サステナブルな働き方に転身した人たちのストーリーを紹介する連載。第1回目は、元SABON創業メンバーの倉田愛子さん。今年はじめ、エシカルでおしゃれな買い物ができるセレクトショップ「Emotionally Market」を立ち上げた。そのきっかけやお店への想いを聞いた。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
倉田愛子さんが営む「Emotionally Market」は、自身が海外から仕入れたバッグや雑貨など、エシカルでおしゃれなお買い物ができるセレクトショップ。
“ライフスタイルを大切にするファミリーのための心潤うエシカルマーケット”がコンセプトだ。主に発展途上国のフェアトレードに軸を置き、世界中から集めた地球と人に優しいものをセレクトしている。
現在はアジアの秘境・ミャンマーで買い付けたものが中心。リサイクル素材でつくられたカゴバッグ、ウッドカテラリー、エコストローなど日常生活で楽しめるアイテムを取り揃えている。
色鮮やかで、丁寧に編まれたミャンマーのカゴバッグたち。山奥の集落で村人によってつくられる貴重なものも。デイリーバッグとしてはもちろん、収納などインテリアとしても活躍しそうだ。心潤うデザインのカゴバッグが広がることで、レジ袋を使わない日が来ることを夢見ている。
持ち手に合わせた設計で実用性もバッチリなウッドカトラリーや、コットン100%の大判キッチンクロス。
愛子さんは、ミャンマー独特の世界観に圧倒され、このショップを今年3月末に立ち上げた。愛子さんがミャンマーを訪れたのは、友人宅へ遊びに行ったことがきっかけだった。今年はじめのことだ。
ショップを始める以前は、人気ボディケアブランド「SABON」の創業準備から参加し、マーケティングやPR、クリエイティブマネージャーとして13年間、バリバリ働いていた。しかし昨年、あらゆるタイミングが重なり、辞めることになる。
彼女はどういう経緯で、このエシカルセレクトショップを始めることになったのだろうか。そしてなぜ、ミャンマーだったのだろうか。
愛子さんがSABONで働いていた頃は、ゆっくり寝られる時間は皆無に近いほど、仕事のことで常に頭が占領される日々だった。
「SABONは、日本での立ち上げメンバーとして参加したので、13年間ほど務めました。その前はエンターテインメント業界にいたんです。大学は日芸(日本大学芸術学部)に通っていて、卒業後は演者をアシストする側になって。それも楽しかったんですけど、お世話になっていた方のご縁で、『SABONというブランドを日本に上陸させる』という話に関われることになったんです」
当時SABONは日本ではあまり知られていなかったが、ナチュラルコスメにも興味があった愛子さんは、すぐにニューヨークの店舗へ見に行く機会を得た。そして瞬時に、SABONの創り出す世界に魅了された。
「商品自体はもちろんのこと、空間やサービスにまで徹底した世界観をつくっていることに、強く惹かれました。エンタメ業界とまったく違う仕事のようですが、 “その世界観を伝えて(消費者の/使う側の)心を潤す”という意味では同じ。異なる業界に転職したというよりは、今までやってきたことの延長線のように感じていたんです」
ブランドの立ち上げメンバーはわずか数人。最初の頃はなかなかお店に人が入らないこともあったが、いまでいうインフルエンサーたちやメディア業界の方々に恵まれていたことと、口コミにより徐々に良さが伝わり、さらに人気のテレビ番組で取り上げられたことをきっかけに、一気にその名が世に広まった。事業はどんどん大きくなり、愛子さんもそれとともに多忙を極めていった。
それでもやりがいを感じていたので楽しい日々だった。子どもが生まれてからも、「保育園に迎えにいって、それから会社に戻って仕事をしていた」という愛子さん。お産のときですら、病院で打ち合わせをしていたという。
Photo by Aiko Kurata
(左)SABONが日本上陸したころ(右)2017年ブランド創立20周年
そんな愛子さんに転機が訪れたのが2019年の夏。ずっと慕ってきたブランド創設者の2人が退任するタイミングだった。
「2人の感性がとっても大好きだったんです。理屈じゃなくて、心で商品づくりをしている姿が本当にすてきで。それにちょうど私が40歳という節目の年齢でもあったし、上の子が小学生になってから、まったくプライベートのオペレーションがまわらなくなったり。いろんなことが重なったんです。
