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世界的な課題のひとつに「バリアフリー」がある。高齢によるハンデキャップ、障害の有無、性別や考え方の違いなどにとらわれない共生社会に向けた相互支援には、バリアフリーの知識が不可欠だ。社会に存在する、目に見えるバリアと心のバリア。双方の障壁を解消するための取り組み事例を紹介する。
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エレミニスト編集部
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私たちが暮らす社会は、多様な人々で構成されている。年齢や性別、国籍や宗教、仕事や受けてきた教育もさまざまだ。
しかし、多様な人々がいるにもかかわらず、多数を占める人に合わせて社会がつくられてきたことで、少数の人たちにとって、至る所に不便さや困難さがある。
「バリア」とは、英語で障壁(かべ)という意味、「バリアフリー」とはすなわち、障壁をなくすという意味の言葉だ。
もともとは建築用語のひとつとして、たとえば道路や建物の段差のような物理的なバリアの除去という意味で使われてきた。
現在では、高齢者や障害をもつ人のみならず、あらゆる人の社会参加を困難にしているすべての分野でのバリアの解消、という意味を指すようになった。
社会の中で直面するバリアには、大きく分けて4つある。
狭い通路、ホームと電車の隙間や段差、滑りやすい床、車いすを使う人には押せないエレベーターのボタンなど、公共交通機関や建物などにおいて、利用者に困難をもたらす物理的なバリアのこと。
盲導犬を連れての入店を断られることや、就職や資格試験などで障害があることを理由に受験や免許などの付与を制限するなど、社会のルールや制度によって、能力以前の段階で機会の均等を奪われているバリアのこと。
視覚に頼ったタッチパネル式のみの操作盤、音声のみによるアナウンス、点字・手話通訳のない講演会など、伝達方法が不十分であるために、必要な情報が平等に得られないバリアのこと。
心ない言葉、偏見や差別、無関心など、障害のある人を受け入れないバリアのこと。
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「バリアフリー」と混同されがちな言葉に「ユニバーサルデザイン」がある。
「バリアフリー」は、高齢者や障害者など、特定の人たちにとっての障壁を取り除くという考え方。しかし「ユニバーサルデザイン」は、はじめから障壁のない設計をあたりまえにしようとする考え方だ。言い換えれば、「誰にでも使いやすいものを目指すデザイン」である。
「バリアフリー」の考え方が生まれたのは、第二次世界大戦後のアメリカ。戦争で負傷したり障害を負った人の就労対策として広まっていった。
しかし、高齢者や障害者といった特定の人たちだけを対象としてバリアを解決するものづくりに違和感を覚える人が現れてきた。その一人が、アメリカのロナルド・L・メイスだ。(※1)
彼は「ユニバーサルデザイン」とは、みんなのためのデザイン(Design for ALL)であると主張した。
建築家で工業デザイナーでもあったロナルド・L・メイスによって提唱された「ユニバーサルデザイン」の考え方は、次の7つを原則としている。
1. 公平であること(Equitable use)
例:誰もが同じように利用できる自動ドアや段差のない歩道、エレベーターなど
2. 柔軟性があること(Flexibility in use)
例:誰もが不憫を感じることなく、自由に使えるデザインであること。高さの異なる台を複数用意する、男性用のトイレにおむつを替えるスペースをつくる、左利きの人でも操作しやすい道具にするなど
3. シンプルであること(Simple and intuitive)
例:疑問やストレスを感じないデザイン。シャンプーとリンスの取り違え防止のためにボトルにつけられたきざみ状の突起、操作が行われたことを音声で知らせて確認を促す機能など
4. わかりやすいこと(Perceptible information)
例:誰でもひと目で理解できるようなデザイン。案内表示におけるピクトグラムや矢印、誘導線、多国語ややさしい日本語での表記など
5. 安全であること(Tolerance for error)
例:使っている際に危険性をともなわないデザイン。家電に採用されている火災やヤケド防止の簡単に外れるマグネット式コードや、電源自動停止機能など
6. 身体への負担が少ないこと(Low physical effort)
例:誰もがストレスを感じず簡単に使いこなせるデザイン。片手で自由に着脱可能なマフラー「ミフラー」
7. スペースが確保されていること(Size and space for approach and use)
例:大きさやスペースが広く取られた快適なデザイン。車椅子でも余裕を持って通れるような駅改札
