ジェンダードイノベーションとは 意味や歴史、身近な事例を解説

男女4人が肩を組みながら歩く様子

Photo by Oveth Martinez on Unsplash

さまざまなプロセスに性差の視点を取り入れる「ジェンダードイノベーション」。SDGsとも関わりが深いこの概念は、今後の社会に欠かせないものとして注目されつつある。本記事では、ジェンダードイノベーションの意味や歴史を解説。ジェンダードイノベーションといえる身近な事例も紹介する。

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2023.10.30
SOCIETY
学び

イベントや商品の魅力を広げる エシカルインフルエンサーマーケティング

ジェンダードイノベーションとは

ホワイトボードを使ってディスカションする様子

Photo by Jason Goodman on Unsplash

ジェンダードイノベーションは、性差に注目するという意味がある「ジェンダード」と、革新の意味がある「イノベーション」を組み合わせた造語。さまざまな分野のプロセスに性差分析を組み込むことで、イノベーションをもたらそうとする概念である。

ジェンダードイノベーションは、性差によって損得が生じる状況をなくすために欠かせない概念だ。とくに化学・技術分野の研究においては、男性のみを前提としているがゆえに、女性に不利益が生じるケースが多かった。1997年から2000年の間に健康に有害と判定されて米国市場から撤退した10品目の医薬品のうち、8品目において男性よりも女性に大きな健康リスクがあると報告されたことも、事例のひとつとされる(※1)。

なお、性には生物学的な性と文化的・社会的な性があるが、両方に配慮することが重要。近年では、男女の性差だけでなく、LGBTQについて考慮することも求められている。

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ジェンダードイノベーションとフェムテック

女性がコーヒーを飲みながら読書をする様子

Photo by Anthony Tran on Unsplash

フェムテックは、「Female(女性)」と「Technology(技術)」をかけ合わせた造語。テクノロジーの力で、女性ならではの悩みや問題を解決するサービス・プロダクトを指す。「フェムテック元年」といわれた2020年を皮切りに年々注目されるフェムテックだが、カバーする領域は、生理や妊娠、更年期など、健康における特定の分野に限定される傾向にある。

一方で、ジェンダードイノベーションは、さまざまな領域における考え方。フェムテックより概念がおよぶ範囲が広く、上位概念にあたるといえる。

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ジェンダードイノベーションの歴史

本を開いて勉強する女性

Photo by Sarah Noltner on Unsplash

ジェンダードイノベーションは、2005年に、スタンフォード大学のロンダ・シービンガー教授によって提唱された。2009年には、同大学においてジェンダードイノベーションのプロジェクトがスタート。積極的な国際連携が行われ、同プロジェクトは、2011年3月に可決された国連決議の策定に協力した。ほか、欧州議会でプロジェクトの報告が行われ、EUの政策にも影響を与えている。2015年8月に韓国ソウルで開催された「ジェンダー・サミット6:アジア太平洋地域」では、ジェンダードイノベーションがテーマとなった(※2)。

プロジェクトを中心とした活動により、ジェンダードイノベーションの概念は世界へ浸透しつつある。SDGsとの関わりも深く、今後ますます重要視されるだろう。

ジェンダードイノベーションの事例

2人がピースサインを掲げる様子

Photo by Priscilla Du Preez 🇨🇦 on Unsplash

ジェンダードイノベーションは私たちの生活全般に関わる概念であり、実際に、化学・医療・工学・環境・まちづくりなど、多様な分野において事例が存在する。以下では身近な例を3つ挙げる。

シートベルトの見直しによる安全性の向上

車の衝突実験では、男性の体型を模したダミー人形が使われる傾向にあった。女性の運転が想定されていないケースが多かったからだ。男性の体型を前提としたシートベルトの普及により、事故の際には、男性より体が小さい女性の重傷率が高く報告されていた事実がある。また、3点式のシートベルトは妊婦の流産率を上げていることもわかっているという(※3)。

ジェンダードイノベーションにより、近年は、さまざまな体型を考慮したシートベルトの設計が進んでいる。開発のプロセスに性差分析を含めることが、自動車の安全性の向上につながっているのだ。

誰もが使いやすい農業機械の開発

農林水産省では、女性農業従事者のノウハウやアイデアを企業と結びつけ、新たな商品・サービスを創造する「農業女子プロジェクト」を行っている。生産力・知恵力・市場力の3つの力が重視されており、そのなかに、商品開発や既存商品の改良がある。

農業機械専業メーカーの「ISEKI」は、プロジェクトとのコラボ商品として、農業女子の視点を活かした「農業女子トラクタ」や、耕うん機「ちょこプチ」シリーズを展開している。とくに、「ちょこプチ」は、女性の視点を取り入れたことで、みんなに使いやすい機械に仕上がった(※4)。従来の農業機械は男性の視点で開発される傾向にあり、女性には使いづらいものも多かった。そこに切り込んだジェンダードイノベーションといえる。

女性の視点を反映した防災・復興ガイドラインの作成

内閣府は2020年に、地方公共団体が災害対応にあたって取り組むべき事項をまとめた「災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン~」を作成した。そのなかで、災害から受ける女性と男性の影響やニーズの違いを把握することの重要性に触れ、対策を講じるために、複数の項目において男女別のデータを収集するよう呼びかけている。ガイドラインの作成にあたっては、パブリックコメントにおける意見も反映されている(※5)。

日本の防災政策に男女参画の視点が入ったのは2005年のこと。しかし、2011年の東日本大震災では、女性や要配慮者の困難が顕在化した事実がある。それを受けて2013年に策定されたのが「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針(旧指針)」だった。2020年に策定されたガイドラインは、旧指針を改定する形で作成された。多数の事例を反映し、要配慮者により寄り添った内容となっている(※6)。

ジェンダードイノベーションの浸透でよりよい未来へ

さまざまな分野でいまよりもっとジェンダードイノベーションの視点が浸透すると、間違いなく社会がよくなるだろう。ジェンダードイノベーションは、SDGsで誓っている「誰一人取り残さない」ことにも大きく通じている。性差の考慮をはじめ、多様な視点を持つことが、持続可能な社会の実現のために必要なのではないだろうか。

※掲載している情報は、2023年10月30日時点のものです。

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