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環境負荷が少ない化学を指す「グリーンケミストリー」は、環境だけではなく人体負荷の減少にも注目されている。従来の化学が環境・人体に与える負荷は、グリーンケミストリーによってどのように軽減されていくのだろうか。歴史的背景やSDGsとの関わり、今後の展望などを解説する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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グリーンケミストリーとは、環境や人体への負荷の軽減をコンセプトとして定義されている。また、そのための技術の総称でもある。
「安全・少量の原材料から必要な化学物質を合成する」「化学物質の利用で生じる廃棄物を減らす」「環境への放出時に分解しやすい化学物質を選択する」の3ステップが柱となる考え方だ。
従来の化学技術・産業よりコストがかかる可能性はあるが、省資源・省エネルギー・環境と人体への負荷の減少を目指す新段階の化学技術と環境意識である。
「グリーンで持続可能な化学活動」として注目され、日本を含めた世界各国でも積極的な取り組みが始まっている。
1987年、国連環境特別委員会において「持続可能な開発」が提言。その後、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議で採択された「リオ宣言」でも持続可能な開発が重視され、国際的に「環境」がより強く意識されるようになる。いわゆるSDGsの幕開けである。(※1)
グリーンケミストリーはSDGsとともに歩み始めた。環境との共生実現を目指すグリーンケミストリーはSDGsの理念と親和性が高い。化学分野においても工夫しだいで環境負荷を軽減できる項目は多く、21世紀においては化学のひとつの潮流になっている。
現在は米国のポール・アナスタスが1998年に提唱した「グリーンケミストリーの12原則」が基本概念として意識されている。グリーンケミストリーの12原則は以下の通りだ。
廃棄物が出てから処理や清浄化を意識するのではなく、そもそも廃棄物を出さないように努力する。
無駄が出ないよう、化学物質を最大限まで活用する合成法を全プロセスで設計する。
人体と環境への影響を軽減できる物質を使用する、またはそのような合成法を設計する。
化学物質の合成では、目的機能の達成とともに毒性を最小限にする設計をおこなう。
補助剤(溶媒・分離剤など)を使用する場合は無毒化する。可能であれば使用しない。
化学プロセスでのエネルギー効率が、環境・経済にどのような影響を及ぼすか考慮し、最小限にする。可能であれば常温の大気圧下で合成する。
技術的・経済的に可能であれば、再生物質の原材料・材料を使用する。資源枯渇が考えられる物質よりも優先する。
不要と考えられる化学修飾は可能な限り最小限に、または回避する。化学修飾は試薬の追加使用や廃棄試薬を増やしてしまう。
慎重に選択した製品を触媒とする場合、試薬よりも適している。
最終合成工程の段階で、化学物質が環境に残らない無毒の生分解物質になるデザインで使用する。
リアルタイム分析とインプロセスの監視により、生成前の段階で有害物質を管理できる。分析手法の開発を進めるべきである。
化学物質は化学合成過程で事故が起き得る。事故の発生を最小限にできるよう、安全性の高い化学物質を選択する。
前述の通り、グリーンケミストリーはSDGsとの親和性が高い。SDGsの推進に向け、グリーンケミストリーが好影響を与えられる一面もある。
グリーンケミストリーの12原則を守ることにより、SDGs「5つのP」のうち「地球」を厚くカバーできる可能性が高まるだろう。(※2)
そして「5つのP」は互いに影響し合っている。グリーンケミストリーは「地球」だけではなく、「地球」と深い関係にある「人間」「豊かさ」までもカバーできるようになるかもしれない。
「人と環境にやさしい」をコンセプトとするグリーンケミストリーは、人と環境を重視するSDGsを多彩な面で支えられる。SDGsの数々のゴールまでのプロセスに大いに貢献できると言っても過言ではないだろう。
国際的に推し進められるグリーンケミストリーの発展には、国によるイニシアチブが望ましい。日本でも環境負荷の低減と持続可能社会を目標とした「グリーン・サステナブル・ケミストリー(GSC)」を発足し、啓発を続けている。
長期的で新しい化学産業体制の構築は、グリーンケミストリーとSDGsのどちらからも不可欠だ。各企業でもたゆまぬ努力が続けられ、さまざまな業種でグリーンケミストリーへの取り組みがおこなわれている。(※3)今後の大きな結果に期待したい。
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