フェムテックとは、女性の健康をテクノロジーの力でサポートする商品やサービスのことを意味する。近年、女性のニーズが可視化されるようになったことで一気に注目を集めるようになった新しい考え方だ。本記事では、フェムテック登場の背景や、実際の事例、今後の課題について紹介していく。
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フェムテックとは「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせて生まれた造語で、女性の健康やライフステージにおける課題をテクノロジーを活用して解決するサービスや製品を指している。
フェムテックの具体例としては、月経周期を予測するアプリやピルのオンライン診断・処方、ウェアラブルな搾乳機やプレジャートイなどが挙げられる。フェムテックの範囲は拡大しており、現在進行形で多様なサービスや製品が開発されている。
海外で大きな盛り上がりを見せ、ここ数年で日本にも浸透してきた。今後大きく成長する市場として、投資家たちからも注目を集めている。
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ここからは、現在の代表的なフェムテックのそれぞれの分類について解説していく。
月経周期の追跡や管理を支援するアプリやデバイスなどは、フェムテックの身近な例だ。これらのツールを利用することで、生理周期やPMS、排卵日の特定を予測可能にし、生理周期の変化のモニタリングできる。女性が自身の身体の変化を把握しやすくなることで、社会での活躍をサポートしている。また月経に関する情報や教育を提供するプラットフォームも、月経フェムテックの一部である。
テクノロジーを使用していない生理用品や、ナプキン一体型パンツなども、これまではフェムテックとして一括りにされいた。しかし最近では、これらの製品の総称は「フェムケア(FemCare)」と呼ばれ、フェムテックとの使い分けがされている。
妊娠・不妊に関連するフェムテックでは、妊娠を希望する女性や不妊治療を受ける女性を支援するためのサービスや製品を提供している。排卵日を予測するアプリや排卵検査キット、妊娠検査キット、不妊治療の支援プログラムなどがこの領域である。さらに、妊娠中の過ごし方や食事方法などの情報提供やサポートも行われている。
産後の社会復帰や体調のケアなどは、女性だけではなく社会全体の生産性にも関連している。産後ケアのフェムテックは、出産後の母親の健康と社会復帰へ焦点を当てている。搾乳機や子育てアプリ、産後の体力回復や骨盤のケア、心理的健康をサポートするサービスなどが展開されている。また産後の女性の仕事現場への復帰を支援する、法人向けのサービスも注目されてい
女性はライフステージによってホルモンバランスが大きく変化し、それに合わせて体質や心理的な傾向も変化する。とくに更年期においてその変化は顕著であり、更年期障害として現れ、女性にとっての課題となっている。更年期に関連するフェムテックでは、更年期症状の管理や健康促進を目的としたサービスや製品が展開されている。またホルモン補充療法や更年期症状の追跡・管理アプリなどの開発も進んでいる。更年期フェムテックは、女性が長く活躍できる環境を目指している。
婦人科系疾患に関連するフェムテックは、婦人科の健康問題や疾患の早期発見や管理をサポートするためのサービスや製品を開発・提供している。女性特有の子宮がんや乳がんなどのスクリーニングアプリの開発、子宮内膜症や子宮筋腫の症状追跡アプリ、性感染症の自己検査キットなどが一般的な例である。疾患は早期の発見と治療が求められ、フェムテックの必要性は高い。
セクシャルウェルネスに関連するフェムテックは、性的健康や性生活の品質を向上させるためのサービスや製品を指す。性行為や性的快楽のトラッキングアプリやセクシャルトイなどが注目されているが、そのほかにも性教育のプラットフォームなどもフェムテックに含まれる。セクシャルウェルネスフェムテックは、女性が自分の性的健康に対する理解を深めることを目的としている。
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近年フェムテック関連のサービスや商品が急増し、社会的にも浸透している背景には何があるのか。ここではその理由を解説する。
従来、女性の健康に関する問題や悩みはタブー視され、あまり話題にされることはなかった。しかし女性の社会進出が進むにつれて、女性の健康やライフスタイルに関するニーズや悩みが顕在化するようになった。それに伴い、フェムテックの概念が浸透し、市場も盛り上がりを見せている。
また国をあげても女性の社会進出を進めており、2016年には「女性活躍推進法」も施行された。同法ではフェムテックを活用して、女性の社会進出を支援することを定めている。
近年、社会全体でジェンダー平等や女性の権利に関する意識が高まっている。女性の健康やライフスタイルに関する問題が、過去に比べてより公然と議論されるようになってきた。
SDGsにおいても「ジェンダーの平等」を目標に掲げており、女性の健康に関する情報やニーズが重視され、それに応じたサービスや製品が世界的に求められている。フェムテックは、このようなジェンダー平等の意識の高まりを受けて、女性の健康や生活の質を向上させるためのソリューションを提供している。これを表すように、2025年にはフェムテック市場は5.5兆円規模に成長すると見込まれている。(※1)
