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世界的な貧富の差や経済格差によって注目が高まっている「ベーシックインカム」。無条件にすべての人に給付金が与えられるというこの制度は、一体どのようなものなのか。世界や日本の実例と合わせて解説する。
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ベーシックインカムとは、性別や年齢、所得水準などによって制限されることなく、すべての人が国から最低限の生活を営むために必要な一定の金額を定期的かつ継続的に受け取れる社会保障制度のこと。
ベーシックインカムの大きな特徴としては、生活保護制度にあるような資産調査をはじめとするいくつもの条件をクリアする必要がないこと。例えば生活保護は、世帯単位かつ自ら役所に出向いて申請しないと支給されないのに対し、ベーシックインカムは個人単位で、住民であれば自動的に銀行口座に振り込まれたり、書留が送付される仕組みだ。このように、ベーシックインカムは「どこでも、誰でも、いつでも」支給されるという普遍的な制度なのである。
2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による景気の悪化や失業率の上昇をきっかけに、ベーシックインカムが大きな注目を集めた。貧困対策や社会保障制度の簡素化を通じた行政コスト削減などのメリットが考えられる一方で、財源確保などの問題点も指摘されているのが現状だ。
アメリカやオランダなど、いくつかの国で一部実験的に導入されているが、ベーシックインカムを本格的に導入している国は未だ数える程度だ。実際に導入された例として、2021年10月にアメリカのシカゴ市議会がベーシックインカム・プログラムを承認。試験的に5,000の低所得世帯に1年間にわたって毎月500ドルを支給することを決めた。
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ベーシックインカムが導入されれば、私たち国民の生活はいまよりゆとりあるものに改善されると考えられる。その具体的なメリットを解説する。
ベーシックインカムが導入され、支給されるようになると、多くの国民は最低限の生活を維持できるようになる。これにより、多くの国民が抱える金銭面の不安から解放されるだろう。また、ベーシックインカムは無条件かつ所得の制限がないため、ワーキングプアと呼ばれる人々の収入の底上げにもつながる。
現代における少子化の原因の一つに、金銭的不安があげられる。ベーシックインカムによって金銭面の負担や不安が軽減されることにより、多くの人に子どもを持つという選択肢ができ、少子化の解消も期待できるだろう。
ベーシックインカムによって無条件に収入を得ることができれば、生活のための労働に縛られる状況が緩和されるだろう。それにより、多くの人々がより安心安全な働き方ができる企業を選択できるだけでなく、より多様な働き方も可能になるだろう。
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先述したように、ベーシックインカムには多くのメリットが考えられる一方で、懸念されるデメリットも存在する。
ベーシックインカムが導入されることにより、何もせずに現金が入ることで「働く必要がない」、「最低限の収入が得られるなら努力して上のポジションを目指す必要はない」など、人々の労働意欲や競争意欲が低下する可能性も指摘されている。
ベーシックインカムを実現するためには、国が莫大な財源を確保しなければならないとされている。例えば、国民1人につき月7万円を支給する場合、年間約100兆円分の財源確保が必要だ。この金額は年間の国家予算と同規模となるため、ベーシックインカムを実現するために、財源確保はもっとも大きなハードルになるだろう。
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ベーシックインカムが注目されている背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による不況やAIなどのデジタルテクノロジーによる失業などが挙げられる。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大や、AIなどのデジタルテクノロジーによる失業などの影響を受け、多くの人の移動や労働が制限され、経済は大きな打撃を受けた。これにより、労働を通じて暮らしを成り立たせる賃金を得ることが難しくなる人々が増加。そこで、貧困対策として「労働とは別の回路で所得を配当した方がいいのではないか」と注目され始めたのがベーシックインカムなのだ。
