9月8日の「国際識字デー」とは 識字教育が広げる人々の可能性

白紙に英語の文章を書く子ども

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9月8日は「国際識字デー」。読み書きが困難な人々の識字率向上を考える日である。近年の識字率は上昇傾向にあるが、教育環境が整えられていない地域ではいまだ識字率が低い。いまを生きる大人と未来を拓く子どもたちのため、識字教育の充実が望まれる。

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2022.08.25
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「国際識字デー」とは

国際識字デーとはUNESCOが制定した国際デーのひとつである。英語では「International Literacy Day(ILD)」と表記される。

制定までの流れは1965年、イランで開催された「世界教育相会議(テヘラン会議)」に端を発する。当時のパーレビー国王が各国の軍事費一日分を識字基金に拠出するよう提案。それを受けたアメリカのジョンソン大統領が米国議会に呼びかけ、UNESCOが1966年9月8日を初の国際識字デーに制定した。(※1)

制定の目的は世界の識字率の上昇である。先進国では当然のように多くの人が文字の読み書きを習得している。しかし教育環境が整っていない国では識字能力を持たない人々が数多くいるのも事実だ。

識字能力は経済、自由、発展のあらゆる基盤となる。人生の選択肢の拡充やよりいい生活、生産性の向上に結びつく重要な能力だ。国際識字デーの制定により、識字能力の習得が困難な人に注目が集まった。彼らが教育にアクセスできる環境の構築が重要視されるようになったのである。

過去の国際識字デー

国際識字デーが制定されてから、世界中で識字に対する重要性の認識や啓発、支援などの取り組みがおこなわれている。その事例をご紹介しよう。

国連本部 「国連識字の10年」への取り組み

2003年から2012年にかけて、国連本部では「国連識字の10年」の取り組みがおこなわれた。スローガンは「すべての人に識字を」。10年の間にすべての人が識字能力を習得できるよう、国際社会に積極的な行動を求めるための提唱である。

この取り組みではとくにジェンダー・マイノリティー差別、貧困によって習得が阻害された人々への教育プログラムの策定が求められた。同時にルイーズ・フレシェット国連副事務総長は「識字は人権である」と明言し、国際社会の識字の重要性を強くアピールした。(※2)

日本ユネスコ協会連盟 世界寺子屋運動

1989年、日本ユネスコ協会連盟がスタートさせた「世界寺子屋運動」。江戸時代、日本の子どもの教育を担った寺子屋を発展途上国に広める活動だ。

読み書きや計算を学べる教育機会の提供は2022年のいまも続き、現在ではアフガニスタンやカンボジアをはじめとした40カ国以上で成果を上げている。子どもだけではなく、識字能力を習得したい大人も学べるのが大きな特徴である。

識字率の現状

先進国では当然のように高い識字率だが、視点をグローバルに移せば決して一般的な事象ではない。世界と日本の識字率や、識字率の低さが引き起こす問題について見てみよう。

世界と日本の識字率

もともと初等教育が行き届いた日本は識字率が高く、およそ99%以上が識字能力を習得している。これは日本に限らず先進国で見られる傾向だ。欧州、中央アジアでは100%を達成している国もある。

いっぽうで、開発途上国の識字率は決して高いとはいえない。識字率がもっとも低い南スーダンでは、15歳~24歳の男性の識字率が48%、女性が47%である。未来を担う若者の半数が識字能力の習得に至っていないのだ。(※3)

国際識字デーの制定や各方面の啓発・施策は、たしかに識字率の上昇に貢献している。しかしいまだ1億2,100万人もの子どもが学校へ行けず、初等教育すら受けられない厳しい状況が続く地域が存在するのもまた事実である。

【2020年】世界の識字率 開発途上国は依然として低い傾向に

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識字率が低い原因

開発途上国の識字率の低さは歴史的な問題、ジェンダー差別、人材の不足など複数の要因がかかわっている。

開発途上国の多くは第二次世界大戦後に独立した。独立後は紛争や差別が続き、経済的に恵まれない国が多い。教育に割くリソースが確保できない状況だ。確保できたとしても男性の教育が重視され、女性は後回しになりがちである。また、親が教育の重要性を理解していない場合、男女ともに教育へのアクセスが断たれやすい。

開発途上国で教育にたずさわりたい人材が少ないこと、家から学校まで何時間も歩かなければならない子どもが通学を諦めざるをえないことなど、教育をおこなえる人材や施設が不足しているのも大きな問題だ。

国際的な支援があるとはいえ、初等教育が必要な層すべてにその機会を届けられているわけではない。早急な環境構築とさらなる支援が必要である。

識字率の低さが引き起こす問題

識字率の低さは問題を引き起こす可能性がある。なかには人権にかかわる類の危険もあり、前述したフレシェット氏の「識字は人権である」という言葉の意味を実感させられる。

生命や健康にかかわる情報を共有しにくい
薬品の取り扱い説明書が理解できず、適切な使用ができないおそれがある。また、危険な場所に警告文が掲示してあっても理解が難しく、足を踏み入れてしまう可能性が高くなるだろう。

職業の選択肢が狭まる
識字能力を必要とする職業への就業が難しくなる。マニュアルやリファレンスでの知識・技術の修得ができず、職業が選びにくくなり、高収入や安定した収入から遠ざかる可能性がある。

犯罪被害者になる可能性
書面のやり取りによる情報確認が難しいため、詐欺や不当な賃金搾取といった犯罪に巻き込まれやすくなる。場合によっては犯罪被害者になったことに気付けない。

社会参加ができない
識字能力がなければ知識や情報を手に入れにくく、社会参加が難しくなる。選挙権があっても投票ができないこと、要求があっても書面で伝えられないことなど、多くのシーンで不利益を感じやすくなるだろう。

私たちにできること

識字能力は人権に大きくかかわるファクターであり、識字率の向上は若者の未来の選択肢を増やす。誰ひとり取り残さない世界の実現にもつながるだろう。私たちにできることは多くないかもしれないが、皆無というわけでもない。まずは世界の現状を知ったうえで募金や支援活動への参加、周囲へのさりげない啓発など、自分ができる範囲でのサポートを見つけよう。

※掲載している情報は、2022年8月25日時点のものです。

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