社会格差とは 日本の現状や格差が生じる原因、対策についてわかりやすく解説

お札の束を持ち数える人

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社会格差とは、さまざまな不平等によって生み出される差のことだ。複数の原因が複雑に絡み合って生じるため、是正するには政府だけでなく国民一人ひとりの意識や行動が欠かせない。本記事では、社会格差とは何かをわかりやすく解説する。原因や対策についてもあわせて押さえておきたい。

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2024.01.30
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社会格差とは

教室で授業に参加する人たち

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社会格差とは、さまざまな不平等が原因で生じてしまう社会における差のこと。所得や年齢、ジェンダーや障がいの有無など、社会格差につながる理由は多岐にわたる。社会格差とひと口にいっても、教育格差や雇用格差、地域格差など、細かく見るとさまざまだ。なかでも、経済や所得の面での格差が生まれやすいとされている。

資本主義社会において、経済面の差が生まれるのはある意味自然なこと。しかし、現代では、富裕層と貧困層が両極化する「格差社会」が社会問題とされるほど、格差の拡大が深刻化している。格差の拡大は、教育や雇用機会の不平等などのさらなる問題へとつながっていく。引いては、社会全体の成長にも悪影響をおよぼす。

また、社会格差は日本国内だけでなく、国家間や世界全体でも生じている。社会格差そのものはもちろんだが、背景にある問題にも目を向けることが重要だ。

社会格差の現状

外国のお札がたくさん散らばっている様子

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1970年代ごろの日本は、男女とも9割以上が自身を中流だと認識していたことなどから「一億総中流社会」と呼ばれていた。しかし、1980年代から徐々に格差の拡大がはじまった。1990年代にバブルが崩壊し、不景気に突入してからは「格差社会」という言葉が注目され出した。

格差を測る指標に「ジニ係数」がある。所得の分布についての偏りを表す数値であり、平等だと0となり、1に近いほど不平等度が大きくなる。ジニ係数によると、2001年以降、格差は拡大傾向にある。高齢者比率の高まりや、若年層の賃金低下などがおもな理由とされている。(※1)

厚生労働省が発表した2021年の「所得再分配調査」によると、税金を差し引く前の所得で計算する「当初所得」のジニ係数は0.5700で過去最大時と同水準。所得の格差が広がっていることが見て取れる。税金・社会保険料控除や給付などを加味した「再分配所得」においては0.381で、ほぼ横ばいの状態だ。(※2)

日本では、教育格差も問題視されている。2021年の子どもの貧困率は11.5%。(※3)この数値は、衣食住に困窮する絶対的貧困ではなく、相対的貧困で測られているため、すべての子どもが生活に苦しむレベルの貧困状態に陥っているとは限らない。しかし、貧困とされる子どもは教育や体験などの機会が乏しい傾向にある。進学や就職など、さまざまな状況で不利となる可能性が考えられるのだ。

社会格差が生まれる原因

高齢者が杖をつく手

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社会格差は、さまざまな背景から生まれている。以下では、おもな原因として5つの問題を紹介しよう。

非正規雇用の増加

社会格差の原因としてよく挙げられるのが、非正規雇用の増加である。1986年に、多様な人材活用を可能にすべく、労働者派遣法が施行された。時代に合わせて何度も改正が重ねられてきたが、2004年に派遣の規制が緩和されたことで、非正規雇用が増加。2020年、2021年は減少に転じたものの、全体として増加傾向にある。(※4)

非正規雇用者は働き方の自由度が高い一方で、正規雇用者に比べて賃金が低くなりがち。所得や待遇に差があるだけでなく、社会保障などを受けられないケースも存在する。また、雇用が不安定なうえにキャリアアップの機会が限られていることもあり、低所得になりやすいという課題がある。非正規雇用労働者の増加は、所得だけでなくさまざまな社会格差の拡大につながっているといえる。

ひとり親世帯の増加

離婚や死別などでひとり親になるケースが増えている。親が一人で仕事と家事、子育てを両立させる必要があるため、正規雇用ではなく非正規雇用を選ぶケースが少なくない。また、正規雇用として採用されないのを理由に非正規雇用として働かざるを得ない「不本意非正規雇用労働者」も一定数存在する。

ひとり親のなかでも、とくに母子世帯の貧困が深刻視されている。2022年に発表された「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」によると、父子世帯が14.9万世帯なのに対し、母子世帯は119.5万世帯と圧倒的に多い。さらに、平均年間就労収入は、父子世帯が496万円なのに対し、母子世帯は236万円。2倍以上の就労収入格差がある。(※5)

