「海洋ごみ問題は、自分には遠いもの?」こんな問いかけをしたポスターが、ゴールデンウィークの家族連れで賑わうポロ ラルフ ローレン チルドレンのストアに現れた。この日行われたのは、海洋ごみ学習カードゲーム「Recycle Master(リサイクルマスター)」を使ったワークショップ。一般社団法人日本プロサーフィン連盟(JPSA)の海洋環境保全活動プロジェクト「ReWave(リウェイブ)」とパートナー契約を締結したラルフ ローレンが連携した第1弾のアクションとして行われたものだという。本記事では、このユニークなイベントを同行取材。当日の様子などを独自に追った。
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子どもたちの元気な声が響く。その手には、トランプよりひと回りほど大きなサイズのカードが見える。
「リサイクルします!」
男の子は、テーブルの上に置かれた2枚の「ごみカード」の上に、オレンジ色のカードを重ねた。
「おっ、ケミカルリサイクルですね。ペットボトルから新品のペットボトルができます」 声の主は、この日講師をつとめている寺井正幸氏だ。
寺井氏は、さらに続ける。「同じペットボトルでも、ペットボトルから新品のペットボトルをリサイクルする技術はとても難しくて、日本はこの分野で世界をリードしています。なので、実はこれ、隠れたスペシャルカードで、5点です」
「やったー!」
男の子は、オレンジ色のカードと引き換えに「新品のペットボトル」と書かれた「プロダクトカード」を受け取り、その「高得点」のカードを誇らしげに披露。会場から拍手喝采を浴びることとなった。
子どもたちが(いや、大人たちも)夢中になっているのは、海洋ごみ学習カードゲーム「Recycle Master」という。今回、ラルフ ローレンとコラボレーションした体験イベントが全国で開催されたのだ。
最初にお話をお伺いしたのは、このイベントの講師としてファシリテーションを担当された寺井氏だ。寺井氏は、産業廃棄物処理会社の会社員でありながら「ごみの学校」という学びの場を自主的に主宰。ごみ問題の啓蒙活動に取り組まれている。
「Recycle Masterは、ごみを集めてリサイクルして再生品ができる、という現実世界のフローをゲームで体験できる設計になっています。 海洋ごみには、いろいろな種類があり、いわば、個性を持った多様なキャラクターがあるわけですが、リサイクルする時にもその個性に合わせてリサイクル方法を変えたり、種類別に分別したりします。このゲームでは、ごみのリサイクルの大切さを実感してもらうことが狙いです」
海によく落ちているごみをキャラクター化した「ごみカード」、ごみの素材別に組み合わせる「リサイクルカード」、リサイクル後に手に入る製品の「プロダクトカード」の3種類のカードがある。「ごみカード」と「リサイクルカード」を組み合わせ、「プロダクトカード」と交換しながら点数を獲得する。
カードを見せてもらうと、なるほど、さまざまな「ごみ」がキャラクターとして描かれている。組み合わせるべき「リサイクルカード」と、色やマークを共通化させることで、直感的にそれぞれの海洋ごみのふさわしい最適なリサイクルがわかるようになるという。
「ペットボトルがポロシャツになったり、鉄から鉄道レールができたり、思わぬ姿に生まれ変わるキャラクターたちに、子どもたちだけでなくご両親も一緒になって驚きつつ楽しんでいただいています」(寺井氏)
さらに、もうひとりの講師の方にも話を聞くことができた。ごみの学校の副主宰として、寺井氏とともに活動されている東野陽介氏だ。
「Recycle Masterというカードゲームは、現実世界のルールがゲームのルールになっていますが、可愛いキャラクターや工夫により、幼稚園・保育園に通っている子どもから、高校生、大人まで幅広い方々が同じテーブルを囲んで、楽しく遊んで学べます」(東野氏)
東野氏によれば「みなさん積極的で、純粋に楽しんでいたのがとても印象的」だったという。いわゆる座学のセミナーや啓蒙活動では、参加者がどうしても受け身になりがちだが、Recycle Maserでは「ビーチクリーン知ってるよ」「もう一度やりたい」という元気な声をたくさん聞くことができたそうだ。
さて、イベント会場に改めて目を向けるとしよう。参加した子どもたち、ご両親は、どんな風に感じただろうか。
最初に子どもたちに話を聞いてみた。
「可愛いキャラクターがいっぱいあって楽しかった」「楽しかった、またやりたい」 など、年齢を問わず、異口同音に楽しかったという声が多かった。さらに、その理由をあげてもらったところ、「ペットボトルが洋服になるのが面白かった」のようにリサイクルの仕組みについて興味をもつ子どもたちがほとんどだった。
また、参加されたご両親も同じような感想を持ったようだった。
「子どもたちに、とってもわかりやすいと思いますし、視覚から入ってくるので、これからSDGsの時代に入って大切なことだと思うので、いい機会を与えていただきました」
「すごく楽しかったって言っていて、遊びながら考えて学べるっていうのがすごいいいなと思いました」
なかでも印象的だったのは、ゲームが終わった後もテーブルに置かれたカードを手に取りながら、リサイクルの話をする家族が少なくなかったことだ。
そんなご家族に話を聞いた。「なぜ、毎日のリサイクルが大切なのか、すごくわかりやすかったです。いままではなんとなくリサイクルしていたけど、その大切さがちゃんと納得できました。このゲームをきっかけに家族でふだんのごみの出し方について、もう一度話し合ってみたいと思います」
講師の寺井氏も、同じような感想を持たれたようだった。 「海洋ごみは、世界全体が抱える大きな問題ですが、ごみのことを知り、家族で分別をしてもらったりごみ拾いをしてみたり、小さなアクションにつながる機会をゲームを通じて提供することができたと実感しました」(寺井氏)
