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フェミニズムは、すべての人間にとって不当に差別を受けないでいられる権利の獲得、平等を目指すもの。長い歴史のなかで女性のものと思われていたフェミニズムは、男性にとっても重要であるという認知が高まっている。多様性を尊重する新たなフェミニズムは、持続可能な社会にどうつながるのだろうか。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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フェミニズム(Feminism)とは、あらゆる性差別からの解放を目的とした運動のこと。
女性が男性と同等の権利を持つべきであるという思想に基づき、政治・制度・文化・習慣・社会的動向などにおいて、性差に影響されることなく、すべての人が平等な権利を行使することができるよう主張することを総じて言う。
18世紀の欧州において、女性の権利獲得を求める市民革命の一環として始まり、20世紀には世界的な潮流となった。
日本では、明治から大正にかけて、「女性解放運動」「女性の参政権獲得(女性の政治的権利獲得をめざす運動)」など、フェミニズムに取り組む動きがあった。
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フェミニズムと関係が深い、「ジェンダー」という概念(一定の文化を背景に社会的に構築された性差に基づく役割のこと)がある。
私たちは、それぞれ生まれ育った地域や文化における「あるべき男女の姿」を知らず知らずのうちに身につけていく。このようなジェンダー規範が男女の社会的な関係性や、経済的格差を容認する発想の土壌となる。
フェミニズムはいま、性差別やジェンダー不平等の解消、女性の社会進出や政治参加の促進、セクシャルハラスメントやDVなどの暴力行為の撲滅、LGBTQ+などのマイノリティの権利保護など、新しい視点とともに語られる。フェミニストだけでなく、個人レベルで多様性を尊重する生き方が主流になっているのだ。
2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)には、ジェンダー問題に直接的にかかわる目標5「ジェンダー平等を実現しよう」や、目標10「人や国の不平等をなくそう」があるが、ジェンダー規範に基づく課題は掲げられた17の目標のほとんどすべてに影響するといっても過言ではない。
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フェミニズムの歴史は長く、多様な主義主張のもとに展開されてきた。長い年月の間にフェミニズムがどう発展したのかを把握するには、あまりにも細分化されている。
そこで、おおまかに、第一波から第四波までの流れや特徴を振り返ってみよう。
女性の参政権、財産権、相続権などの公的な権利保護や、女性に対しても高等教育への門戸を開くことを求めた運動=リベラル・フェミニズムが起こった。
第2次世界大戦後、フェミニズムは第一波で要求した権利の拡大とともにウーマン・リブ運動(女性解放運動:Women’s Liberation)へと広がる。
女性が男性と平等な権利を求め、男性と対等の地位や自分自身で職業や生き方を選べる自由を獲得しようとする社会運動で、家庭内での女性の役割や性的な問題、男女間の賃金格差などに焦点があてられた。
1980年代にはフェミニズム運動家たちの間にも派閥が生まれる。白人の中産階級の女性が牽引する従来のフェミニズムにかわって、ブラック・フェミニズム(=人種差別に光を当てるもの) や、性差別と人種差別の双方と戦うウーマニズムと呼ばれるフェミニズム運動がさかんに。
マイノリティーのような焦点の当たりづらい差別を受けている当事者の課題を認知し解決しようとする動き=インナーセクショナリティもあわせて、ジェンダーに縛られずに生きる人たち、多様性を希望する人たちに広く支持されていく。
ジェンダーに対する理解が深まるにつれ、女性の多様性を認める運動が盛んになった。宗教や地域的慣習における女性差別や、セクシュアルハラスメントをはじめとする女性に対する不当な扱いの是非が議論されるように。
2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットで採択された国連ミレニアム宣言を基に、SDGsの前身となるMDGs(ミレニアム開発目標)がまとめられた。八つの目標の3番目に「ジェンダー平等推進と女性の地位向上」が掲げられており、2015年までに達成すべきものとされた。(※1)
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を中心とするウェブ活用の浸透で、2017年には、性的嫌がらせや虐待の実態をハリウッド女優がTwitterに「#MeToo」と投稿し、一大ムーブメントとなる。
