オリエンタリズムの思考と支配、文明が内包する問題点

青とベージュのコンクリートモスク

Photo by David Rodrigo on unsplash

もともとは、東洋趣味や東洋学を意味した「オリエンタリズム」というキーワード。差別用語として使用禁止になった背景には、アジア人を異質な存在として描く一方的な視点がある。支配する側とされる側、異文化理解の難しさなど、オリエンタリズムの歴史や問題点から現代の国際社会を読み解く。

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2023.07.31
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オリエンタリズムの意味とは

バリ島の人形

Photo by Artem Beliaikin on unsplash

オリエンタリズムの意味を説明するには、いろいろな文脈がある。

たとえばオリエンタリズムは、エキゾティシズム(異国情緒)のひとつであり、西洋の視点から東洋に対する好奇心・憧れを醸す東洋趣味を意味する。西欧近代における文学・芸術上の風潮であり、東洋の言語・文学・宗教などを研究する学問としても発展した。

一方で、西洋の人々が東洋の人々を偏った見方で捉えようとする態度でもあり、西洋中心主義やヨーロッパ中心主義を批判する対象にもなっている。オリエンタリズムで言う「オリエント」は、考古学や歴史学上のオリエントほど厳密ではなく、ヨーロッパから見た東方世界全体(極東やアフリカ北部含むエリア、または第三世界)を指す。

オリエンタリズムの具体例

手を取り合う二人の黒人女性

Photo by John McArthur on unsplash

人間の心性に根ざした異国への情緒的関心は、単なる興味にとどまらず、その時代の美意識に新たな展開をもたらした。

西洋人が東洋を理解するためにつくり上げたイメージや、東洋を西洋の視点で描いた芸術などを指す「オリエンタリズム」作品は、18世紀から19世紀にかけて多数生み出されてきた。以下に、作品例を紹介する。(※1)

文学・芸術上のオリエンタリズム

17~18世紀に、トルコとの接触によって始まったとされる西欧のオリエンタリズム。強烈な光線と色彩、率直な人情風俗へのあこがれ。異国情緒、神秘主義、夢などといった題材が好まれたロマン主義的美学の端的なあらわれとなった。

18世紀の文学では、モンテスキューの『ペルシア人の手紙』のような、ヨーロッパにおけるオリエントに対する性的な幻想と関係している作品が生まれた。19世紀には『レ・ミゼラブル』の著者ユゴーのほか、シャトーブリアン、フロベールら多くの作家たちが東方に題材にした作品を発表。

フランスの画家ジュール・ロベール・オーギュストは、初めてオリエントを題材にした画家の一人で、オリエント装飾品のコレクターでもあった。また、モロッコやアルジェリアを旅行して描いた『アルジェの女たち』(1832年)で有名な画家ドラクロワも、オリエンタリストと呼ばれ、東方主題を好んでとりあげている。

極東のオリエンタル

オリエントを極東にまで拡大すれば、中国風、中国趣味の意味を持つシノワズリー(chinoiserie)や日本風、日本趣味の意味のジャポニスム(japonisme)も広い意味ではオリエンタリズムに含まれる。

シノワズリーは中国の文物がヨーロッパにもたらされ、それに影響されて17世紀後半から18世紀後半にかけて中国風の家具、陶磁器、織物、版画、庭園がヨーロッパに登場した。

浮世絵のような日本美術を指すジャポニスムは、19世紀初め以来、広く収集・愛好された。印象派の絵にも影響を与えただけでなく、西洋の伝統的な技術様式や価値観を覆す刺激をさまざまな分野で与えた。

オリエンタリズムの視点で描かれた舞台や映画

「東洋=自らよりも劣っている国や文化」を、男らしくない、性的に搾取可能な女性的存在として描く、といった傾向も、オリエンタリズムの一種として指摘されている。

具体例としては、イメージが一人歩きしている「ゲイシャ」をはじめ、比較的最近の作品では、アメリカ兵とアジア人女性のロマンスを描いた『ミス・サイゴン』、アメリカ先住民族の娘とイギリス人探検家の運命的な恋を描いたディズニー映画『ポカホンタス』などにも、オリエンタリズム的な視点が見られる。