低所得世帯の子どもは、教育の機会が限定されがち。社会格差は子ども世帯にも連鎖すると考えられている。

少子高齢化

出生率の低下による少子高齢化も、社会格差の原因とされている。若い世代や現役世代が少なくなる一方で、高齢者は増加傾向。社会保障関係費が増大し、低所得者にとっては、大きな負担となっている。このまま少子高齢化が進むと、高齢者1人を現役世代1人で支える「肩車型社会」が到来し、ますます負担が増加する可能性がある。

また、低年金も問題だ。年金に頼って生活をしている高齢者は貧困に陥りやすい。貯蓄がなく年金だけで暮らす高齢者がいる一方で、莫大な資産を築いている高齢者もいる。高齢者間の資産格差も社会格差のひとつとされる。

都市部への人口流出

人や物が地方から都市部へ流出すると、地域格差が拡大する。若年層の流出により、地方企業の発展が妨げられる。そうすると、地方における賃金の低下や非正規雇用の増加が深刻化する。より賃金が高い地域に人口が流出する負の連鎖が確立し、地方の衰退につながってしまう。

産業構造の変化

時代とともに産業構造が変化したことで、社会格差につながっているケースもある。例えば、コロナ禍でさらに加速したデジタル化は、所得格差や情報格差を生んでいる。デジタル産業の規模が拡大した一方で、規模の縮小を余儀なくされた産業もある。

また、インターネットやパソコンなどの情報通信技術の利用をできる人とできない人との間で、情報を得る機会の格差が生じている。情報格差はコロナ禍でさらに深刻化し、問題は世界的にも拡大傾向だ。

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社会格差是正に向けた対策

オフィスで人々が働く様子

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さまざまな不平等が社会格差を生み、格差社会ができあがっている。社会格差を是正するための対策を講じなければ、格差は広まり、固定化する一方だ。以下では、現在進められている対策を5つ紹介する。

働き方改革

2019年ごろから政府が力を入れているのが働き方改革だ。「一億総活躍社会」を掲げ、ライフスタイルに合わせた多様な働き方の実現を推進している。具体的な取り組みとして進められているのは、長時間労働の解消や、正規・非正規の格差の是正、高齢者の就労促進など。ほか、有給休暇の取得を促進し、子育てや介護、通院などの事情に応じた柔軟な働き方をできるように努めている。働き方改革には、処遇の改善による所得格差の是正効果も期待されている。

同一労働同一賃金

働き方改革の一環として導入されているのが、同一労働同一賃金である。同じ労働に対して、同じ賃金を支払うことを原則としている。フルタイム労働者と、有期雇用・パートタイム・派遣労働者の不合理な格差を是正することが目的だ。賃金だけでなく、福利厚生制度や教育制度、休暇などの待遇差も対象とされる。

児童扶養手当

貧困による教育格差が生じると、子ども世代も貧困になる傾向が高くなる。児童扶養手当は、ひとり親世帯や子どもを扶養している人に対して支給される給付金。生活が苦しくなりがちな世帯を支えることで、格差を是正する目的がある。

ほかにも、ひとり親を支える経済的支援として「母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」がある。ひとり親世帯の経済的自立や福祉増進のための制度であり、子どもの修学資金や親の技能習得資金などの貸付が行われる。

ハロートレーニング

ハロートレーニングとは、求職者を対象とした無料の職業訓練制度。貧困や格差のない社会を実現するための制度である。テキスト代のみで、キャリアアップや希望する就職を実現するために必要なスキルを習得できる。国が行っている制度であり、働く意欲がある人であれば、誰でも利用できるのがポイントだ。多数のコースが用意されており、全国の窓口から相談できる。(※6)

ベーシックインカムの検討

ベーシックインカムとは、すべての国民に一定の金額を支給する制度のこと。一定の条件を満たす人に対して保証を行う社会保障とは異なり、所得水準や年齢などに関係なく無条件に一律の金額を支給するのが特徴だ。コロナ禍で注目された制度である。

ベーシックインカムは、生活が苦しい人の収入を底上げするため、貧困対策になる。最低限の生活を維持できるようになると、労働環境の改善にもつながるだろう。フィンランドやアメリカなどでは導入実験や部分的導入が行われ、ポジティブな影響が出る結果となった。日本での導入は、地方自治体レベルにとどまり限定的。日本維新の会が主要政策としてベーシックインカムを掲げているが、財源の確保に難航しているのが現状だ。(※7)

ベーシックインカムとは? その内容やメリットをわかりやすく紹介

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社会格差とは不平等から生じる問題 知ることが是正の一歩

社会格差はさまざまな要因から生じているため、是正には長い時間が必要だ。根深い問題や連鎖が絡んでいる以上、行政機関の対策だけではなかなか解決が難しい。私たち個人が、自分ごととしてとらえ、社会全体で向き合うことが不可欠だろう。

社会格差を是正するためには、まずは現状を知ることが重要だ。格差社会という現代に身を置く一人として、まずはできることから取り組もう。

※掲載している情報は、2024年1月30日時点のものです。

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