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弱い立場にある人々の権利を奪ってしまう人身売買。世界だけでなく日本でも起きている、身近に潜む犯罪だ。本記事では、人身売買の定義や現状、対策を解説する。人身売買は決して、遠い国や映画のなかだけの話ではないことがわかるだろう。
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人身売買とは、弱い立場にある人々を搾取する目的で、獲得・輸送・受け渡しをおこなうこと。被害者は暴力や脅迫などの強制的な手段や勧誘によって拘束されることが多いとされる。搾取の目的は、強制労働や性的搾取などさまざまだ。人身売買は、被害者の人権を侵害し、心身ともに深刻なダメージをもたらす犯罪行為である。
人身売買と同義で使われる言葉に人身取引がある。弱い立場の人々を搾取する点で共通しているが、日本政府はおもに人身取引の用語を使っている。人身売買は、女性に対する暴力や性的搾取において使われることが多い。対して人身取引は、国際条例によって定義されている言葉であり、搾取の目的の幅が広いのが特徴だ。
人身売買の被害者の約25%は子どもだといわれており、後発発展途上国では被害者の大多数を子どもが占める。また、女性や女の子が多く被害に遭っているという主要データがあり、2003年に国連薬物犯罪事務所(UNODC)が人身売買のデータ収集を開始して以来、この傾向に変化はない。(※1)
人身売買は遠い国の話や昔の話として捉えられがちだが、実は日本でもおこなわれている。詳しくは後述するが、毎年人身取引で複数人が検挙されているのが現実であり、決して他人事ではない。
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人身売買の主な目的として挙げられるのが強制労働や性的搾取だが、ほかにもさまざまなケースが報告されている。以下で、人身売買による搾取例を紹介する。
強制労働のための人身売買は、世界中の多くの地域で行われている。国家や民間企業、個人が弱い立場の人をさまざまな方法で拘束して労働を強いるのだ。子どもによる児童労働も多発しており、被害者は男女問わず奴隷のように労働をさせられる。業種は、農業・建設業・鉱業・家事労働など多岐にわたる。強制労働の被害者がもっとも多いのは、アジア太平洋、次いで中南米・カリブであり、先進国にも存在するといわれている。(※2)
人身売買では、性的欲求を満たすために犠牲になる子どもや女性たちが多く存在する。売春や風俗店での強制労働などによる、性的搾取の被害があとを絶たないのが現実だ。性的関係の強要をはじめ、毎日深夜まで働かされたり自由を奪われて監視されたりと過酷な生活を強いられることが多い。国外に人身売買され、後ろ盾がないなかどうすることもできずに苦しむ場合もある。
性的搾取は被害者の心身に重大なダメージを与える行為であり、トラウマが残ることも少なくない。偏見の目に晒され、社会復帰が難しくなるケースもある。性的搾取を受けた被害者は、心に大きな傷を抱えながら生きていくことになるのだ。
人身売買によって臓器が摘出されるケースもある。多くの先進国では、臓器の斡旋に関して規制が設けられており、日本では臓器の提供や対価として利益を得ることが禁止されている。しかし、臓器には需要があり莫大な利益をもたらすため、世界的に違法な取引が行われているのが現状だ。
世界には、臓器売買をビジネスとして行う組織も存在する。ビジネスに必要な臓器を、人身売買によって手に入れるのだ。人身売買が横行しているエリアでは、貧困を理由に親が子どもの臓器を提供する事例も少なくない。
ほかにも、強制結婚やポルノ制作のために人身売買がおこなわれることもあり、目的は多岐にわたる。これもまた一例に過ぎないが、物乞いをする子どもたちを人身売買の犠牲者として保護する必要性を訴えた報告書が存在する。物乞いは一見すると犯罪行為に見える。だが蓋を開けると、自身の意思に反し、犯罪組織によって強制されている可能性があるというのだ。
上記のように、被害者に自覚のない人身売買や発覚しにくいパターンも潜んでいる。表に出ている人身売買は、氷山の一角でしかないことをとどめておきたい。
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人身売買は秘密裡におこなわれるケースが多く、正確な被害者数を把握するのはとても難しい。以下では、把握されている数値をもとに、人身売買の現状を世界と日本にわけて解説しよう。
世界では、2016年時点で約4,030万人が人身売買の被害に遭っているとされる。その約半分がアジア地域に集中し、約25〜30%は子どもだという。
人身売買が横行している国としてしばしば名前が挙がるのが、中国と北朝鮮だ。オランダに拠点を置く国際人権法律事務所「グローバル・ライツ・コンプライアンス」によると、中国では、脱北してきた女性や少女をターゲットとした人身取引ビジネスが急成長している。本国に強制送還されるのを恐れて逃げられないのを利用して、性的虐待や強制労働、強制結婚の標的にするのだ。
