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日本プロサーフィン連盟(JPSA)の海洋環境保全活動プロジェクト「ReWave」によるワークショッププログラムが、神奈川県・茅ヶ崎市立西浜小学校にて開催された。海洋ごみ学習カードゲーム「リサイクルマスター」でリサイクルについて学んだ後、実際に浜辺へ出向きビーチクリーンを体験するというものだ。
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エレミニスト編集部
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近年、海洋ごみ問題について、その問題の深刻さが伝わるにつれ、さまざまな取り組みがスタートしているが、まだ多くの人にとって関心度が高いとは言えない状態だ。そんななか、全国で初めて小学生とともに、遊びながら海洋ごみを学び、その後実際にごみを拾うという体験型の環境学習ワークショッププログラムが開催された。
日本プロサーフィン連盟(JPSA)の海洋環境保全活動プロジェクト「ReWave」が独自で開発したプログラムで、海洋ごみ学習カードゲーム「リサイクルマスター」で遊びながら海洋ごみやリサイクルについて学び、その後ビーチを訪れて実際にごみを拾うという2部構成となっている。海のごみとその素材、リサイクル方法についてカードゲームで遊んだ後、実際に海に落ちているごみを拾うことで理解を深めることを意図して開発されているのだ。
カードゲームとワークショップの監修には、リサイクルの最前線で活躍する廃棄物・資源循環の専門家である寺井正幸氏を迎え、現在のリサイクル技術や仕組みを遊びながら学び、体験できるプログラムになっている。
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寺井正幸氏。SDGsファシリテーター、ごみの学校主宰。このワークショップやビーチクリーンでもファシリテーターを務めた。
「リサイクルマスターにはリアルなごみの種類、リサイクル技術、その後どうなるかまで織り込まれているので、やればやるほど、リサイクルの方法やごみの実態、実際の技術がわかっていきます。ごみがキャラクターになっていて、探しに行きたくなる、アクションを起こしたくなるというのもポイントです」(寺井氏)
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今回ワークショッププログラムが開催されたのは、神奈川県茅ヶ崎市立西浜小学校6年生の3学級。海岸から国道を1本渡った場所にあり、屋上にのぼれば、海岸沿いの防砂林はすぐ目の前だ。茅ヶ崎市は海が身近でプロサーファーを多く輩出している地域でもあり、環境学習会やごみ処理施設の施設見学会、ビーチクリーン活動などを通し、環境問題に興味を持つきっかけとなるような啓発活動に取り組んでいる。地域柄、子どもたちみんなも海が大好きだ。今回のワークショップでは、海のごみを身近に感じている地元出身のプロサーファーも参加し、海の現状についても語られた。
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ワークショップに参加した茅ヶ崎出身のプロサーファー。「海で遊ぶのが好きな人」と声をかけると、子どもたちも元気よく手を挙げていた。左から久米大志選手、大橋海人選手、森友二選手。
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「リサイクルマスター」は、海岸のマットの上にある“ごみカード”を素材別に2枚以上集め、手札である“リサイクルカード”で再利用したりアップサイクルしたりするゲームだ。ごみの素材とリサイクルの種類を知ることができる。
「リサイクルします!」。それぞれ5人ずつのグループにわかれ、カードゲーム「リサイクルマスター」を体験した。海洋ごみに描かれたリサイクルマークや色を手がかりに、さまざまな種類の海洋ごみに適したリサイクルを行い、ごみを適切に処理して美しい海を取り戻していく。このゲームのポイントは素材別のリサイクル方法を具体的に知ることができる点だ。ごみとして落ちているガラスやプラスチックなどが資源であることに気づいた生徒もいた。
ビーチクリーンの前に「リサイクルマスター」で遊ぶことに意義があると寺井氏はいう。「ごみ問題について、子どもたちはすでに教科書で知識として知っています。ですがカードゲームのなかで、壁にぶつかることが重要だと思います。ポイントをもらうためにリサイクルできる理由、できない理由を考える。例えばペットボトルとボトルキャップは違う素材だから一緒にリサイクルできない。そこで初めて分別する意味を知ることができるんです。だからごみ拾いもより楽しくなっていくと思います」。
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ビーチクリーンが行われたのは小学校のすぐ目の前に広がっているサザンビーチ西側。晴天に恵まれ、11月下旬でありながら最高気温は18度を超えていた。茅ヶ崎市は、もともと環境意識が高い自治体ということもあり、サザンビーチ西側にはそれほど目立って大きなごみが散乱しているわけではなかったが、よく見ると砂に混じってカラフルなプラスチックが多くあった。子どもたちは、漉し器を使いながら、小さなプラスチックごみを集めていた。
30分もするとペットボトル、発泡スチロール、釣り針、ルアーなど、たくさんのごみが集められた。プラスチックが粉々になったマイクロプラスチックが多くみられた。カードゲームで知った素材などもあり、子どもたちは真剣に見入っていた。例えば釣り糸やルアーは、自然に還らない素材でできているため、そのまま残ってしまう。だから釣りをする場合は、切れてしまった糸やルアーなどは持ち帰らなければならない、という寺井氏の説明に大きくうなずいていた。