保育園だと先生の目も行き届くけど、小学生のときこそ、物理的にも精神面にも親がちゃんと見ることが大事だと思っていたので。何年もの間、忙しくてインプットする時間もなかったし、10年以上経って、私がいなくても会社は大丈夫だと確信していました。子どものように愛してきて、こんなにもすべてを注げ込めた環境は幸せでしたが、『思い切ってこれを機会に次のステップに進もう』と決心しました」
長年勤めた会社を辞めるタイミングで、「これからどう生きていきたいか」ということを日々考えた愛子さん。
もともと人のライフシーンに興味があり、人が幸せになる仕事をしていきたいと思っていたことから、ライフスタイル系のほかのブランドアドバイザーも務めながら、漠然と自分自身のブランドとして「ライフスタイル系のお店をやりたい」と思い始めた。最初は、“海外のような、ナチュラル系セレクトのドラッグストア”を思いついた。
そこですぐアクションを起こすのが、愛子さんの行動力のすごさだ。
「物件を見てまわりながら、いろいろと試算もしてみました。でも勉強をすればするほど、ドラッグストアをつくるのって採算がとりにくいとわかってきて。そんなふうに迷いながらもよさそうな物件が見つかったのですが、すんでのところで他の人にとられちゃって。ただ、本当にこの方向で良いのか迷っていた部分もあった。
そこでちょうど時間もできたし、切り替えもしたかったので、ミャンマーに住む友達のところへ休暇も兼ねて遊びにいこう!と思いつきました。そして急遽、お正月に行くことにしたんです」
このときの何気ない選択が、愛子さんを運命の出会いへと導くことになる。
Photo by Aiko Kurata
写真はイギリス統治時代からつづく、ミャンマーでは最大規模のマーケット。マーケットに足を踏み入れた瞬間、「じわじわと想いが広がっていった」と愛子さんは言う。すべては運命としか思えなかった。
「創作のインスピレーションが止まりませんでした。どんどん頭にイメージが湧いてきて。もともと、掘り出し物を探すのが大好きなんです。マーケットには所狭しと伝統工芸品や布が並んでいるので、そこから心踊るものを探すのが本当に楽しかった。
細かい手作業でつくられたアクセサリーや布など、丁寧な手仕事がとても美しかった。ミャンマーでは途上国ならではの古き良きエコな暮らしが残っていて、ドラッグストアでなくても日常生活に密着したサステナブルな提案ができるのではないかと思ったんです」
取材日に愛子さんが着用していたスカートも、ミャンマーの伝統的な手織布を用いた巻きスカート。今後の販売を検討している。ミャンマーは仏教寺院に参拝する習慣があるため、女性が履く巻きスカートは肌の露出を避けるため、すべてくるぶしまで隠れるもの。それをミモレ丈に直してもらい、日本人向けにリ・デザイン。「巻きスカートは体型を選ばないので、意外と実用的なんです」(愛子さん)
とくにミャンマーの言葉を話せるわけではなかった。それでも「これらの商品を通じて、日本人の暮らしを変えたい」という気持ちが優った。現地の友人と一緒に、滞在した8日間、あらゆるお店をまわり、ブランドのイメージをふくらませながら意見を交わし、さまざまなサンプルをかき集めた。そしてそのあとすぐに、現地で友人の協力を得て仕入れの交渉を開始した。
Photo by Aiko Kurata
山積みになった布は、乙女心をくすぐるカラフルな彩りだ。
Photo by Aiko Kurata
現地で商品を探してまわる愛子さん。
ミャンマーの女の子たちがハンドメイドでつくったピアスとタッセル。障害を持っているミャンマーの女性たちの安定雇用を支援している団体によりつくられたもの。
Photo by Aiko Kurata
ハリケーンによって壊れたガラス。ともすればごみとなってしまいそうだが、これも実は、売り物だ。欠けてないガラスを探せば商品になる。そして、購入することが工房の支援へとつながる仕組みだ。
また、ミャンマーにはエシカルの概念が自然と根付いているところも、魅力のひとつだという。
「ミャンマーは日々進化はしているものの、安心して購入できるスーパーもないし、地べたに座ってお魚を売っていたり、思っていた以上に発展していない。その人達の暮らしに少しでも貢献できないか、という想いもあったんです。でも一方で、人々は本当にまじめで穏やかだし、古き良き文化が残っていて。
例えばみんな買い物にはカゴバッグを持って出かけるんです。マイストローなんかも、ちゃんと持ち歩いてるんですよ。住んでいる人にとっては当たり前のことなんだろうけど、その当たり前のことがとてもサステナブルな習慣。しかもカラフルでかわいいものばかり! そんなところもすてきだな、と思いました」