オリエンタリズムの歴史

ソファに座っている男

Photo by Anna Jahn on unsplash

オリエンタリズムという語は、パレスチナ系アメリカ人の文学研究家であり、熟練したピアニストでもあったエドワード・サイード(※2)が1978年に発表した著書『オリエンタリズム』により、従来の東方趣味、東方研究という以外の語義を帯びるようになった。

サイードはこの著書で、そもそもオリエントやオリエンタリズムとは、西洋人が一方的につくり上げた概念であるとして、その概念自体を批判した。

さらに、サイードのこの著書は、オリエントの芸術を西洋的偏見なしに、それ自体として発見し、評価しようとする動きにつながっていく。

2016年5月、オバマ大統領がアジア系アメリカ人を指す「Oriental」(オリエンタル)という言葉を差別用語として分類し、連邦政府機関での使用を禁止する法律に署名した。背景には、アジア人を異質な存在として区別するオリエンタリズム的な視点があることだった。

モデルマイノリティとは 背景にあるアジア人への差別と問題点

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オリエンタリズムとSDGs

昼間に通りを歩く人々

Photo by Ehimetalor Akhere Unuabona on unsplash

SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」(※3)は、国内や国家間で起こる不平等をなくすために示された目標であり、所得格差を是正し、すべての人が人種や性別・階級などを理由に差別されることのない平等な世界を目指すものだ。

一方、オリエンタリズムは、西洋文化が東洋文化を支配することによって生じる問題を指す。

これらの2つの概念には直接的な関係はないが、SDGsの目標10は、オリエンタリズムによって生じる人種差別や偏見などの問題に取り組むことが含まれている。

人種差別の現状と問題

プラカードを持つ抗議者

Photo by Unseen Histories on unsplash

オリエンタリズムだけではなく、世界では依然として人種差別が問題視されている。

たとえば、アメリカだけでなく世界中で支持されている「BLM運動」は、アメリカで発生した黒人差別に対する抗議運動だ。(※4)

2012年、フードをかぶってお菓子を買いに出かけていたアフリカ系アメリカ人の高校生が、自警団の男性に不審者と見なされ射殺されてしまう。高校生は、武器を所持していなかったのにもかかわらず、自警団の男性は正当防衛が認められ無罪放免になった。

この出来事を知った米国在住の活動家がSNSに判決に対する批判を投稿。ハッシュタグ「#BlackLivesMatter」が世界中に広まった。

2020年5月に米ミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが白人の警察官に首を8分46秒圧迫されて死亡した、いわゆる「ジョージ・フロイド事件」を受け、さらに全米に広がる抗議運動に発展している。

わたしたちができること

理解による真の愛を訴える人々

Photo by Heather Mount on unsplash

人種に限らず、あらゆる差別は、まず私たちが「何が差別となるのか」を学び、それが間違いであると理解することから始まる。

無意識なバイアス、自分の価値観だけで物事や人を判断しないこと、ゆがんだ認知を誰もが知らぬうちにしてしまう可能性があることに、もっと意識的になるべきだろう。日本人はとくに「事なかれ主義」が多く、たとえ自分が侮蔑を受けたとしても、表立って反論しない傾向がある。

しかし、誰かが声を上げなければ、いつまでたっても世界の差別はなくならないだろう。

異文化理解の困難さを示したオリエンタリズム

ハート形を手でつくる笑顔の男性

Photo by Ehimetalor Akhere Unuabona on unsplash

オリエンタリズムは、西洋が東洋という「他者」を疎外することで、自らの文化、力とアイデンティティーを獲得し、それによって同時に「東洋」を管理し、支配するための装置であった。

エドワード・サイードが唱えた理論や主張は、まさに私たちの生きる世界の文化的なひずみを明るみにしたといえる。

文学や絵画、映画などで、異なる文化がどのように描かれているのか、さまざまな作品の再解釈は、現状改革の手がかりになるかもしれない。

※掲載している情報は、2023年7月31日時点のものです。

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