識字率は、文字の読み書きができる人の割合のことであり、国や地域において教育水準や生活水準を示すためにも用いられる。識字ができない人は世界で約7億7300万人もいるとされており、その多くが貧困・紛争・女性蔑視といったさまざまな理由で教育を受けられていない。
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識字率とは、文字の理解や読み書きができる人の割合のこと。ユネスコは、識字率の定義を「日常生活で必要な簡単な文章を読み書きできる15歳以上の人の割合」としているが、国によって定義は異なる。
国や地域の教育水準や生活水準を図るための指標としても用いられる識字率は、その地域が先進国と開発途上国のどちらであるかを判断するうえでも、重要な役割を果たしている。
2020年のユネスコの調査によると、2004年~20018年における世界の識字率(15歳以上)は以下の通りだ(※1)。なお、日本や複数の国における識字率は現在調査されていない。
識字率 | 国名 | |
---|---|---|
90%以上 | インドネシア、オマーン、パナマ、メキシコ、サウジアラビア、レバノン、ベトナム、マレーシア、マルタ、スリナム、ペルー、パラグアイ、タイ、ドミニカ共和国、カタール、アラブ首長国連邦、ブラジル、エクアドル、ボリビア、プエルトリコ、スリランカ | |
80〜89% | エルサルバドル、ジャマイカ、バヌアツ、ホンジュラス、イラク、ガイアナ、イラン、ガボン、ラオスニカラグア、ケニア、アルジェリア、グアテマラ、シリア、カンボジア、コンゴ共和国 | |
70〜79% | ガーナ、チュニジア、タンザニア、カメルーン、コンゴ民主共和国、エリトリア、ソロモン諸島、レソト、ウガンダ、ミャンマー、マダガスカル、インド、バングラデシュ、モロッコ、ルワンダ、エジプト | |
60~69% | ブルンジ、東ティモール、ネパール、ブータン、アンゴ、トーゴ、マラウイ、ナイジェリア、ハイチ、パプアニューギニア、スーダン、モザンビーク | |
50~59% | パキスタン、コモロ、モーリタニア、セネガル、エチオピア、ガンビア | |
40~49% | リベリア、コートジボワール、ギニアビサウ、シエラレオネ、アフガニスタン、ベナン、ブルキナファソ | |
30~39% | 中央アフリカ、マリ、南スーダン、ギニア、ニジェール | |
30%以下 | チャド |
世界の成人(15歳以上)の平均識字率は、1990年には76%であったのに対し(※2)、2016年には86%にまで伸びている(※3)。
また北アメリカやヨーロッパ、東アジアの地域では高い識字率がみられることがわかっている。日本の初等教育就学率は男女ともに100%であることから(※4)、識字率も世界水準の上位であることが予想できる。
しかし、教育が充実している先進国では識字率の数値が高い一方、教育の行き届いていない開発途上国では数値が低い傾向にある。
世界にはいまだに、文字の読み書きができない人が約7億7,300万人もいるとされており(※5)、とくにチャド、ニジェール、南スーダン、中央アフリカ、マリといったサハラ以南アフリカでは、依然として識字率は40%を下回っている。また、このような識字率の低い地域では、男性よりも女性の識字率が低い傾向にある。
世界で学校に行けない子ども(6~14歳)の数は、約1億2,100万人にも上るとされている(※5)。アフリカなどの開発途上国では、学校に行けない子どもが多く、文字の読み書きを習う機会がないまま大人になるために、識字率が低い傾向にある。
子どもたちが学校に行けない原因には、貧困や紛争、学校が近くにない、先生がいないといったことが挙げられる。また、女性は早く結婚して家事や育児を担当するため、女性には教育は必要ないといった慣習が残っている地域もあるようだ。
さらに日本では、労働基準法により児童労働が禁じられているが、開発途上国では、生活困窮のために多くの子どもが働いているのが現状だ。とくに児童労働が深刻なアフリカでは、5人に1人の子ども(5~17歳)が生活のために働いていており、教育の機会を逃してしまっている(※6)。
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病気になってしまった時に医師から薬を処方されても、文字が読めないために正しい服用の仕方がわからない。また、紛争の起こる地域では地雷が埋まっている場所もあるため、文字が読めないことは命の危険にも関わる。
