Photo by Null Stern Hotel © Copyright Atelier für Sonderaufgaben
スイス人アーティストの双子の兄弟が、ガソリンスタンド脇に壁も天井もない「眠れないホテル」をオープンした。宿泊客は安眠はできないが、気候変動や世界で起きているさまざまな問題について、じっくりと考える機会を得られるという。現在数カ月先まで予約が埋まり、話題となっている。
岡島真琴|Makoto Okajima
編集者・ライター・キュレーター
ドイツ在住。自分にも環境にも優しい暮らしを実践する友人たちの影響で、サステナブルとは何かを考え始める。編集者・ライター・キュレーターとして活動しつつ、リトルプレスSEA SONS PRE…
「すだちの香り」で肌と心が喜ぶ 和柑橘の魅力と風土への慈しみあふれるオイル
Photo by Null Stern Hotel © Copyright Atelier für Sonderaufgaben
スイスのコンセプチュアルアーティストである双子の兄弟、フランク・リクリンとパトリック・リクリン。彼らがスイスでオープンした「Null Stern Hotel(ヌル・スターン・ホテル)」が話題になっている。
このホテルの客室は、まず壁も天井もない。しかも客室がある場所が独特だ。例えば、「Null Stern Anti-Idyllic Suite」(のどかでないスイート)と名付けられた客室があるのは、スイスのサイヨンにあるガソリンスタンド脇。
客室にはダブルベッドと2つのベッドサイドテーブル、それにランプが置かれているのみ。プライバシーを守るための壁や天井、それにドアも存在しない。
Photo by Null Stern Hotel © Copyright Gianluca Colla
「Null Stern Hotel(ヌル・スターン・ホテル)」をプロデュースしたリクリン兄弟。
リクリン兄弟はこれまでも、壁と天井のない「Null Stern Hotel」の客室を、アルプスを一望できるロケーションやブドウ畑の真ん中など、スイスの美しい風景を楽しめる場所につくってきた。
しかし今回初めて、ガソリンスタンドという旅先にはふさわしくない「のどかでない場所(Anti-Idyllic Suite)」を選んだという。
大通りの脇に面した「Null Stern Anti-Idyllic Suite」の客室では、宿泊客は安眠することなどできない。しかしリクリン兄妹がこの場所にあえてつくったのは、現在の気候変動や世界情勢についてすぐに変化させる必要性を感じているから。
「睡眠は一番重要なものではない。大切なのは、いまの世界情勢を考えること。ここで一夜を過ごすことは、社会の変革が急務であることを表している」とフランク・リクリン。ホテルの公式Instagramには「眠っている暇などない!」と書かれている。
車の音やガソリンの匂いといった人工的なものを五感で直に感じながら、宿泊客は「半分眠った」状態になりながら、気候変動や戦争、人類が地球に与える問題などについて考える機会を得るのだという。
Photo by Null Stern Hotel
またパトリック・リクリンは、もし今後も人類が地球に与えるダメージが大きくなるなら、彼らのホテルは「美しい自然の中ではなく、のどかとは相反する場所につくることが増えるかもしれない」と話す。
彼らはこの「眠れないホテル」を、個人や企業、学校、団体などを問わず、アイデアの交換やブレーンストーミング、クリエイティブな発想を得るために利用することをすすめている。そして宿泊客は自分自身のために時間を使い、地球に対する内省のひとときを過ごしてほしいとの願いが込められているという。
Photo by Null Stern Hotel © Copyright Atelier für Sonderaufgaben
宿泊料は、一泊一室325スイスフラン(約4万5,000円)。朝食には、地元のオーガニック食材を使った食事や飲み物が提供されるほか、悪天候の場合は別ホテル(もちろん壁や屋根付き)に移動することも可能。すでに数カ月先まで予約が埋まっている。
ELEMINIST Recommends