「グッチ」「サンローラン」の親会社と考える「ファッションと生物多様性」 後編

Photo by Kering

「グッチ」「サンローラン」「バレンシアガ」などの親会社であるケリングは11月26~28日、「Fashion&Biodiversity:ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」展を東京・表参道のケリング本社で開催した。展示は6つのセクションで構成し、前半のセクション1~3では、ファッションと生物多様性の関係を具体的数値とともに紹介し、後半の4~6では自社の取り組みを解説した。

ELEMINIST Editor

エレミニスト編集部

日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。

2021.12.22
ACTION
編集部オリジナル

知識をもって体験することで地球を変える|ELEMINIST Followersのビーチクリーンレポート

Promotion

ケリングの「避ける」「減らす」「修理・再生する」「変える」取り組み

ケリングの展示会の様子

Photo by Kering

セクション1〜3の展示内容をお届けした前編に引き続き、この記事ではセクション4〜6で紹介されたケリング社の取り組みをまとめた。

セクション4では2020年に発表したケリングの生物多様性戦略について4つのステージ「避ける(生態系への影響を未然に防ぐ」「減らす(避けられない影響を最小限にする)」「修理・再生する(自然にプラスの影響をあたえる)」「変える(状況を変え行動を起こす)」について紹介した。

「避ける」は保護価値が高い地域から生物を採取・捕獲しないことを指し、例えば、森林伐採のより安定した生態系が損なわれているアマゾン川流域に広がるアマゾン・バイオファームにあるような農場から皮革を調達するサプライヤーとは取引しないことなどを紹介している。

「減らす」はさまざまな認証制度や科学の力を利用して生物多様性への影響を減らすとし、「ナチュラルコーティングス」を紹介した。「ナチュラルコーティングス」は、FSC認証(管理された森林から伐採されていることを証明する認証)の廃材からつくられた黒い顔料で、現在多く用いられている石油やガス由来のカーボンブラックに比べて年間数百万tの二酸化炭素が削減でき、人体への影響も軽減できるという。

「修復・再生する」は調達先の地域の生態系の修復と再生を研究者と連携して行うことを指し、金鉱山の森林再生に取り組む事例に加え、2021年に国際環境NGOコンサベーションインターナショナルと立ち上げた「自然再生基金」を紹介。今後5年間で100万ヘクタールの農地や放牧地を健全な土壌に復活させることに言及した。

「変える」はサプライチェーン(供給網)を超えて協働を呼びかけ、ファッションとラグジュアリー業界に変革を起こすことを意味し、ケリングのフランソワ・ピノー会長兼CEOがリードする連合体「ファッション協定(気候変動、生物多様性、海洋保護の3分野でCEOなど企業トップが直接かかわり意思表明と具体的なアクションプランを提示している)」を紹介した。

「グッチ」「サンローラン」の先進的取り組みの背景にラボの存在アリ

ケリングの「ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」展の様子

Photo by Kering

セクション5では各ブランドの事例を取り上げた。「グッチ」は廃棄された漁網や使い古したカーペットから再生したリサイクルナイロン糸“エコニール”について、“エコニール”を用いたプロダクトの製造時に発生する端切れをリサイクルして新たな“エコニール”に再生するプロジェクトを紹介。加えて、レザーのなめし加工で培われた技術から生まれたレザーに代わる新素材「DEMETRA」も紹介。「DEMETRA」は最大で77%の植物由来の原料が使用されているという。

ケリングの「ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」展の様子

Photo by Kering

ケリングの「ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」展の様子

Photo by Kering

「サンローラン」は過去のコレクションで使用した天然皮革を繊維状にして水溶性の複合材で化学繊維を混ぜることによってレザーをアップサイクルした素材を用いたバッグ「サンセット」を、「ボッテガ・ヴェネタ」は自然由来の分子からつくられた生分解性ポリマーが用いられた「パドルブーツ」を展示した。

ケリングの「ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」展の様子

Photo by Kering

「バレンシアガ」はダメージのある中古の革製品やアーミーブーツからつくられた「アップサイクルジャケット」を紹介した。用いられているレザーは汚染の原因となる金属を使用しないメタルフリー製法によってなめされ、仕上げには、環境負荷が低い機械的手法のタンブリングが用いられている。

各ブランドが最先端の技術や先進的な考え方を取り入れられるのは、自社のラボ、マテリアル・イノベーション・ラボの存在があることも紹介している。マテリアル・イノベーション・ラボは、サステナブルな生地や素材調達を目的に、ミラノにあるケリング本社に2013年に創設されたラボで、3800以上の素材サンプルが収蔵されているだけでなく、新素材や技術開発、循環システムの構築のために現在96のプロジェクトがサプライヤーやブランド、研究機関などと進行している。

セクション6では「ケリングの約束」としてケリングの具体的なサステナビリティ目標について紹介した。

自然とファッションは切っても切れない関係 何を着るかで未来は変わる

ケリングの「ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」展の様子

Photo by Kering

今回の展覧会では、自然はファッションにとっての故郷であり、生物多様性のバランスが崩れるとファッション産業全体に大きな影響を及ぼすこと、また私たちの着ている服は、地球とそこに暮らす人々やたくさんの生物とつながりあっていること、私たちの何を着るかの選択が、私たち地球の豊かな生物多様性を守ることにもつながることを示すものとなった。

ケリングは、サステナビリティに関してアパレル産業では先進企業だ。サステナビリティやESG(環境・社会・企業統治)の格付けランキングとして知られる「グローバル100」では7位にランクインしている(2021年1月発表、100社のうちアパレル企業はわずか2社で、もう一社がアディダスで76位にランクイン)。その背景には、フランソワ・アンリ・ピノー会長兼CEOの「ラグジュアリーとサステナビリティは同一である」という考え方がある。サステナビリティは経営戦略の中核になっており、自社だけではなく、サプライチェーン全体、ひいては産業全体をより良い方向に導きたいという想いがある。

※掲載している情報は、2021年12月22日時点のものです。

    Read More

    Latest Articles

    ELEMINIST Recommends