「#MeToo運動」のような、セレブリティによるフェミニズム活動の活発化、セクシャルマイノリティーの権利拡大などが主なテーマに。これまで一部のフェミニストのものと考えられていたフェミニズムも、個人へと裾野を広げている。
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日本の女性が直面する具体的な問題には、男女間の賃金格差や女性の社会進出の遅れ、女性の貧困、セクハラやパワハラなどの職場での問題、家庭内暴力、少子化などが挙げられる。
また、日本では、女性が出産や育児をすることが当たり前とされており、育児休暇や保育所などの制度がいまだ不十分であることも問題視されている。
現在の日本社会においては、女性が男性と同じように社会的地位を得ることができるようになってきているものの、まだまだ改善すべき点が多い。
日本のフェミニズムについて、ジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラムが発表している、各国における男女格差を測る指数の一つ。経済・政治・教育・健康といった4分野14項目の要素から構成される)が低いことが挙げられる。2023年のジェンダーギャップ指数では、146カ国中125位で、前年から9ランクダウン。
なかでも「政治への参加」における指数は5.7%で、これは世界でもっとも低く(138位)、女性の国会議員は10%、閣僚は8.3%、女性の国家元首はいまだ誕生していない。このことからも、日本においては政治・経済分野での男女格差が大きいことがわかる。(※2)
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「KuToo運動」とは、女性に対して、職場で着用する靴にハイヒールやパンプス(甲が浅くヒールがある靴)を強制することを禁止するよう求めた運動。発起人・石川優実さんのツイートをきっかけに議論が広がった。
日本ではなぜ、非合理的で理不尽な制約に黙って従う人が多いのかという問いに対し、石川さんは「さまざまな要因のなかで、学校教育の段階から『みんな一緒が正しい』といった感覚がたたき込まれるのが一因である」と指摘。
また、「女性が足を痛めてまでパンプスを履くことは、本当に業務に必要なルールなのだろうか。女性は職場でも美しくいなければならないといったルッキズムによって生み出されたものであり、なんら合理性のない制約ならば、取り払おうと声を上げるのは当然」と語っている。(※3)
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現代のフェミニズムは女性だけではなく、すべての人間にとっての不当に差別を受けないでいられる権利の獲得と平等を目指すものだが、それ自体単独で存在する概念ではなく、ダイバーシティー、LGBTQ、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する権利。すべてのカップルと個人が出産に関することに対して自由に決定したり情報を得たりできることを認めるもの)などが複雑に絡み合う。
フェミニストたちのなかでもさまざまな立場があるだけでなく、「フェミニズム=女性だけのもの」という誤解や誤った認識、フェミニストの活動に懐疑的・批判的な立場にたつアンチ・フェミニズム、女性や女らしさに対する嫌悪や蔑視=ミソジニー(misogyny)による暴力や差別も存在する。
また、最近のフェミニズム問題の特徴として、エコー・チェンバー現象がある。(※4)
エコーチェンバー現象とは、自分と同じ意見を持つ人々とだけ交流することで、自分の意見が偏ってしまうこと。この現象に陥ると、自分の意見が正しいと信じ込んでしまい、他者の意見を受け入れることができなくなってしまう恐ろしさがある。
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女性の権利獲得から始まり、現在はすべての人にとっての平等を求めるフェミニズム。
フェミニズムに取り組む際には、自分と異なる意見を持つ人々とも積極的に交流し、多様性を重視する必要がある。また、個々に「常識」とされているものが、フェミニズムの観点から逸脱していないか、常に問いをもつ姿勢が望まれる。
一人ひとりが自分のバイアスに意識的になることで、誰もが生きやすい世界、すなわち持続可能な社会へとつながっていくだろう。
※1 外務省|ミレニアム開発目標(MDGs)
※2 世界経済フォーラム|「ジェンダーギャップ・レポート 2023」 停滞するジェンダー平等 - 格差是正まで131年
※3 LIFULL STORIES|「仕事場での女性の服装は女らしくなきゃ、なんてない」
※4 総務省|情報通信白書(令和元年版)第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
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