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イギリスに本拠地を置くエレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーを国際的に推進している。気候変動をはじめとしたグローバルな課題に対処するシステムソリューションの実現のため、財団は数多くのアクティビティに注力している。設立の目的や団体が掲げる3原則などを解説する。
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エレン・マッカーサー財団とは、2010年に設立されたサーキュラーエコノミーへの移行をビジョンとした組織である。設立以来、情報発信による啓発活動や、国を超えたグローバルネットワークの構築など、その活動は多岐にわたっている。
エレン・マッカーサー財団の啓発活動は、世界活動へのアプローチとして注目を集めている。サーキュラーエコノミー推進の一環として構築されたグルーバルネットワーク「CE100」は、所属団体や業種にとらわれず、目標を同じくする人々を繋げた。いずれはサーキュラーエコノミーの研究・調査を世界規模でおこなうビジョンを描いている。
CE100には世界中の企業や教育機関が参加している。その数はゆうに130を超え、財団の啓発活動が有効である証明だといえるだろう。いっぽう、日本からの参加はいまだ少なく、2022年3月時点では6社となっている。
財団創始者のエレン・マッカーサーとはどのような人物なのか。1977年、イギリスに生まれたマッカーサー氏は、単独で世界一周航海を成し遂げたプロのセーリング選手である。
プロとして海上で生きるうち、世界の資源には限りがあると気付き、危機感をいだく。それをきっかけに経済モデルを学び、サーキュラーエコノミーへの移行を目指すに至った。2010年にエレン・マッカーサー財団を設立し、現在も積極的なアクティビティをもって啓発を続けている。
エレン・マッカーサー財団はサーキュラーエコノミーへの移行を目指す原則として、3つの項目を掲げている。(※1) 「3原則」と呼ばれるこれらの項目は、サーキュラーエコノミー実現のためになくてはならないものだ。
原則の1つめは「廃棄物・汚染などを出さない設計(Design out waste and pollution)」だ。温室効果ガス(GHG)の排出や有害物質、大気汚染や交通渋滞など、経済活動が引き起こす人の健康や自然環境への負荷低減を目的とする。
原則の2つめは「製品や資源を使い続ける(Keep products and materials inuse)」。再製造・リサイクルを視野に入れた設計をおこない、経済モデルの中で循環させる目的である。
原則の3つめは「自然のシステムを再生する(Regenerate natural systems)」である。地球には再生可能エネルギーがある。これらを活用しようという考えだ。非再生資源ではなく、再生可能資源をもちいる。
サーキュラーエコノミーの和訳は「循環型経済」である。経済活動をひとつのサークル型にとらえ、経済活動で使われる資源を3原則によって循環させていく。
限られた資源を技術的サイクルで、再生可能資源は生物的サイクルで活用し続け、いずれは土壌に戻すかたちだ。土壌に戻す以上、有害物質が含まれるような設計は避けざるを得ない。財団が掲げる「3原則」は、このサイクルを実現させるために不可欠なスキームだ。
エレン・マッカーサー財団はサーキュラーエコノミーの実現を通じ、地球上の人々すべてに利益をもたらすとしている。環境問題の解決にもつながり、同時に発展や雇用をうながすシステム構築のため、積極的な活動はこれからも続けられるだろう。
エレン・マッカーサー財団はプラスチック問題も注視している。プラスチック廃棄・汚染ゼロの啓発活動は財団の大きなアクティビティのひとつだ。(※2)
2020年3月、財団は「欧州プラスチック協定」を発足した。プラスチック廃棄・汚染ゼロの目標を同じくするヨーロッパ経済領域(EEA)と協力し、サーキュラーエコノミーを推進するためである。
財団はプラスチック汚染の抑制に向け、「不要なプラスチック包装の排除」「リユースの推進・使い捨て製品の削減」など、6つのビジョンを掲げている。(※3)
欧州プラスチック協定では、そのビジョンにもとづいた目標が設定され、2025年までの達成を目指している。
1:可能な限りリユースできる包装・商品をつくる
2:新規プラスチックの利用率20%引き下げ
3:プラスチックの回収・分別・リサイクルのキャパシティ25%増加
4:プラスチック製品のリサイクルプラスチック使用量30%増加
欧州プラスチック協定に加盟した団体は、目標を達成するための技術開発やガイドライン・基準の統一と共有、実践方法や知見の共有に注力することになる。
実現すればプラスチックの汚染は大きな抑制が可能になるだろう。サーキュラーエコノミーの推進にもプラスになるはずだ。プラスチック協定は欧州だけではなく、世界でも注目されている。目標達成に向け、エレン・マッカーサー財団と欧州プラスチック協定のさらなる飛躍を期待したい。
ひとりの女性から始まった活動は大きく広がり、エレン・マッカーサー財団としてグローバルな存在になった。プラスチック汚染を含めた環境問題に向き合うとき、エレン・マッカーサー財団の名を思い出すことも多くなるだろう。
財団が掲げるサーキュラーエコノミーの3原則をもとに、これからも続くであろう啓発活動に注目したい。
※1 循環型の事業活動の類型について(11ページ目)|経済産業省
※2 Designing out plastic pollution|エレン・マッカーサー財団
※3 Our vision for a circular economy for plastics|エレン・マッカーサー財団
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