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ウォーターポジティブとは、消費量よりも多くの水を供給することを示す言葉。人口増加や気候変動による水不足問題をうけて、注目を集めている考え方である。ウォーターポジティブの意味や定義について解説。日常生活に取り入れられるアクションや企業の取り組みも紹介する。
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ウォーターポジティブとは、消費量よりも多くの水を供給することを示す。世界で水不足が課題となるなか、水資源の大切さや持続可能な利用を目指す考え方である。
ウォーターポジティブを実現するには、水の消費を減らす、または水の供給を増やす方法がある。節水や再生利用、森の育成など個人レベルから社会全体に至るまで、持続可能な水の利用を促進する取り組みがおこなわれている。
ウォーターポジティブが活発化する背景には水不足問題がある。水不足問題は、世界的な環境問題の一つ。 地球上の水の大部分が塩水であり、現実的に人間が利用しやすい淡水は全体の0.008%と非常に限られている(※1)。さらに淡水も偏在しているため、一部の地域では深刻な水不足に陥っている。これらの水不足の原因として、人口増加、気候変動、水道網の整備不足などが挙げられる。
現代の世界では、人口の増加が急速に進んでいる。 人口増加に伴い、飲料水、農業、産業などの水需要も増加しており、水不足になっている。とくに都市部では人口密度が高く、水需要が集中しているため、水不足がより深刻になっている。 また、農村部でも人口増加により農業水需要が増加し、地域資源が枯渇するリスクが考えられる。
温暖化などの気候変動により気温が上昇し、降雨パターンが変化している。長期的な干ばつが増加し、一部の地域では水不足が深刻化している。また異常気象による豪雨も発生しており、水の過剰供給を起こしかねない。気候変動は降水量や気温を変動させ、水資源の利用が不安定になってしまうという課題がある。
一部の地域では、水道網の整備不足が水不足の原因となっている。 整備網の老朽化や適切なインフラの欠如により、水漏れや正しい浄水施設が存在していない地域では、汚染された水が供給されることもある。これらの水道網の整備不足が水不足を悪化させる原因となっている場合も考えられる。
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ウォーターポジティブに取り組むことは、SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成にもつながる。ウォーターポジティブでは水の使用量だけでなく、品質にも焦点を当てている。水質汚染を防ぎ、適切な浄水施設を整備することで、安全な水の供給に貢献している。SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」では、安全で清潔な飲料水と正しい衛生設備の普及を目指しており、ウォーターポジティブはこの目標の達成を後押ししている。
これらのウォーターポジティブな取り組みは、水不足問題の解決に向けて重要な一翼を担い、SDGs目標6の達成にも大きく貢献する。 ウォーターポジティブを通して水の持続可能な利用を推進することで、安全な水とトイレを世界中に提供するという重要な目標に対して、一層の前進が期待できる。
わたしたちの暮らしになくてはならない水。そんな水資源を守るために、日常生活に取り入れられるウォーターポジティブなアクションがある。ここでは3つのウォーターポジティブアクションについて解説する。
水をこまめに止めることは、基本的な節水の一つ。歯を磨くときや手を洗うときなどに水を出しっぱなしにするのではなく、こまめに止めることで水の無駄遣いを防げる。
食器を洗うときも、一度に多くの食器を洗ってからまとめてすすぐことで、節水につながる。また節水シャワーヘッドに変更したり、しつこい汚れを先に落としておくことも効果的だ。いつもの暮らしにちょっとした工夫を取り入れることで、無駄な水の使用を減らし、ウォーターポジティブな生活を実践できる。
生活排水の汚れを減らすこともウォーターポジティブなアクションだ。 洗濯や掃除などに使われる洗剤や化学物質は、排水に流れ込むことで水質汚染となる可能性がある。ウォーターポジティブな取り組みとして、環境にやさしい洗剤や掃除用品を選び、地球に負担をかけないような製品を使うことが重要である。
また食事に関しても、食べ残しや飲み残しを減らしたり、食器についた汚れを流さないように布や紙でふき取ってから洗ったりとさまざまな工夫ができる。日々の生活習慣を見直すことで、生活排水対策につながる。
国内で生産された食品を購入することで、バーチャルウォーターによる水消費を削減できる。バーチャルウォータとは、製造に使われた水や生産地からの輸送に必要な水のことだ。実際には目に見えない「仮想的な水」を意味し、製品や食品の裏に潜む水の消費を示している。つまり水不足が問題となっている地域で生産された食品を購入することは、食品を通してその地域の水資源を利用していることとなり、地域資源の消費になってしまうのである。
食品の生産や輸送には多くの水が必要となり、輸送に伴うエネルギー消費も地球規模で水の利用に影響を与える。そのためウォーターポジティブなアクションでは、国内で生産された食料を選択することが重要だ。さらに国内生産の食品を選ぶことは、長距離輸送による水とエネルギーの消費を減らすだけでなく、地域農業を支援し、地域経済の発展にも貢献できる。
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ウォーターポジティブに取り組む企業も少なくない。
清涼飲料水などの製造・販売しているサントリーでは、Water Positive! プロジェクトを実施。Water Positive! プロジェクトでは、サントリーが汲み上げる地下水の2倍以上の水量を育み続けている。またおいしい水に欠かせない「森づくり」もおこなっており、日本各地に22ヶ所、総面積12,000haにおよぶ「サントリー天然水の森」を設定し(※2)、20年以上にわたって豊かな水を育む森づくりに取り組んでいる。
Amazon Web Services, Inc.(AWS)は、2030年までにウォーターポジティブを達成し、AWSの事業で使用した量の水を地域社会に還元すること発表した。具体的な取り組みとして、水利用の効率化、持続可能な水資源、地域社会での水の再利用、淡水資源の還元の4つを掲げている。
AWSはIoT技術を活用して、水漏れの修復など水利用の効率化に取り組んでいる。再生水や雨水など持続可能な水資源を利用したり、安全な使用済みの水を地域社会に還元している。淡水資源の還元プロジェクトにも投資するなど、さまざまなかたちでウォーターポジティブに取り組んでいる(※3)。
花王は、製品のライフサイクルの全段階で水の利用効率を改善することを重要な目標としている。生産段階では、工場ごとに水使用量の削減目標を設定し、3R(Reduce、Reuse、Recycle)の観点で水の使用量削減や再利用を実施。使用段階では、節水型製品の提供やその使用方法に関する積極的なコミュニケーションをおこなっている。また廃棄段階においても、容易に分解する原料の使用に取り組んでおり、環境負担を軽減している。製品ライフサイクル全体にわたる継続的な取り組みにより、持続可能な水の利用と環境保護に貢献している(※4)。
水は生きものすべての命にとって不可欠なもの。限りある水資源を守り続けるためには、水の消費を減らしたり供給を増やしたりと、さまざまなアクションが必要だ。
ウォーターポジティブに取り組むことは、SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成にもつながり、持続可能な環境づくりにも貢献できる。一人ひとりが日々の生活を見直すことで、豊かな水資源が受け継がれていくのではないだろうか。
※1:国土交通省|世界の水資源「地球の水」
※2:サントリー|サントリー天然水の森
※3:Amazon Web Services|ウォーターポジティブに向けたコミットメントを発表 2030 年までに使用量以上の水を地域社会に還元
※4:環境省|ウォータープロジェクト参加団体 花王(株)
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