2020年から教育現場でも広く扱われている「心のバリアフリー」。具体的にどのような意味で、どんな場面で使われているのだろうか? 心のバリアフリーが求められる具体的なシーンや、企業・自治体・学校などで行われている取り組み事例を紹介しよう。
ELEMINIST Editor
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心のバリアフリーとは、「さまざまな心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うこと」だ。2017年2月に行われた、ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議にて決定された行動計画で、その指針が示された。
社会にはさまざまな人がいて、それぞれが「心のバリア」を持っている。すべての人が気持ちよく暮らしていくためには、積極的な協力が必要不可欠だ。高齢者、障害者などが抱える困難を「自分ごと」として捉え、積極的に行動しようと訴えかけているのが「心のバリアフリー」である。
心のバリアフリーが注目されるようになったきっかけのひとつが、東京パラリンピックだ。あらゆる人々が助け合って暮らす共生社会の実現を目指し、内閣官房が積極的に推進している。
首相官邸サイトでは、心のバリアフリーに関する説明とともに、アニメーション教材や研修用プログラムを配布。文部科学省では2020年以降、新学習指導要領のもと、特別支援学校に通う子どもたちとの積極的な交流活動の実現を目指している。共同学習を通じて、心のバリアフリーを定着させる狙いがある。
バリアフリーのバリアとは、「障壁」を示す単語である。障害者や高齢者など、異なる条件を持つさまざまな人々にとって、その行動を阻む4つのバリアが存在すると言われている。
・物理的な障壁
狭い通路や段差、道をふさぐ自転車など
・制度面の障壁
障害があるために特定の資格や免許の取得を認められない
・文化や情報面の障壁
点字・手話がない講演会、日本語だけの公共アナウンスなど
・意識上の障壁
自分とは異なる条件を持つ人々に対して無関心である、受け入れようとしないなど
これまで意識されてきたバリアフリーは、上3つを指していた。心のバリアフリーが対象としているのは、4つ目のバリアである。環境や制度を整えるだけでは、真のバリアフリーを生み出すことは不可能である。
もちろん環境や制度の整備も重要ではあるが、それとともに、困っている人の気持ちを理解し、正しい形で必要な手助けをしようとする「心」が必要である。
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では具体的に、どのような場面で心のバリアフリーが必要となるのだろうか?具体例を6つ紹介しよう。
エレベーターが混雑していると、車いす利用者が利用できなかったり、他の人から心ない目線を向けられたりするケースがある。必要としている人が気持ちよく使えるよう、配慮するのが望ましい。
緊急時には日本語で何らかのアナウンスがされるケースも多いが、外国人のなかには、理解が難しい人もいる。戸惑っている人がいたら、積極的に声をかけ、簡単にでも情報を伝達できるといい。近年では、日本語に続いて外国語でアナウンスされるケースも増えてきている。
混雑している電車内には、何らかの事情によって座席を必要としている人がいる。妊娠・病気・けが・突然の体調不良など、目には見えなくても座ったほうがいいケースは少なくない。こうした場面に出くわしたら、優先席かどうかにかかわらず席を譲ろう。
多目的トイレや街中の点字ブロックは、それを必要とする人のためのものである。「自分には関係ない」と無視するのではなく、必要な人が気持ちよく使えるように配慮しよう。「トイレを譲る」「点字ブロック上にものを置かない」などの取り組みも求められる。
「ペットだから」という理由で、飲食店への盲導犬入店を断られる事例はまだまだ多い。また入店を認められても、他の客に理解されず、居心地の悪い思いをすることもある。なぜ同伴が必要なのか、理解して接する必要があるだろう。法律では、盲導犬の同伴を受け入れるのはお店側の義務である。理解を深めることも、心のバリアフリーの取り組みのひとつである。
細かな動作や読み書き、計算が苦手な人は、「レジでの支払い」に時間がかかる場合がある。もし自分が接客係なら、相手に合った方法でコミュニケーションしたり手助けしたりするのが望ましい。また「後ろに並んでいる客」の立場であっても、気遣いは必要だ。寛容な姿勢で待つことも、心のバリアフリーである。
心のバリアフリーを推進するため、全国でさまざまな取り組みが行われている。以下はその例である。
平成28年、神奈川運輸支局は横須賀市立野比東小学校において、交通バリアフリー教室を開催した。小学5年生の児童90名が車いす利用体験・高齢者疑似体験・ノンステップバスの機能見学などを行った。支援が必要な人の立場を実際に経験してみることで、心のバリアフリーの重要性を認識した。(※1)
ハード面だけではなく、ソフト面におけるバリアフリーにも積極的に取り組むイオン。ユニバーサルデザインに関する検定や、LGBTに関する研修は、社員だけではなくテナントのアルバイト店員までをも対象に実施している。
また各モールにて、障害者への理解を深めるイベントを実施。イオンモール日の出では、地元の行政に協力して「ハートワークフェア」を開催している。令和元年度東京都「心のバリアフリー」好事例企業に選出された。(※2)
秋田県の大仙市教育委員会では、市内の小中学校で「障がい者スポーツイベント」「啓発プログラム」「ユニバーサルデザインの授業」「交流および共同学習」など、子どもたちの心のバリアフリーに向け、さまざまな取り組みを行っている。教育委員会が積極的に後押しすることで、各種イベント・授業の実現につながった。(※3)
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これまでの「バリアフリー」と言えば、ハード面ばかりが注目されてきた。しかしハードの充実だけで、理想の共生社会は実現できない。重要なのは、人同士の結びつきや思いやりであり、それこそが「心のバリアフリー」である。
すべての人が平等に社会で輝き続けるためには、心の障壁を取り除く必要がある。いま、自分に何ができるのか、ひとりひとりが考え始めることが、共生社会の実現に向けた第一歩だろう。
※1 心のバリアフリーに関する取り組み事例集(5P)
https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/021/860/bfs2sankoushiryou2.pdf
※2 令和元年度 東京都「心のバリアフリー」好事例企業(2P)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kiban/machizukuri/kokoro_support.files/2019koujirei.pdf
※3 心のバリアフリー 障がい者理解学習 リーフレット
http://www.edu.city.daisen.akita.jp/~ky-iinkai/Barrierfree/kokoro_Barrierfree_leaflet.pdf
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