あらゆる人たちに向けた実用性・安全性の高いデザインは、世界でも急速に広がっている。
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「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」が目指す方向性は、同じだ。
障害のある人もない人も、すべての人が参加しやすい社会にしていくために、どのようなことがバリアになっているのか、それを解消するためにどんな取り組みがなされているのか。
社会にある4つのバリアを解消する取り組み例を見てみよう。
もっとも身近なバリアフリーは、車いすの方や足の不自由な方が、お店の入口や歩道に段差があって通れないような物理的なバリアを解消した取り組みだろう。
・乗降口に段差をなくしたバス
・駅の広い改札口、スロープ
・ホームの端に、線路への転落防止ドアを設置(ホームドア)
・車いすの方も利用できるトイレ
・子どもや車いすの方でも手が届く公衆電話や自動販売機
・視覚に障害のある人向けの、点状ブロックや線状ブロック
・文字がわからない人にも場所を案内する、図記号(ピクトグラム)
社会のルールや制度によって、障害のある人が能力以前の段階で機会の均等を奪われないようにするための取り組みや、教育や医療を受けやすい環境、就職しやすい環境、スポーツや文化活動などに参加しやすい環境の整備が奨められている。
・障害者差別解消法(障害者の権利を守り、障害がない人との共生を実現するための法律)(※2)
・障害者の住宅改修、 バリアフリー法(※3)
・身体障害者補助犬法(※4)による、盲導犬を連れてのレストランやホテル利用
・幼児連れでも、ことわらないお店
新聞が読めない、信号がわからない、テレビの内容がわからないなど「情報が得られない」バリア、「文化活動の機会が得られない」バリアがある。ハンデを持つ人々が抱える課題に対して無関心であったり、理解がない場合に見過ごされがちなバリア。
・手話通訳付きのテレビ番組や会見
・イベントや催しもの会場内の託児
高齢者や障害のある方を見て「かわいそう」「気の毒だ」と思うだけで、協力の手を差しのべられない人も多い。配慮が必要な方々を支援するために、バリアフリーに関するさまざまなサインやシンボルマーク(※5)がいろいろな場所で使われてる。
・身体障害者や視覚障害者のための国際シンボルマーク
・ベビーカーマーク
・ほじょ犬マーク
・ハート・プラスマーク
・ヘルプマーク
・自動車の運転者が表示する標識
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「誰ひとり取り残さない」をテーマに掲げられたSDGsの目標には、障害者に関するものも多く含まれ、課題解決に向けた取り組みも行われている。バリアフリーやユニバーサルデザインの考え方も、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくり」に通ずるものだ。
ターゲット11.2
「2030年までに脆弱な立場にある人々や女性、子供だけでなく、障害者や高齢者のニーズにとくに配慮しながら、公共交通機関の拡大などの交通安全性を改善し、すべての人々が安全・安価で、容易に利用できる持続可能な輸送システムへのアクセスを提供すること」
ターゲット11.7
「2030年までに女性や子供、高齢者、障害者を含め、すべての人々に安全かつ包摂的で、利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的かつ持続可能なアクセスを提供すること」
公共サービスへのアクセスを安全かつ容易にすべての人が利用できるようにすることが、住み続けられるまちづくりの根幹であるとし、政府は2006年にバリアフリー法を施行。
住環境や社会インフラ、ニーズを満たすさまざまなサービスの利用促進が図られている。
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「心のバリアフリー」とは、高齢者や障害者などが安心して日常生活や社会生活を送るために、ひとりひとりが自分たちの問題として認識し、心のバリアを取り除き、その社会参加に積極的に協力することだ。
国や自治体のバリアフリーへの取り組みに関心を持つこと、ハンデを持つ人々が抱える課題に対して日常的に目を向け、意識的に配慮し、誰にとっても生きやすい社会の実現を目指したい。
参考
※1 UD資料館 JITSUKEN|https://www.ud-web.info/born
※2 厚生労働省|厚生労働省における障害を理由とする差別の解消の推進
※3 国土交通省|バリアフリー法の概要について(建築物関連)
※4 厚生労働省|身体障害者補助犬
※5 国土交通省|バリアフリーに関するサイン・シンボルマーク
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