いわゆるワーキングプアと呼ばれる人々は、生活が苦しくても生活保護を受ける水準ではないとされ、生活保護などを受けることができない。しかし、所得の制限がなく、無条件で収入を得ることができるベーシックインカムが導入されれば、生活が苦しい人々の収入の底上げにつなげることができるだろう。
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現在、日本の相対的貧困率は15%前後と言われており、7人に1人が貧困状態にあると言われている。世界的に見ても、経済のグローバル化が進む中、経済的に豊かな人々と貧しい人の差が大きく広がっていることが問題視されている。また、女性の雇用の機会が少ないことや、家庭の経済状況によって学習や栄養面で差が出てしまう「子どもの貧困」も課題となっている。これらの問題を解消し、すべての人が安心した暮らしを続けていくためには、貧富の差が是正される必要がある。
無条件で支給され、最低限の生活を保障するベーシックインカムは、貧困や経済格差の問題を解決し、結果的にSDGsで掲げられている目標1「貧困をなくそう」の達成につながると期待されている。さらに、AIなどの台頭によって失業者が増えると予想されているが、万が一急速に失業者が増加した場合でも、ベーシックインカムが役立つのではないかと言われている。
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴って経済活動が停滞し、多くの人々に苦しい生活が強いられるなか、日本ではすべての人に給付金が給付された。緊急対応ではあったものの、ベーシックインカムに近いモデルであったことが注目されている。これを受け、日本ではベーシックインカムの段階的な導入や支給金額の見直しなどが継続的に議論されている。ここでは、世界で行われている実例もいくつか紹介する。
フィンランドでは、2015年の総選挙に勝利した中央党が選挙公約として掲げてきたベーシックインカムの実験を行った。抽選で選ばれた2,000人を対象に、失業手当と同額の560ユーロを2年間にわたって支給。実験の結果、労働意欲や雇用の促進に影響はそれほどなかったものの、ストレスが軽減され、幸福度が向上したという結果が出ている。
2022年、カリフォルニア州ロサンゼルス市でいくつかの条件を満たす約3,200世帯を対象に、毎月1,000ドルを1年間支給する導入実験が行われた。その結果、エリック・ガルセッティ市長は、「困難な状況にある家族にリソースを提供することで、私たちの多くが幸運にも当たり前のように享受している目標を実現する余裕を与えることができる」と述べている。また、アメリカではその他の地域でも導入実験が進められている。
ブラジルのマリカ市では、条件つきで地域通貨がカードやスマートフォンへのチャージ式で支給されている。このシステムを導入したことによって、支給された人々がベーシックインカムを何に使用しているのかを把握でき、給付後の人々の行動の変化を正確に測定できるようになった。ブラジルにおける資金調達は石油収入によるものであるため、財源確保がしやすく、長期的な実験が可能だと言われている。
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ベーシックインカムを実現するには膨大な予算が必要なため、日本での導入時期は未定。しかし、日本でも導入に関して継続的な議論が行われており、国民民主党や日本維新の会が導入に意欲的だ。
例えば、日本維新の会はすべての国民に無条件で1人当たり月に6万円から10万円を支給することを政策として掲げているが、実現には年間およそ100兆円が必要になることから、財源の確保が大きな課題だ。そのため、現在も段階的な導入や支給金額の見直しなどを検討する議論が行われている。一方、国民民主党では、税金を一定額減税する「給付付き税額控除」と、要請を受ける前に支援を行う「プッシュ型支援」を組み合わせた「日本型ベーシックインカム」という仕組みを提案している。
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ベーシックインカムは、すべての人々にとって魅力的かつ画期的な制度だ。生活の底上げが叶うことですべての人が安心して働き、心配なく暮らしていくことができるようになるため、貧富の差や経済的格差を解消する大きな手段となるだろう。一方で、膨大な財源の確保が必要なため実現までの道のりは長いかもしれないが、世界的にも実験的な実例が増加しており、日本でも実現に向けた議論がされるなど、さまざまな動きが見られている。誰もが笑顔で暮らせる未来に期待したい。
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