IT技術の進化やスマートフォン、ウェアラブルデバイスの普及によって、あらゆるデータがデジタル化されるようになった。それらのデバイスによって個人のヘルスデータが収集され、それに伴い女性の健康に関するデータ収集やモニタリングも進められた。
現在ではスマートフォンアプリやウェアラブルデバイスによって、気軽に生理周期の把握や体調管理が可能となってきている。フェムテックはこのようなデジタルヘルスケアのトレンドに乗り、女性の健康管理をより効果的に支援するものとして社会に広がっている。
TwitterやInstagramなどのソーシャルメディアの普及により、女性が日常的に抱える悩みや健康に関する問題がより広く共有されるようになった。SNS上での情報交換や共感を通じて、女性同士が健康やライフスタイルに関する経験を共有し、支え合うことが可能になったと同時に、男性が女性の抱える課題について知る機会も増えてきている。フェムテックは、このようなSNSの普及によって可視化された女性の悩みやニーズに応えるための受け皿としての役割も持っている。
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ここでは、国内外のフェムテックの商品・サービス事例を紹介する。
株式会社エムティーアイが提供する生理日管理アプリ「ルナルナ」は、国内フェムテックの先駆け的な存在。毎月の生理開始日を記録することで、次の生理日や排卵日、妊娠しやすい時期を予測し知らせてくれる。さらに生理日と生理周期から女性ホルモンのバランスを計算し、スキンケアやダイエットへのアドバイスも受け取ることができる。
「Sai+」は医療スタートアップ株式会社Linc’well(リンクウェル)が提供する、女性ウェルネスのためのメディカルブランド。
クリニックと連携することでオンライン診察を可能にし、PMS(月経前症候群)の症状を緩和するサプリメントや低容量ピルなどの処方薬を毎月配送するサービスをおこなっている。病院の予約や待ち時間などの課題を解消してくれるほか、持ち歩きやすくリサイクル可能なパッケージ素材にもこだわっている。
「F check(エフチェック)」は株式会社F Treatment(エフトリートメント)が販売している、卵巣年齢チェックキット。
自宅で採取した血液を検査センターに郵送すると、WEB上で自分の卵巣年齢が確認できる。採血は専用キットを使用し、指先から簡単に採取が可能。忙しくて病院へ足を運ぶことが難しい人でも、予約や待ち時間のストレスなく検査ができる優れものだ。
JoyHerは、更年期のセルフケアをサポートするアプリだ。一人ひとりの症状に合わせた最適なケア方法を提案し、さらには同じ更年期の悩みを抱えている女性たちとアプリ上でつながることもできる。コミュニケーションを取ることで、症状やケア方法の共有や心理的な共感も得られる。
スイス発のスタートアップが開発した「Ava(アバ)」は、排卵日を正確に予測するブレスレット型のデバイス。就寝中に着けるだけで呼吸数、心拍数、睡眠の質、体温など、生殖ホルモンの増加によって変化する生理学的パラメーターをモニターし、妊娠しやすい日を予測する。反対に、妊娠しにくい日も予測できるため、避妊をしたい女性にも役立ちそうだ。
株式会社With Midwifeは長野県内でフェムテック事業を展開する企業だ。産後の母親や家族を対象にしたサービスで、オンライン上で助産師のアドバイスを受けられる。体調管理や職場への復帰など、出産後に起こる多くの課題への対処が可能だ。
イギリス発のブランド「Elvie(エルビー)」は、主に産後ケアの製品を開発している。製品の一つである「Elvie Trainer」は、加齢や出産などによって衰えやすい骨盤底筋を鍛えるデバイス。アプリと連動させて膣内に挿入することで、骨盤底筋を絞めるトレーニングができるほか、膣内の圧力も確認できる。
ウェアラブル搾乳機「Elvie Pump」はコンパクトなデザインで下着のなかに装着が可能。電動で搾乳してくれるだけでなく、アプリを使用して搾乳の強さの調整や、母乳の状態の記録もできる。
ユニ・チャーム株式会社の運営する生理周期を管理するアプリ「ソフィ」では、女性の体質を24に分類し、体質によって異なる生理痛やPMSの症状への適切な対処方法を提供している。
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フェムテックの世界市場規模は、2025年までに約5兆円にもなると言われている。現在海外でフェムテック事業を展開している企業は、300社以上。一方、日本でも徐々に市場が拡大しつつあり、50社ほどの企業が市場に参画している。
日本の経済産業省ではフェムテック推進のために、フェムテックを開発した企業や導入した企業に事業費補助金制度を提供している。人材の多様性を高め、企業の価値創造や女性の働きやすさの推進を目的としている。(※2)
今後さらに市場を拡大するためには、女性が持つ性や身体の悩みを女性だけの課題とせず、男性側も理解を深める必要がある。そのためにも、女性が抱える問題を語ることをタブー視しない環境づくりは必要不可欠だ。
海外では、すでにフェムテックは女性だけのものではないという思考が広まりつつある。生理用品においては、トランスジェンダーで「生理のある男性」にとっても手に取りやすいようなデザインの施された商品やサービスが続々と登場している。
性の垣根なく、誰でも話題にできて、誰でもおしゃれを楽しむようにライフスタイルに取り入れる。そんな新しい価値観を生み出すアイデアが、今後の日本のフェムテック市場に登場することを期待したい。
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