バンブーでできたエコストローのセットは洗浄ブラシ付き。洗って何度でも使える。
(左)プラスチックゴミでつくったブックカバー。(右)天然ヤシでつくられた、丈夫なうちわで夏も涼しく。うちわの柄に取り付けた布は、おしゃれで職人技術も高いと言われる、ミャンマー少数民族「カチン族」による布からEmotionally Marketが独自に選んだもの。
愛子さんの父親は、ともに環境への配慮に対して意識が高く、食材も無農薬野菜を小さい頃から食べさせてもらってきたという背景もあり、物心がついたときからナチュラルなものに興味があったという。
「わたしは親の影響もあって、環境に関心はあったほうだと思います。でもそうではない場合、大人がいまからすぐに価値観を変えるのって難しいですよね。でも子どもにしっかりと環境の大切さを伝えていれば、素直にキャッチしてくれる。
最近でいうとオーストラリアの火災。自分の子どもたちがニュースを見て、心から胸を痛めている姿を見たら、やっぱり子どもはその状況を心で感じとることができるんだな、と思いました。
Emotionally Marketをファミリー向け、と謳っているのは、そういった意味もあるんです。子どもが早い段階から、少しでも知識をまわりの大人から得ていれば、無意識に環境にも配慮できる人になり、未来は変わっていくのかな、と」
「でも……」と愛子さんは続ける。
「どうしてもエコと聞くとハードルが高いと感じてしまうかもしれないけど、ストイックにやらなくていいと思うんですよね。それはわたしも同じ。全部が完璧になんてできない。でも1%でも、“地球にとって適切なことはなんだろう”ということを考えて選択するだけで、それをみんながやれば大きなものになる。このお店が、そのきっかけのひとつになれたら嬉しいです。
エシカルなショッピングがトレンドではなくて、日常になってもらえたら。そういう意味でも、わたしはエコより“エシカル”という言葉が好き。エシカルって、“倫理的”という意味ですよね。道徳的に、人として、地球に生きる者として何をすべきか……ということを考える。まずはそれだけで、いいと思うんです」
SDGsがファッション誌などでも取り上げられたり、エシカルの概念は以前より多くの人に広まりつつある。しかしまだまだ、日本での取り組みは世界に比べても遅れているほうだろう。
愛子さんのブランドのような、目で見て「かわいい」「おしゃれだ」と感じることから興味を持つ、という流れはこれからの時代に必要だ。
新型コロナウイルスの影響もあり、なかなか海外には行けない現状だが、「落ち着いたらミャンマー以外の国も訪れてセレクトしていきたい」と語る愛子さん。今後の夢や、ビジョンを聞いてみた。
「まずはいろんな方に、もっとお店を知ってもらいたい。いまはポップアップが中心で、近々ECサイトをオープンする予定ですが、いずれはリアルなショップもほしい。オンラインも便利だけど、何かを伝えたいと思ったときに、直接コミュニケーションをとることってやっぱり大事ですよね。そういう人のコミュニティーや“会話”も大切にしていきたいんです」
理屈ではなく直感で動き、やりたいことを貫いてきた愛子さん。これまでの仕事はまったく違う業界のようで、すべては繋がっているように思える。
「Emotionally Market」はその名の通り、愛子さんの“想い”や“感情”がいっぱい詰まったマーケットだ。ただ「物を買う」だけではなく、人のあたたかさや温もりを感じることができる。それが巡り巡って、まわりに幸せをシェアしていくのだろう。
「お店では地球環境の学びの場となる、ワークショップなどもやっていきたい。そのためにはちゃんと収益も考えていかないといけないなぁ(笑)」と満面の笑みで話す愛子さん。
愛子さんの夢への扉は、いま開いたばかりだ。
Photo by Aiko Kurata
取材・文/広瀬そのみ、写真/米玉利朋子、編集/深本南(ELEMINIST編集部)
POP-UP STORE情報
愛子さんの想い溢れるかわいいい雑貨たちに、ぜひ直接触れてみてください。
Emotionally Market
日程:2020年6月5日(金)~6月21日(金)
時間:10:00~19:00
場所:二子玉川 蔦屋家電 2階 Gスクエア
問い合わせ先/Emotionally Market
https://emotionallymarket.com/
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