アメリカ国務省による世界の人身売買の報告書では、人身売買がおこなわれている国として、アジアの中国や北朝鮮のほか、アフリカの南スーダンやソマリア、中東のシリアやイランなどの複数の国が指摘されている。人身売買が多い国の詳細は、以下の記事をチェックしてみてほしい。
人身売買は日本でも発生しているのが現状だ。警視庁によると、令和4年の被害者数は46人、検挙件数は83件、検挙人数は37人だった。2018年以降の5年間の被害者のうち、8割以上が日本人、6割程度が18歳未満とされている。(※3)日本の実例として挙げられているのは、援助交際の強要や売春の強要、脅しによる強制労働など。子どもや女性以外に、日本に滞在している外国人もターゲットにされている。
また、日本はアジアの経済大国という位置付けもあり、人身売買の受け入れ国となりやすい。さらには、技能実習制度が人身売買に利用されるケースも存在する。過去には、技能実習生の立場に乗じて違法な時間外労働をおこなわせたとして、受け入れ側が検挙されている。(※4)日本への送り出し国の事情は紛争や性差別、貧困などさまざまだ。
持続可能な社会において、人身売買をはじめとする人権侵害は許されない。人身売買を根絶するための動きは、SDGsの達成と深く関わっている。例えば、SDGsの目標16に「平和と公正をすべての人に」がある。人身売買が発生する大きな原因は貧困や社会情勢。つまり、誰もが平等に生きられる公正な社会が訪れれば、自然と人身売買は減っていくだろう。平和で透明性のある社会が実現するのは、そう簡単ではない。だからこそ、私たち一人ひとりが実現に向けて身近なところからアクションを起こす必要があるのだ。
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上述したように、人身売買を防ぐためには個人のアクションが欠かせない。以下では、人身売買を防ぐために国が行っている対策と個人でできる行動を紹介する。
日本では、人身売買においての法整備が進められている。2004年に、人身取引に対して包括的な対策を行うための「人身取引対策行動計画」が策定された。その後、同計画は改訂を重ねられ、2022年には対策をさらに推進するための最新版が策定されている。「世界一安全な国、日本」を目指すとして、被害者支援に関する施策を含め、人身取引の根絶に向けた推進策がまとめられている。(※5)
また、2017年には「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が施行された。これにより、通報・申告窓口や人権侵害行為に対する罰則の整備が進み、不十分だった技能実習生の保護体制が充実した。(※6)
そもそも日本では、人身売買において罰則が設けられている。2005年に人身売買罪が新設され、内容に応じて懲役に処す内容が定められた。
フェアトレード商品を選ぶことは、個人でできる平和のためのアクションだ。私たちが購入している商品のなかに、児童労働や強制労働によってつくられたものが混ざっているかもしれない。そういったアイテムを購入することで、意図せずに強制労働ビジネスにお金を流してしまっている可能性があるのだ。
国際的な認証を受けたフェアトレード商品には、公正な取引や児童労働の禁止など、さまざまな基準が設けられている。フェアトレード商品が適正価格で売れ、生産者に利益が還元されると生産者の生活が安定する。フェアトレード商品を選ぶ人が増えると、人身売買をはじめとする社会課題や貧困問題の解決に前進が見える。
警視庁では、民間業者に委託して、匿名通報ダイヤルを運用している。身元が特定されることなく情報提供できるので、情報を得た際は躊躇なく以下のダイヤルを活用してほしい。
匿名通報ダイヤル:0120-924-839
緊急度が高い場合は「110番」や最寄りの警察署への通報が望ましい。「#9110」では相談も受け付けている。
人身売買は、被害者の心と体にダメージを負わせる卑劣な行為。国際社会で一丸となって解決すべき問題であり、私たち個人の協力も欠かせない。人身売買を根絶するためには、実態を把握することが重要だ。まずは知り、そして違和感に気づくことが第一歩。身近で苦しんでいる人に手を差し伸べることが、よりよい社会をつくるための大きな前進につながるかもしれない。
参考:
※1 子どもの人身売買|unicef
※2 強制労働について|International Labour Organization
※3 令和4年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯等の取締り状況について|警視庁生活安全局保安課
※4 「人身取引(性的サービスや労働の強要等)」被害者に助けを求められたら 最寄りの警察などへ|政府広報オンライン
※5 「人身取引対策行動計画2022」の策定(「犯罪対策閣僚会議」決定)概要|入出国在留管理庁
※6 外国人技能実習生度について|法務省 出入国在留管理庁 厚生労働省 人材開発統括官
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