
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