先の見通しが立てにくい世の中だと言われるようになって注目されるのが「座礁資産」という考え方だ。ビジネスはやってみなければわからないことの方が多いとはいえ、外部環境の変化に対応できるよう事業設計をしていくことも必要である。座礁資産が生じる原因や具体例を解説する。
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座礁資産(stranded asset)とは、市場や社会などの外部環境が変わると価値が大きく損なわれてしまう資産のこと。この概念は、国際環境NGOのCarbon Tracker Initiativeが2011年に発表した報告書の中で初めて提唱された。
座礁資産をもたらす外部環境の変化には、法規制の変化、市場価格の変化、地理的な距離による制約や自然災害の発生など物理的な変化の3つが挙げられている。
上述のとおり、座礁資産が生まれるのは外部環境の変化が原因だ。座礁資産の対象は将来的に、資産価値が大きく減少されると見込まれるもの。近年、気候変動や二酸化炭素排出量の削減など環境問題への関心が高まる中、化石燃料へのダイベストメントが起こっている。
ダイベストメントとは、投資の対義語ですでに投資している金融資産を引き揚げることを指す。すでに欧米では、化石燃料へのダイベストメントが始まっている。
座礁資産という概念はさまざまな分野に適用できる。エネルギー分野だけでなく、農業や武器産業分野にも座礁資産化する資産があると言われる。
座礁資産のダイベストメントは以前から行われていた手法で、海外年基金がこれまでに投資撤退した主な投資先にはタバコ産業や酒類メーカーが含まれている。
タバコ産業や酒類メーカー各社からの投資撤退が相次いでいるのは、投資家が環境、社会、企業統治(ESG課題)を重視するようになっているからだ。
世界的な健康意識の高まりに加え、企業の社会的責任を求める声などがその背景にあると見られる。日本でタバコを専売する権利を持つ日本たばこ産業も例外ではなく、2020年の株価は2015年比の半分ほどとなっている。
一方、ダイベストメントには否定的な声もある。投資撤退により、ESG課題に無関心な投資家に株主の権利を移転することになりかねないとの懸念だ。ESG課題を抱える企業にはダイベストメントではなく、対話を通じて改善を促すべきとの意見もある。
エネルギー分野では、石炭だけでなく天然ガスも座礁資産になる可能性を含んでいる。天然ガスは石炭や石油に比べて二酸化炭素排出量の少ない燃料とされているが、ガスの抽出と輸送中に起こるガスの放出が問題視されているからだ。
天然ガスの使用量を減らし、最終的には使用ゼロにしていく対応が求められている。
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環境問題の面から見れば、石炭は座礁資産化するリスクが高いように見える。蓄電池や自然エネルギーの普及に伴い、火力発電は座礁資産になるという見方もあるが、経済競争力も忘れてはならない視点だ。
火力発電に対しては炭素価格など法的規制の導入も検討されているものの、産業と家庭のエネルギーや電気料金への影響を考えると、その実現には非常な困難を伴う。
座礁資産のリスク評価は、環境リスクだけでなく、経済競争力や安全保障の問題からも検討する必要があるため、その面に触れずに座礁資産を論じるのは軽率であるとの意見もある。
外部環境の変化に伴い価値が損なわれてしまう座礁資産のリスク評価は、非常に難しい。しかし、座礁資産リスクと持続可能な社会を目指すSDGsは親和性が高い。
持続可能な社会がカバーする領域は、環境面だけでなく経済や安全保障の面など多岐にわたる。常に世の中の動向をキャッチアップし、いまだけでなく将来を見据えた展開が可能かという視点を持つことは、座礁資産のリスク評価のヒントとなるのではないだろうか。
※ Stranded Assets|Carbon Tracker
https://carbontracker.org/terms/stranded-assets/
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