ウーマンリブとは、1960年代にアメリカから始まった女性解放運動である。その言葉の意味から運動の流れ、フェミニズムとの違いなどを解説。現代女性の社会的地位が注目されるいまだからこそ、過去から続くフェミニズムの歴史、実際の運動事例に目を向けてみよう。
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ウーマンリブとは、1960年代から1970年代にかけて起きた、女性たちによる女性解放のための運動であり、女性解放の意味の「ウィメンズ・リベレーション(Women's Liberation)」を略したものだ。アメリカから始まり、日本や、フランス、ドイツなど、世界中の数多くの国でこの運動が起きた。
・女性とは、母として無償の愛を与える者
・女性とは、妻として夫のために尽くす者
・女性とは、家事や育児を当然のようにこなす者
・女性は女性らしくしなければならない
・女性とは、社会において限られた役割を果たしていればいい者
・女性とは、男性の補助的な役割のみ担当していればいい者
このような社会からの押し付けに対して、生きづらさや「何かが違う」という感覚を抱く女性たちは多かった。そして、この社会の風潮や男性からの解放を訴え、性の解放を主張したのが、ウーマンリブの特徴である。男性中心の価値観を「普通」とする社会に対して、女性たちが「NO」を突き付けた運動と言えるだろう。
1970年11月14日は、東京の渋谷において、日本で初めてのウーマンリブ大会が開催された日だ。日本の女性の権利と自由について考える上で、非常に大きな変化のきっかけを得た日となった。現代においても「ウーマンリブの日」として知られている。(※1)
フェミニズムとは、女性たちが男性と同じ社会的・政治的・経済的権利を得られるべきだという思想や、性差別のない社会の実現を目指す運動を指す。その発生は19世紀終わりごろのこと。それから20世紀初頭にかけて、女性たちはその能力を伸ばし、より自由に生きるためのさまざまな運動を展開した。
この時代のフェミニズムの女性たちは参政権や職業選択の自由を主張。それまでの社会において当たり前に存在していた性差別に対して、「おかしい」と声を上げたのだ。このように、より平等な社会の実現のための運動こそが、フェミニズムである。
ウーマンリブは、19世紀終わりごろからスタートした「フェミニズムの第2波」とも表現される。第1波で女性たちが求めた参政権や職業選択の自由は、20世紀初頭に実現。女性たちの目的が達成されたことで、フェミニズム運動は、その後いったん低迷していく。
1960年代から1970年代にかけて新たに発生したのがウーマンリブ運動で、女性たちは自己実現や、性別による役割分担からの解放を目指した。ウーマンリブはフェミニズムの流れの一つであるが、同一ではないという点をしっかりと理解しておこう。(※2)
フェミニズム第1波の時代やウーマンリブの時代と比較して、現代の女性の社会的立場は格段に向上している。参政権や自由に職業を選ぶ権利は、男性と平等に与えられている。第1波から100年以上が経過したいま、こうした女性の権利について疑問を抱く人はいない。
また、人工中絶を選択するのももちろん自由だ。専業主婦として家庭だけにとどまるのではなく、外で積極的に仕事をする女性が増えてきている。現代女性のライフスタイルは多様化し、ウーマンリブの時代と比較して、より「自分らしい幸せ」を追求できる時代になっていると言えるだろう。
しかしだからといって、現代女性の社会的立場が、男性のそれと完全に平等になったわけではない。レイプやセクシュアル・ハラスメントなどの性暴力にさらされる女性は、まだまだ多いのが現実だ。2017年に盛り上がった「#MeToo運動(セクハラや性的暴行を受けた人たちがSNSで被害を告白)」は、そうした事実を端的に表している。
共働き家庭が増える一方で、「家事や育児・介護は主に女性が担う仕事」とみる風潮は、まだまだ根強く残っているものだ。そのため「ジェンダー平等の実現」は、2030年までに世界全体で取り組む課題(SDGs)の一つに。わざわざ「課題」として挙げられている点からも、現代女性たちの社会的立場の低さをうかがい知ることができるだろう。
世界経済フォーラムが発表している「ジェンダー・ギャップ指数2021」によると、日本の順位は156か国中120位とのこと。この順位は、先進国中最低レベルである。またアジア諸国で比較した場合でも、非常に低い結果と言えるだろう。日本の順位の上昇を妨げているのは、「経済」および「政治」の分野への女性参加が少ない点だ。(※3)
このような状況から現代の女性の社会的立場には、まだまだ多くの問題が存在していることがわかる。過去の女性解放運動によって、さまざまな「自由」を手にしてきたものの、まだ十分ではない。完全なる解放を成し遂げて男女平等を実現するためには、より一層の努力や工夫が求められる。
