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アロマンティックとは他人に恋愛感情を抱かない人や指向をさす。現代は多様性を受け入れる社会になり、個々のセクシャリティも注目されるようになった。本記事ではセクシャリティのひとつ、アロマンティックについて詳しく解説する。
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アロマンティックとは「他人に恋愛感情を持たない人、またその指向」をさす名称である。単語そのものは「恋愛的に惹かれない(ほとんど惹かれない)」という意味だが、現在は前者を示すことが多い。
アロマンティックは恋愛的指向の一種であるが、その実、アロマンティックそのものに厳格な定義は成されていない。アロマンティックというカテゴリに分類される指向であっても、1人ずつ特徴が異なっているからだ。
そのため一口に「アロマンティック」といっても、アロマンティックの人すべてが同一の恋愛観や価値観を持つわけではない。本記事ではあくまで冒頭の「他人に恋愛感情を持たない人、またその指向」をアロマンティックと定義する。
アロマンティックが生まれたのは近年だと思う人も多いかもしれない。しかし実際には1879年に「性愛」と「恋愛」を分ける考えが提唱されており、概念そのものの歴史は長い。100年後の1979年には「non-limerent(ノン・リメラント、ロマンティックな魅力に対する感情の起伏がない)」という考えも誕生している。
「アロマンティック」の言葉とその意味は2000年から2005年頃に普及しはじめた。きっかけは1990年代から見られるようになったLGBT運動である。
LGBT運動は性的マイノリティへの理解と受け入れを求める運動だ。性的マイノリティへの理解が広がるとともに、前述のノン・リメラントの概念も広く知られはじめる。
LGBT運動が続くなか、個人のセクシャリティを分ける「Split Attraction Model(SAM、スプリット・アトラクション・モデル)」が定着し、分類のひとつの「アセクシャル」に注目が集まった。
アセクシャルとは「他人に性的に惹かれない(性的欲求を抱かない)」人をさす。しかしアセクシャルの定義について議論が進むにつれ、「性的指向」と「恋愛指向」は区別されるべきではないのかという見方が増えた。
アロマンティックはあくまで「他人に恋愛感情を持たない」が概念である。アセクシャルのように性的感情を持たないという概念ではない。なかには他人と性的な交流を求めるアロマンティックもいる。最終的に両者は区別され、「アロマンティック」が生まれたのである。
2014年からはアロマンティックに対する啓発イベント「Aromantic Spectrum Awareness Week(現AroWeek)」が毎年開催され、国際的理解を深めつつある。(※1)
アロマンティック、アセクシャルのセクシャリティを持つキャラクターが登場する作品も各メディアで増加中だ。日本でもNHKでドラマ「恋せぬふたり」が放送され、アロマンティック、アセクシャルへの認知と理解を生む一助を果たした。同作品は高い評価を受け、日本国内で各賞を受賞している。
前述のとおり、アロマンティックはアセクシャル(アセクシュアル)と異なるセクシャリティである。しかし混同されることが多いのもたしかだ。
アセクシャルは他人に性的欲求を抱かない、性的に惹かれないことをさす。アロマンティックと異なり、恋愛感情の有無が根本にかかわるセクシャリティではないのだ。いわば「恋愛感情の有無にかかわらず、他人に性的欲求を抱かない」という概念である。
ただし恋愛感情がからむ分類はある。アセクシャルのなかには恋愛感情はあるが性的欲求を抱かない「ロマンティック・アセクシャル」、恋愛感情も性的欲求も抱かない「アロマンティック・アセクシャル」が存在する。
このふたつはあくまで恋愛感情がからむ場合を仮定した際の分類だ。どちらが正しいアセクシャルか、否定されるべきアセクシャルか、という分断ではない。いわば「アセクシャルとしての定義にあたり恋愛感情に言及する必要はない、有無はどちらもよい」とも言えるだろう。
なお「恋愛感情を抱かない」の定義は本人の意志に左右されない。たとえば「宗教の教義で恋愛できない」「恋愛したくないから避けている」は本人の意志で恋愛を遠ざけている。このような事情がある場合はアセクシャルの定義から外される。
いっぽう、アロマンティックは前述のとおり恋愛感情にフォーカスしている。他人に恋愛感情を持たないセクシャリティだ。性的欲求にフォーカスするアセクシャルとは異なるアイデンティティであることは間違いない。