識字ができなければ、業務のマニュアルを読む、報告書を作成するといった、仕事に必要な技術や能力を身につけることが難しいため、仕事を選ぶことができなくなる。その結果、単調または危険な仕事をするしかなくなり、収入が安定せず貧困から抜け出せない、という負の連鎖に陥ってしまう。
自分の名前が書けない、資料が読めない、書類に正しく記入ができないために、公共サービスさえ受けられない場合もある。また、自分の意思を正しく伝えられない、選挙で投票ができない、子どもに必要な予防接種などの生活に必要な情報を得ることができない、といったことが発生するため、社会から取り残されてしまう可能性もある。
2015年に国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)でも、識字率の向上は重要視されている。
SDGsの目標の一つ、「質の高い教育をみんなに」では、「2030年までに、すべての若者および大多数の成人が、識字と基本的な計算能力を身につけられるようにする」という目標が定められている。そしてこの目標を達成するために、日本でもさまざまな取り組みがおこなわれている。
日本ユネスコ協会連盟の活動の一つ、「世界寺子屋運動」では、貧困・紛争・女性などの理由で、教育を受けられない人々のために、学びの場と機会を提供している。文字の読み書きや計算、保健衛生など生活に役立つ知識を提供したり、学校や図書館の設置、職業訓練の実施などに取り組むことで、貧困のサイクルを断ち切ることを目指している。
独立行政法人国際協力機構・JICA(ジャイカ)による「みんなの学校プロジェクト」では、2004年から西アフリカを中心に教育開発を支援。子どもたちの学びの質やスピードを高めるため、教育現場を改善していくことに着目した。
学校活動の計画づくりや実施に、教員・保護者・住民が自ら取り組めるように促し、地方行政と地域住民が協働して子どもの教育を支援するしくみを形成するこの支援モデルは、世界最貧国のひとつであるニジェールの全学校で普及している。
本を読んだり、音楽を聴いたり、人とコミュニケーションを取ったりすることは、私たちの生活を豊かにする手段の一つだ。しかし、識字という能力がなければ、このような豊かさを手に入れられないどころか、生活に必要な情報や仕事さえ手に入れられず、社会からも取り残されてしまう。
すべての人が識字能力を身につける権利があり、そのためには国や地域における教育水準の向上が欠かせない。私たちがまずできることは、それらをサポートするための寄付や、取り組みへの積極的な参加ではないだろうか。
※1 総務省統計局「世界の統計2021ー15-6 男女別識字率」(P268)https://www.stat.go.jp/data/sekai/pdf/2021al.pdf#page=261
※2 UNESCO Institute of Statistics「ADULT AND YOUTH LITERACY National, regional and global trends, 1985-2015」(P10)
http://uis.unesco.org/sites/default/files/documents/adult-and-youth-literacy-national-regional-and-global-trends-1985-2015-en_0.pdf
※3 UNESCO Institute of Statistics「Literacy Rates Continue to Rise from One Generation to the Next」(P1)
http://uis.unesco.org/sites/default/files/documents/fs45-literacy-rates-continue-rise-generation-to-next-en-2017_0.pdf
※4 公益財団法人 日本ユニセフ協会「世界子供白書 2015」(P3)
https://www.unicef.or.jp/library/sowc/2015/pdf/statistics05.pdf
※5 公益社団法人 日本ユニセフ協会連盟「世界寺子屋運動」
https://www.unesco.or.jp/activities/terakoya/
※6 公益財団法人 日本ユニセフ協会「児童労働」
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act04_02.html
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