フードフォレストとは、果樹・野菜・薬草など多種多様な植物が共生し、循環する「食べられる森づくり」。各地域での「持続的な農業と食糧システム」をつくるための活動だ。本記事では、フードフォレストの意味や目的、取り組み内容を概説する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
日本・アジア地域の稲作は長い期間続いており、低地での農業は持続性があると言えるだろう。
一方、山間などでの農業は森林伐採や畑作物による土壌流出等の問題が深刻化し、持続可能な農業の確立が喫緊の課題となっている。その理由は、とくに高地に位置する畑地の多くは収益性が低く、さらに土壌流出、土砂崩れ、堆砂などを引き起こしているからだ。
フードフォレスト(Food forest)とは、その名の通り、「食べものを収穫できる森」。類似した言葉として、「農業」と「林業」を組み合わせた造語であるアグロフォレストリー(Agroforestry)という言葉も使われている。
これらの意味を一言で表すと、「地域の土地を有効活用し、果樹や野菜、薬草などを育てること」。各地域の土壌や気候、自然環境や資源を活かし、森のような自然の仕組みの下で無理なく「持続可能な農業」を目指す取り組みだ。言いかえれば、市民や公共団体、企業や行政が協力し、各地域に新たな「食糧システム」をつくるための活動といえる。
現在、世界が抱える環境問題は多岐にわたる。そのひとつに、深刻な「食糧問題」がある。世界の人口は、2050年には90億人を超えると予想されており、これらの数字は、総人口の食糧を確保するために「現在よりも70%以上も多くの作物」を生産しなければならないことを意味している。(※1)
そして、課題解決のために、以下の7点を達成することが求められている。
1)収量を増やす
2)持続可能な「暮らし」と「より強い地域社会」
3)より健康的な食事
4)水の節約
5)土壌の保全
6)生物多様性の保護
7)気候変動への対応
パーマカルチャーとは、パーマネント(永久な)とカルチャー(文化)、もしくはアグリカルチャ-(農業)を合わせた言葉で、上記の課題解決を目指す「持続可能な(農業)環境デザイン」を表す言葉だ。
フードフォレストは、その中のひとつの取り組みと捉えることができる。
フードフォレストに取り組むグループや団体の規模はさまざまで、実施しているプロジェクトも多岐にわたる。たとえば、地域全体でのプロジェクトへの取り組みもあれば、個人単位で裏庭を利用し、パーマカルチャーに基づくフードフォレスト化へ挑戦する方など実に多様だ。
しかしながら、すべての共通するフードフォレストの利点は、上記に上げた7項目のいずれか、もしくは複数項目の課題解決へ寄与することである。そのメリットを集約すれば、自然の力によって「食糧」という地域の資産を増やし、「持続可能な農業を可能にする潜在力を高める」ことであるといえよう。
これまで記したようにフードフォレストは、地域市民と地球環境双方にとっての利点がある。しかしながら、今後、世界の各地域でフードフォレストを実現するためには、以下のような課題を解決しなければならならない。
・土地や環境、自然の条件、および持続性を考慮した中・長期的計画
・上記に係る各領域、分野の専門家の地域参画やネットワークの構築
・フードフォレストの管理やメンテナンスに必要なマンパワー
・必要な用具や、活動に要する資金の確保
・フードフォレストに係る知識と理解の深化を目指す教育活動
フードフォレストに関する情報を多数掲載しているProject FOOD FOREST(※2)では、アメリカにおける課題や取り組みが世界に向けて発信されている。しかしながら、各国のフードフォレストに関する情報を集積しとりまとめたサイトは、ほとんど存在せず、情報が限られている。
また、フードフォレストというキーワードが記されている日本の学術論文はほとんどなく、使われている用語は「アグロフォレストリー」という言葉だ。これらの学術研究の調査対象はネパール、インドネシア、ブラジル、ドミニカ、ケニアなどの国々。
この背景として、フードフォレストという言葉が比較的新しく、明確な定義づけや、その他の用語との区別化が現在不明確であることが推察される。
世界の全体的な動向としては、食糧問題の深刻化とSDGsの推進、政府による農業や地域に対する施策やサポートが行われていることがある。これらのおかげで近年、各地域での取り組みや活動数は増加していると予測される。
だが、それらの目的は「地域での持続可能な農業」であるのが実情と推測される。フードフォレストに対して、それほど関心が注がれているかどうかは不明だ。
また、持続可能な「食べられる森」として成立するためには、少なくとも数年は要することから、まだまだ国内外ともに発展段階の渦中にあるという捉え方が適切であると考えられる。
以下、フードフォレストとして情報を発信している団体の取り組みのなかから、国内外3つの事例を紹介する。
福岡県糸島市で行われている環境再生型の森林農業モデル事業。高齢化によって斜面が急で手が入れられず耕作放棄地になってしまったみかん山で、 無農薬・無肥料の甘夏を収穫。剪定によって収量を減らし、果樹以外の植生によって耕作放棄地の解消と、森の再生、蜜源の確保、生物多様性の保護を目指している。(※4)
Project FOOD FORESTの協力、サポートの下、アメリカで展開されているフードフォレストのひとつ。
食べ物の確保、野生動物の生息地、訪問者のための癒し、の3つにフィーチャー。46本の果樹、103本の開花低木、100以上の異なる草本植物が共生している。2021年から始まったばかりのプロジェクトで、場所は非公開。(※2)
本記事では、フードフォレストの意味や目的、取り組み内容を解説した。自分たちで果樹を含めたさまざまな木や植物を植え、育てる。大量の肥料や水、マンパワー、コストを使うことなく、自然の共生・協生の下で「食べ物を収穫することのできる森」をつくる。
そのために自分は何ができるのか、一人ひとりのそんな考えによって、世界はきっと大きく変わるはずだ。
※1 世界の農業が直面する様々な課題|クロップライフ・インターナショナル
※2 PROJECT FOOD FOREST
※3 FOOD FOREST JAPAN フード・フォレスト・ジャパン
※4 環境再生型の森林農業モデル事業「糸島 food forest」
ELEMINIST Recommends