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日本や世界で進められている「グリーン経済」とは何なのか?グリーン成長戦略とあわせて、グリーン経済の背景と必要性について、わかりやすく解説する。また国内外の具体例を取り上げ、近年のグリーン経済の動きや課題についてまとめる。
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グリーン経済とは、経済成長を達成しながら、持続可能で環境にやさしい経済のこと。国連環境計画(UNEP)の報告書では、「グリーン経済」について、次のように定義している。(※1)
「環境問題に伴うリスクと生態系の損失を軽減しながら、人間の生活の質を改善し社会の不平等を解消するための経済のあり方」
2012年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開かれた「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」で、グリーン経済は、「持続可能な開発のための制度的枠組み」とともに、主要2大テーマのひとつとして取り上げられた。
グリーン経済では、世界が気候変動、エネルギーの安定確保、生態系の損失の問題に直面しているなか、国家間や世代間での貧富の格差を是正することにも焦点が当てられている。
「グリーン経済」と「グリーンエコノミー」は、同じ意味を持つ。
一方「グリーン成長」とは、経済的な成長を実現しながら、私たちの暮らしを支えている自然資源と自然環境の恵みを受け続けることを指す。
2011年の東日本大震災で起きた福島第一原子力発電所事故を受けて、日本はグリーン経済を実現するため、エネルギー利用と経済成長に関わる成長戦略を定めることを決定。
原発の依存度を下げ、再生エネルギーや省エネルギーなどの「グリーンエネルギー」利用へシフトしていく取り組みが始まった。
ちなみに、日本の温室効果ガス排出量は、2013年に年間14億トンのピークを迎えた。これは、2011年の原発事故で原子力発電所を停止したため、火力発電所の稼働が拡充されたことの影響だ。しかし、その後は温室効果ガスの排出量は年々減少している。(※2)
だが、日本のグリーン成長戦略をさらに進めるために、2020年12月、経済産業省は関係省庁と連携し「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(通称、グリーン成長戦略)」を策定。2050年には二酸化炭素排出量をゼロにする、大きな目標を打ち立てた。
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以前の日本では、経済成長とエネルギー成長は相関関係にあるという考えがあった。だが近年は、経済成長を維持しながらエネルギー消費を減らす「デカップリング」という考え方が注目されてきている。
デカップリングを実現し、グリーン経済を推進している世界や日本の具体例を見てみよう。
スウェーデンのストックホルムは、グリーン経済のパイオニアといえる都市のひとつだ。同市では、グリーン戦略の継続を公約にし、2050年までに化石燃料から再生可能エネルギーへ100%転換することを目指している。(※3)
さらにスウェーデンでは、エネルギーや輸送分野に環境税を導入。環境税による収入は限られているが、排出した二酸化炭素に課税される二酸化炭素税が導入された1990年から2013年までの間に、温室効果ガス排出量を23%削減。しかも同時に、GDPを58%増加することに成功した。(※4)
ドイツもデカップリングを推進している国として知られる。ドイツでは、1980年代まで工業地帯で公害や川の汚染などが問題となり、電子力発電所が新規に建設されていた。
だが温暖化問題が広く認識されるようになり、1998年のシュレーダー政権誕生で、気候変動政策に舵を切ることとなった。
1999年には環境税制を導入。税収を年金などの補助金に充てることで雇用の促進を図っている。この制度で、700万トンの二酸化炭素削減につながったという。(※5)
スウェーデンやドイツが導入している環境税は、人々の健康的な生活とともに、富や雇用を生み出す仕組みが考えられている。EUでは、低炭素で資源効率的、かつ競争力のある経済に向けた政策を推進している。
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日本政府は2020年、「グリーン成長戦略」を発表。これによると、2030年代半ばまでに乗用車は100%電動車となることが示されている。さらに2050年には、自動車の生産、利用、廃棄を通じたサイクル全体で、二酸化炭素の排出をゼロにすることを目指している。
目下急ピッチで進められているのは、燃料と蓄電の技術開発だ。それに加え、充電施設等のインフラ整備、電気自動車への買い替え促進など、実現するために取り組むべき内容は多岐に渡る。
また、グリーン成長のキーテクノロジーに位置づけられているのが、水素だ。水素発電の発電コストを火力発電以下に減らし、水素をクリーンかつ安価に製造する設備について取り組みが進められている。2050年には 2,000万トン程度の供給量を目指している。
物流や輸送業界では、二酸化炭素削減の取り組みが移動や輸送量減少につながることなく、さらにドライバー不足など社会的課題を同時に解決するという目標がある。
「Maas(マース)」と呼ばれる、シェアサイクル、ライドシェア、超小型モビリティなどをはじめ、地域公共交通の充実が求められている。
日本のグリーン経済はこれからだ。グリーン成長戦略では、エネルギー産業だけでなく、食料・農林水産業、家庭、オフィスなど、幅広く14の分野を対象に高い目標を定めた。これから、グリーン成長戦略の実行に向けて多くの企業が動き出すことになるだろう。
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現在、日本で再生可能なエネルギーの割合は、およそ1割ほどだ。太陽光や風力などの再生可能エネルギーの発電コストは、電子力や火力発電のそれより高い。再生可能エネルギーの発電効率を高めるため、技術開発が求められている。
また、グリーン経済の実現には、法整備の問題だけでなく、社会や産業構造、ライフスタイルの転換が必要となり、人々の間で大きな抵抗が生まれるかもしれない。さらに、グリーン成長を好機ととらえた業界、地域、企業と、そうでないところとの差も開いていくことも考えられる。
二酸化炭素排出量をゼロとするグリーン成長戦略は、日本の気候対策として、大きな一歩となる。2030年代半ばまでには、電気自動車が100%になるなど、ごく身近な生活が大きく変わっていくと予測される。
短期的には負担が増え不便を感じることがあるかもしれない。しかし、どのような未来を次の世代に残していきたいか、という視点で考えることが大切になるだろう。
参考
※1 持続可能な環境・経済・社会の実現に向けた世界の潮流|環境省
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h24/html/hj12010102.html
※2 「二酸化炭素排出ゼロ」宣言した日本。グリーン成長戦略でこれから何が起こる? |世界経済フォーラム
https://jp.weforum.org/agenda/2021/05/zero-shita-guri-n-dekorekara-ga-koru-8798cec9df/
※3 自治体国際化協会ロンドン事務所マンスリートピック | 自治体国際化協会ロンドン事務所
https://www.jlgc.org.uk/jp/information/monthly/eu_oct_2013_01.pdf
※4 Designing tax systems for a green economy transition|European Environment Agency
https://www.eea.europa.eu/highlights/designing-tax-systems-for-a
※5 ドイツの環境・気候変 ドイツの環境・気候変 動対策関連政策|科学技術振興機構
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2009/FU/EU20100407.pdf
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