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カードゲームにも出てきた釣り糸と釣り針、ルアーはいくつも見られた。釣りをよくするという子どもたちも多く、寺井氏の説明を真剣に聞いていた。
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西浜小学校の生徒にとって、環境学習やビーチクリーンは初めてのことではない。これまでも課外活動や自治体の取り組みなどで参加する機会は幾度もあった。それでも今回の子どもたちの積極的な様子に担任の先生方も驚いていたようだ。
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「給食の時間に早速、ストローの袋が“燃えるごみ”に入っていたのを見つけた生徒が『先生これ、燃えるごみに入ってたよ!』とプラごみへ入れ直してくれたんです。海をきれいにしよう、分別をしよう、と言うのは頭ではわかっていると思うのですが、今日のプログラムでしっかり身についたと感じました」(木内 雄太郎先生/西浜小学校)
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「いままでも生徒たちは海が好きだと言っていましたが、きれいな海の方が楽しい、海を大切にしたいという気持ちが今日のプログラムを通して一層強くなったと思います。ネットで調べる授業や聞くだけの授業と違い、自分たちで実際に体験すると覚えが早いと思いました」(関 望先生/西浜小学校)
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「今日のワークショップで、ふだんのごみ拾いやビーチクリーンがもっと活発になったらいいな、と思っていたのですが、早速『これプラスチックだよ!』など生徒たちから積極的な声が聞けたので、とてもよかったと思います。この前向きな姿勢をこれからも続けていきたいです」(高橋 菜々先生/西浜小学校)
海洋ごみの問題は、自分ごと化しにくいことが大きな問題だ。今回のワークショッププログラムのように、具体的な仕組みを知り、方法を体験することで、目的意識がはっきりする。海をきれいにして、ごみをリサイクルするためには素材別に集める必要があるという具体的な目的を持つことで、積極的に行動できるようになる。
ビーチクリーンでの子どもたちの会話を聞き、寺井氏もカードゲームとビーチクリーンという2部構成の効果を実感したという。「『これ何の素材だろう?』『見わけがつかない!』と悩みながらごみを拾っていました。ただごみを拾うのではなく、悩んだり考えたりしていたのが印象的でした。カードゲームでの基礎知識があったから、一歩先のことができたと思います」(寺井氏)
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最後に、今回のワークショップに参加したプロサーファーの選手、西浜小学校の子どもたちの感想を紹介する。
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「今回のワークショップのように子どもたちと触れ合うのはとても大切だと思っています。海のごみ問題に関しても、自分のできることから、茅ヶ崎の海で一緒にサーフィンをしている子どもたちと一緒にやっていきたいです」
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「海洋ごみというと大きな問題ですが、まずはごみを見たら拾う、とか。少しずつでも減らしていけたらと思います。自分が育ってきた地元の海を少しでもきれいにするために、次世代にも教えていきたいですね」
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「今日はカードゲームやビーチクリーンを通じて、みんなと楽しい時間を過ごせたのがとてもよかったです。茅ヶ崎は海を好きな人が多い。一人ひとりがごみを拾ったりして、日本のなかでも憧れられるようなビーチになることを願っています」
「茅ヶ崎の海にはそんなにごみは落ちていないと思っていたけれど、思った以上にごみが落ちていた。身近に海があるからしっかりと対策しなきゃな、と思った」
「ゲームで、知らなかったごみについて知ることができた。ビーチクリーンで落ちているごみの種類を見ながらごみを拾いました。とても小さいプラスチックを集めました。この学習でごみの影響がとても大きいことを知ったので、これからは拾おうと思いました」
「海にはたくさんのごみがあったけど、あのごみを魚が食べて、その魚を人間が食べたりしたらどうするんだろう。海では絶対ぽい捨てしないようにしないとと思った」
「カードゲームをやって、初めてごみのペットボトルなどにも種類があることを学んだ」
「この学習でわかったことは、ごみはリサイクルさえすれば電気、ビー玉、ペットボトルになり、どんなごみでも未来に役立つものに大変身すること」
「ゲームでごみをなくす(リサイクル)とどうなるかを知ってからビーチクリーンをしたから、海をきれいにすることが大切だということがわかりやすかった」
「『海にビニール袋やプラスチックをなるべく持っていかないでね』とお父さん、お母さんに言われていたけど、この授業でリサイクルの大切さを感じた」
「一見ごみがないように見えたけど、よく見ると小さなプラスチックがたくさん落ちていた。前ビーチクリーンをした時より、ごみが何になるかを知ったから楽しかった」
「ぼくたちがこうやってごみを拾うことにより、ほんのちょっと海がきれいになる。そのほんのちょっとが大切なんだと学びました」
「ペットボトルとペットボトルで丈夫なペットボトルができるなんてリサイクルはすごいと思った。いろいろなごみから違うものに生まれ変わったらすごい。自分でも考えようと思った」
カードゲームで海洋ごみ問題を楽しく学び、ビーチクリーンで理解を深める。こうした活動を経て、彼らの言葉にある海に対する責任や希望が大きな波となり広まっていくことが、未来への手がかりとなるはずだ。
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