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スローフードとは、地域の伝統的な食文化を重視し、食への関心を高める考え方のこと。健康的な食生活を送れたり環境負荷を軽減できたりとさまざまなメリットがある。本記事ではスローフードの概念を詳しく解説。メリットやSDGsとの関連性、国内事例もまとめている。
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「スローフード」とは、地域の伝統的な食文化を重視し、食への関心を高める考え方のこと。地域の農産物や伝統的な調理法を守りながら、環境や健康に配慮した食事を楽しむことを推奨している。
スローフードの一例として、地域で採れた食材の利用や、生産者と生活者の関係づくり、小規模生産者の保護などが挙げられる。1989年にイタリアで始まったスローフードの考え方は、現在160カ国以上に広まっており、日本でもスローフード協会を中心として、さまざまな取り組みがおこなわれている。
スローフードのスローガン
・GOOD(おいしい):美味しく、風味があり、新鮮で、感覚を刺激し、満足させること
・CLEAN(きれい):地球資源、生態系、環境に負担をかけず、 また、人間の健康を損なわずに生産されること
・FAIR(ただしい):生産から販売及び消費にわたって、全ての関係者が適正な報酬や労働条件にある、 社会的公正を尊重すること
引用:スローフードとは|スローフード協会
食の質と価値に焦点を当てるスローフードの考え方は、手軽で均一化された「ファストフード」の対義語としても知られている。スローフードに取り組むことで、食生活や食文化を見直すことができ、食の豊かさや喜びを再確認できる。
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スローフードを通して食を見つめ直すことで、健康的な食生活を送れることはもちろん、環境負荷を軽減したり地域活性化に貢献できたりとさまざまな効果が期待できる。
スローフードでは、地域の新鮮な食材を使用することや食事を手づくりすることを推奨している。これらの食事は、栄養価が高く健康的な食事であることが多い。またスローフードは、食事そのものを楽しむことも奨励しており、食べることの喜びや食文化の大切さを再認識することも可能。スローフードは、からだにも心にもいい影響を与えるスタイルといえる。
スローフードは、地球資源や生態系への負荷を軽減し、環境にやさしい取り組みといわれている。具体的には、地域の農産物を使うことで、長距離輸送や保存によるエネルギー消費を減らし、二酸化炭素排出量を削減できる。また有機農法を採用することで、農薬や化学肥料の使用を極力抑え、生態系への悪影響を軽減することも可能だ。 地域に合わせて、生産・調理・消費のサイクルを回すことで、環境に配慮した食生活を送ることができる。
スローフードを通して、地域の農産物や伝統的な食材、郷土料理に注目が集まることで、地域の農家や生産者を支援し、雇用を生み出すことが可能だ。地域特産品の需要が高まるため、地域の産業や観光にもプラスの影響を与えられ、地域経済にも貢献できる。また地域の食文化や伝統料理の継承も促進できるため、地域のつながりの強化も期待できるだろう。
スローフードは食生活や食文化を根本から見直すとともに、環境負荷についても考えられる取り組みである。スローフードに取り組むことは、SDGs目標12「つくる責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」の達成にもつながる。ここではスローフードとSDGsとの関連性について、各目標を詳しくみていこう。
スローフードは食品の生産・消費において責任を持つことを重視する。地元の農産物や伝統的な調理法をサポートすることで、持続可能な食品生産を実現。また、スローフードは廃棄物のリサイクルや資源の節約にも配慮しており、循環型社会の実現に貢献している。
スローフードは地元の農産物を重視し、長距離輸送や保存によるエネルギー消費を削減。また有機農法や持続可能な農業手法の採用により、農薬や化学肥料の使用を減らし、環境負荷を軽減している。 さらに食品ロスの削減や環境廃棄物のリサイクルに取り組むことで、温室効果ガスの排出を削減している。
スローフードは海洋資源の保護にも関係している。スローフードとして地元の漁業や海産物を活用することで、持続可能な漁業の実践を支援。地域の伝統的な海産物や漁獲方法に焦点を当てて、海洋生態系の保全にも努めることができる。 スローフードは海洋の豊かさを守りながら、持続可能な海産物の供給を促進する取り組みといえる。
スローフードの課題として、ファストフードと比較すると時間やお金が必要となり、日常生活に取り入れづらい点が挙げられる。スローフードは地域の食材を活用したり伝統的な調理法を取り入れるという特徴があり、時間や手間がかかりやすい。またスローフードは地元の農産物や有機食材などを使用する傾向があるが、これらの食材は一般的に高価になりやすい。
このように、時間や経済的な課題があるため、スローフードを日常生活に取り入れることが難しい場合もある。しかし日々の生活に取り入れることは難しくても、時間に余裕があるときにスローフードをおこなってみることで、持続可能な食文化への一歩を踏み出すことができるだろう。
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スローフード協会の取り組みの1つに、食の多様性を守る生物多様性プロジェクトがある。スローフード協会は伝統的で希少な食材を「味の箱舟」として登録し、情報提供している。ここでは味の箱舟のなかから、3つの希少食材を紹介する。
「うご」とは、京都府丹後地域での「エゴノリ」の呼び名であり、紅藻(海藻)そのものと寒天状態のものの両方を示す。毎年7月頃エゴノリの漁が解禁されるが、エゴノリは豊凶差が大きいため、多く採れた年は乾燥保存し、煮固めて寒天状態にする。エゴノリを活用した食品には、新潟の「いごねり(えごねり)」や福岡の「おきゅうと」などがあるが、紅藻(海藻)の濾過状態や切り方など地域ごとに独自の特徴がある。
兵庫県但馬地方で400年以上の歴史を持つ赤花蕎麦。形は一般的な蕎麦と似ているが、赤い花が咲くことからその名が付いたとされている。香ばしい香りや際立った甘み、粘り気の強さが特徴。この特徴を活かすため、地元で食べられる赤花蕎麦は、つなぎを一切使わず地元で栽培・収穫されたそば粉を100%使用している。風味が豊かに生かされ、舌触りに優れている赤花蕎麦は、地域の食文化の一部として地元の人々から愛されている。
千葉市土気地区で栽培される土気からし菜は、300年以上前から地元の農家が代々自家採種によって栽培を続けてきた貴重な伝統野菜。 土気地区は、下総台地のなかでも標高が高く、寒暖差が激しいため、独特の辛みと風味が生まれる。 土気からし菜は、その特徴的な辛みを活かして漬物として食べるほか、房総太巻き寿司の材料としても使われている。また種子はオリエンタルマスタードとしても知られており、和からしの原材料でもある。
スローフードとは、地域の伝統的な食文化を重視し、食への関心を高める考え方のこと。地域の農産物や伝統的な調理法を活用することで、健康や環境にポジティブな効果が期待されている。手間や時間がかかってしまうという一面もあり、毎日取り入れることは難しい場合もあるが、無理のない範囲で取り入れることで、暮らしや食生活を見つめ直すきっかけとなるのではないだろうか。
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