少々複雑に思えるかもしれないが、なかにはアロマンティックとアセクシャルの両方をあわせ持つ人もいる。「他人に対して恋愛感情も性的欲求も持たない」というセクシャリティだ。このような人々は「アロマンティック・アセクシャル」と言われている。
アロマンティックは恋愛作品(映画や小説など)や恋愛の話題に共感しない。作中や話題に登場する人物の恋愛感情に共感できず、違和感を覚えることもある。
かといってアロマンティックが恋愛作品や恋愛の話題に否定的かと言えばそうではない。ほかのセクシャリティと同様に楽しむアロマンティックもいる。なかには避ける人もいるが、それは嗜好による部分もあるだろう。
たとえば性的指向が異性愛の人誰もが、同性愛を扱う作品を否定するだろうか。決してそのようなことはないだろう。作品のひとつとして受け入れ、楽しむ人もいる。
アロマンティックも同様で、あくまで「共感しない」だけである。作品や話題を誰もが楽しまないというわけではない。
恋愛作品や恋愛話に共感できない、あるいは違和感を持つことがあっても、アロマンティックは友人の恋愛話に理解や興味を示すふりをする。
実際には共感できず、話題についていけないと思っていても、場を盛り上げるため自分をごまかし、そのように振る舞うことがある。
恋愛経験がある人は、好きな人を目の前にすると鼓動が波打ったり頬が火照ったりした記憶を持っているのではないだろうか。アロマンティックはそのような経験がない。恋愛的な高揚感を他人に抱かないためだ。
かといって何に対しても無感動というわけではない。イベントやパーティーで盛り上がる空気に高揚することもあれば、哀しいできごとに涙することもある。アロマンティックはあくまで恋愛的な高揚感を経験しないだけであり、状況や喜怒哀楽による高揚感とは無縁ではない人々である。
家族や友人、職場の人などに恋愛経験について問われる状況になり、やむなく架空の恋人をつくり上げるアロマンティックもいる。
これは「恋愛をして当たり前」「それが普通」「パートナーがいるのは当然」といった価値観が本人の周囲にあるためだ。なかには価値観にあわせようとし、架空ではなく実在の誰かを無理にパートナーにしようとする人もいる。
もっとも大切な特徴は、アロマンティックは愛情を持たないセクシャリティではないということである。あくまで第三者、他人へのロマンティックな恋愛感情を持たないというだけだ。
家族への愛、友情、他人への善意や好意、ときにはペットへの愛をアロマンティックは多くの人々と同様に感じている。自分以外の誰かと愛情深い関係を築き、長く続けていくことができる。
ゆえに「アロマンティックは誰も愛さない」という誤解に結びつけないよう気を付けたい。恋愛的ロマンティックを感じないだけであり、決して愛を感じない人々ではないのだ。むしろアロマンティックのなかには家族や友人に対して愛情深い人が多いとも言われている。
アロマンティックは恋愛感情に共感できないという概念である。決して他人のすべてに共感しないわけではない。前項でも触れたが、家族や友人、他人に対して愛情を持ち、深い関係を築くことができる人々だ。
喜怒哀楽の感情に共感し、また、自分自身もその感情を持って共感される。アロマンティックだからといって「共感力が足りない」と判断するのは危険な考えかたであり、当事者に対して無礼にあたるだろう。
結婚は恋愛的魅力が深くかかわると考えられる向きがあるかもしれない。しかし恋愛感情を持たないアロマンティックでも特定の誰かと結婚することがある。
結婚は必ずしも恋愛的魅力のみで成立するわけではないだろう。ほかの部分に魅力を感じ、恋愛とは違う感情であっても、ある種の愛情を抱くのは決して不自然ではない。また、愛情を感じ合う人と充実した社会制度のなかで生きていきたいと思うこともあるだろう。その愛情は十分に結婚の理由になるはずだ。
一口にアロマンティックといっても、すべてが一致するわけではない。1人ひとりにそれぞれの価値観がある。
たとえば「性的欲求はあるが恋愛感情はない」「ルックスや性格に強く惹かれるが恋愛感情ではない」などだ。いずれも多様性が受け入れられる社会ではひとつの指向として認知される。
アロマンティックはほかのマイノリティとともに少しずつ啓発が広がっている。彼らは恋愛感情を持たないが、恋愛以外の他方向に対してはほかの人々と変わらない愛情や共感力を持っている。
正しく理解されなければ傷付けることにもなりかねない。アロマンティックという言葉そのものがいまだ新しいため、これからも継続した啓発が求められるだろう。
※1 Aromantic Spectrum Awareness Week is February 19th - 25th, 2023|AROMANTIC SPECTRUM AWARENESS WEEK
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