「Recycle Master」は、ただのカードゲームでは終わらない。
「みなさん、これは何かわかりますか?」寺井氏はテーブルの上にフリスビーを置いて子どもたちに語りかけた。「このフリスビーは、海に落ちていたごみからつくられたものなんです」子どもたちの顔が驚きの表情に変わる。
「これは、長崎県の対馬という場所で採取してきた海洋ごみですが、このフリスビーはこうしたプラスチックのごみからつくられています」寺井氏は、テーブルの上に次々とプラスチックの海洋ごみを広げていく。
「これ、外国語が書いてある?」「これ、ほんとに海に落ちていたの?」子どもたちの目が、ますます大きく見開かれていく。
「みんながゲームでリサイクルしてくれたように、ごみを捨てるときにごみの種類別に分けて捨てれば、こうやってフリスビーをつくることもできます」
子どもたちの後ろで話を聞いていたお父さん、お母さんも寺井氏の話にじっと耳を傾けている。
「混ぜればごみ、分ければ資源と言われますが、ご家庭でもごみを捨てるときは、材質が違うものはなるべく分けて捨ててくださいね」
廃棄物処理の専門家である寺井氏と東野氏が講師としてこのイベントに参加しているのは、大きな意味があった。それは、ゲームで遊ぶことで生まれた興味や好奇心を次のステップにつなげていく、ということだ。
「Recycle Master」のこの仕組みについて、講師の東野氏は「手触り感」と表現している。
「どこか遠い所のように思うごみとリサイクルの世界が、カードゲームを通じて手触り感のある世界に変わったのではないかなと思います。ごみのことをポジティブに捉えて、買う・使う・捨てるなど生活にごみの要素が少しずつ溶け込んでいってくれると嬉しいです」(東野氏)
2023年4月8日にスタートしたこのイベントは、この日5月7日を最終日として一区切りとなった。 全国10のショップで行われたイベントでは、総勢400名近くの子どもと家族が参加。「リサイクルします!」という元気な声が、ゴールデンウィークの日本全国で聞かれたことだろう。
今回のイベントを主催したラルフ ローレンは、責任ある持続性を2030年までに実現する「Live On(持続性)の約束」を設定している。
Recycle Masterを活用したこのイベントでは、ラルフ ローレンのサステナブルな思いを参加いただく方にも理解していただくため、いくつもの工夫が凝らされていた。
たとえば、カードゲームの舞台となるビーチ沿いの街を描いたゲームマットには、ラルフ ローレンのストアイメージが印刷された。さらに特筆すべきは、ラルフ ローレンの実際のサステナブルな商品がカードゲームのなかにも登場していることだ。
「アースポロ」の他にも、ラルフ ローレンのリサイクルナイロンの商品などが数点、プロダクトカードのテーマとして紹介されていた。
リサイクルに成功すると「プロダクトカード」を受け取るが、そのひとつにラルフ ローレンの「アースポロ」が選ばれている。
「アースポロ」は、平均12本のリサイクルペットボトルを原料につくられたポロシャツだが、ゲームのなかでもペットボトルをリサイクルするとこのカードがもらえるという設計になっているのだ。 さらに「アースポロ」のカードをゲットすると、講師が「アースポロ」についての解説を加えながら、実際にお店で販売されている「アースポロ」を目の前に広げて見せてくれる。
「どうぞ、触ってみてください。どうですか?ペットボトルでつくられたポロシャツです」
寺井氏の呼びかけで、半信半疑のままポロシャツに手を伸ばした子どもたちや両親の表情がみるみるうちに変わっていく。「とってもしなやかで、手触りがいい」「ペットボトルからできてるなんて、ほんとに?」
ゲームを単なるゲームだけで終わらせずに、現実世界と関連づけるという「Recycle Master」の設計思想。それこそが、子どもたちと親たちが「楽しい」「またやりたい」と感じる源泉であるようだ。
「Recycle Master」の企画を考案、運営を中心的に担っているReWaveが、JPSAの海洋環境保全プロジェクトだということは先述したが、そのきっかけは、「海に感謝したい」というサーファーたちの思い」だったという。
昨年の秋には、茅ヶ崎市の西浜小学校の環境学習プログラムとして採用され、実施された授業にはプロサーファーたちも参加している。
この授業の様子は、ELEMINISTが独自取材を行いレポート記事で紹介している。この日の授業で子どもたちは、カードゲームをプレイした後、学校の近くのビーチでごみ拾いをしてカードゲームで学んだことを現場で追体験した。 現実世界との連携を「ReWave」がいかに重要視しているかを示す、もうひとつの例である。
ラルフ ローレン チルドレンのストアで行われたイベントでは、「おうちでもきちんと分別しなきゃね」と呼びかけたお母さんに、女の子が「うん!分けなきゃね」 と元気な声で返事をしていた。
すさまじい勢いで増えていく現実世界の海洋プラスチックごみを思うと、この女の子の行動は、小さなことにすぎないかもしれない。しかし、この小さなひとつも積み重なることで、やがて大きな力になっていくはずだ。
ReWaveでは、海洋プラスチック問題を中心に、海を守るための具体的なアクションに取り組み、海の環境保全に関する賛同の輪を広げる活動に取り組んでいます。
1. ビーチクリーンをはじめ、身の回りのことからできる具体的アクションを実践します。
2. 海の素晴らしさ、美しい海の大切さを伝え、考えるきっかけをつくります。
3. 企業、個人、自治体の立場を問わず、誰でも楽しく参加できる活動に取り組みます。
ReWaveでは、業種を問わず、同じ思いを共有できるパートナーを広く募集しています。以下のサイトよりお問い合わせください。
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