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ウーマンリブがどのような流れで進んでいったのかを、さまざまな活動の歴史から探っていこう。世界的に注目されたウーマンリブの活動を、年代順に紹介する。
アメリカの女性解放運動への機運を高める1冊となったのが、ベティー・フリーダンの『新しい女性の創造』である。郊外の中流家庭で暮らす専業主婦の女性のなかには、幸せであるにもかかわらず、漠然とした悩みを抱えている人が多いという事実を指摘した。
ベティーの主張は多くのアメリカ人女性に受け入れられ、これをきっかけに、各地でさまざまな運動が行われるようになった。同書は260万部以上のベストセラーとなり、ベティー・フリーダンは1966年に全米女性機構(NOW)を創設し、初代会長に就任した。(※4)
1970年10月21日、国際反戦デーのこの日に、日本の女性たちによる国内発の女性解放街頭デモが行われた。デモを行ったのは、女性解放のための取り組みを行っていた「ぐるーぷ・闘う女」。これは、日本のウーマンリブのカリスマと呼ばれた田中美津が立ち上げた団体であった。
このデモをきっかけに、日本のウーマンリブは一気に加速していく。女性たちの自由を求める声は急速に大きくなり、翌年の夏には「リブ合宿」を開催。全国から300人超の女性たちが集結し、自由を求める考えを共有した。
1971年4月5日、フランスにおいて、人工中絶の自由化を目指して発表されたのが「343人のマニフェスト」である。その論説のなかで、著名人を含む343人の女性が、自身の人工中絶経験を明らかにした。妊娠・中絶を決定する権利を、女性自身が得るための訴えであった。
1972年には、レイプされて妊娠した16歳の少女が非合法の中絶手術を受け、その結果、罪に問われたボビニー裁判が問題に。その後、女性の自由を獲得するための運動がフランス各地で行われ、1975年には中絶の合法化に関する法律が施行された。
1960年代に入り、他国と同様にウーマンリブ運動が活発化したドイツ。ドイツには「既婚女性が仕事をする際には、夫の許可が必要である」という法律があり、ウーマンリブ運動によって、その法律の見直しに向けた流れが進んだ。
ただし、運動が起きて、すぐに法律改正が実現したわけではない。実際の法律制定・施行までにはかなりの時間を要し、新しい婚姻離婚法が施行されたのは1977年のことであった。この法律によって、ドイツの既婚女性は「夫の許可なしで働く自由」を手に入れた。
フェミニズムという言葉を聞いたことがあっても「ウーマンリブ運動という言葉を耳にしたことはない」という人は、決して少なくない。また当時の記憶を有している人のなかには、「ウーマンリブに対してあまりいい印象がない」という人もいるだろう。
とはいえ実際のウーマンリブ運動は、女性の社会的地位の向上と、自由の獲得を目指したものであり、危険な思想を広めるためのものではなかった。そしてウーマンリブ運動の根底にあるフェミニズムは、いまもなお、その目的達成のために息づいている。
SDGsに「ジェンダー平等の実現」が掲げられているいま、ジェンダーの平等は誰にとっても他人事ではない。過去のウーマンリブ運動の歴史や目的、内容を知り、今後の改革へとつなげていこう。
※1 女性学の創出と和光大学の試み
https://www.wako.ac.jp/_static/page/university/images/_2011-0625-1242.f14c4a2354d001dc4b7838dd93fffd15.pdf
http://www.keiko-fukuzawa.jp/15732225634989
※2
(1)─なぜ「ウーマン・リブ再考」なのか?─ |ウーマン・リブ再考http://www.osaka-doukiren.jp/series/series03/%e3%82%a6%e3%83%bc%e3%83%9e%e3%83%b3%e3%83%bb%e3%83%aa%e3%83%96%e5%86%8d%e8%80%83/5296
フェミニズムの歴史化における〈波〉区分を問いなおす
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arws/41/0/41_41/_article/-char/ja/
フェミニ ズムの歴史からみる社会運動の可能性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsr1950/57/2/57_2_292/_pdf
※3 「共同参画」2021年5月号https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202105/202105_05.html
※4 フェミニズム運動の先駆者、死去
https://imidas.jp/hotkeyperson/detail/P-00-110-06-02.html
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