廃棄処分対象となった食品だけを扱うスーパーマーケットとして、旧西ベルリンに誕生した「SIRPLUS(サープラス)」。「フード・レスキュー」を使命に4月に5店舗目をオープンさせた。捨てられてしまう食品の救世主として活動を続けている。
宮沢香奈(Kana Miyazawa)
フリーランスライター/コラムニスト/PR
長野県生まれ。文化服装学院卒業。 セレクトショップのプレス、ブランドディレクターを経たのち、フリーランスでPR事業をスタートし、ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積…
ネクストシリコンバレーと呼ばれるほど、ベルリンはスタートアップが盛んな街だ。ドイツはエコ先進国としても知られ、環境問題に特化したクラウドファウンディングやコンペティションが多数存在している。ゆえに投資家からの関心も高く、スタートアップの成功例が多い傾向にある。
一方でドイツは、年間260万tもの食品廃棄物を排出しているという深刻な問題を抱えている。
社会問題化するフードロスの解決に取り組むのが、廃棄食品のみを販売するスタートアップ企業「SIRPLUS(サープラス)」だ。4月8日、クロイツベルク区にオープンした新店舗とあわせて、ベルリン市内に5店舗を展開する。
創設者のひとりであるラファエル・フェルマーさんは、Zero Waste(ゼロウェイスト)の活動家としても知られている。現金収入を得ず、廃棄された食品や規格外で出荷できない野菜・果物などを回収して暮らす生活を5年間続けてきたという。
業務用スーパーの大手Metroやビオスーパー大手のBIO COMPANYをはじめとする700以上もの小売業者や生産業者と契約し、賞味期限切れ間近、もしくは期限切れでも十分に食べられるものを定価の30~70%割引で販売している。
SIRPLUSオリジナルエコバッグ 2.9ユーロ
現在は、新型コロナウイルス対策のため、入店時にはマスク着用と混雑を防ぐための人数制限を行うなど、安全面や衛生面に十分配慮したうえで営業を行う。手が触れ合わないようにキャッシュレスペイメントを採用。その他、オンラインショップでも24時間購入可能となっている。
彼らの活動はそれだけにとどまらない。資金を集めるだけのクラウドファンディングとは異なり、期限を設けて投資家へと返済する「クラウド・インベストメント」を導入している。これまでに45万ユーロの資金調達を行なっており、現在は90万ユーロを目指している。
最近ではオリジナル商品の開発にも力を注ぎ、アーモンドバターやカシューナッツバター、レモンジュースなどがすでに商品化されている。
廃棄される前に食品を救ったとしても売れ残ってしまったら、結局捨てることになってしまうので、果物はジュースに、ナッツはバターにといったように保存の効く加工食品へと生まれ変わらせている。
パッケージデザインもかわいらしいオリジナル商品のカシューナッツバター(左)とアーモンドバター(右)/各3.9ユーロ
オリジナル商品のチェリージャム 1.39ユーロ (左)とレモンジュース 1.49ユーロ(右)
ベルリンには、世界に誇る有数のローカルクラブ(※)が多数存在するが、ロックダウンが解除されたいまも営業が許可されていない。それどころか再開の目処すら立っておらず、存続の危機が心配されるほどである。
そんなローカルクラブを救うために設立されたのが「STAY HOME CLUB BERLIN」(https://www.stayhomeclub-berlin.de/)というプラットフォームであり、SIRPLUSはこれにも参加している。
ベルリン発の飲料メーカーや食品メーカーが提携している宅配サービスで、一回の注文ごとに5ユーロが寄付される仕組みとなっている。SIRPLUSは保存の効く瓶詰めやスーパーフードなどの詰め合わせセットを販売中だ。
ナイトクラブを指す。ベルリンには世界トップクラスのクラブシーンがあることは有名であり、国が補償する文化資産でもある。大事な観光業の一つとなっている。
ラファエル・フェルマーさんはこう語る。
「私たちはオリジナル商品の開発に成功し、ありがたいことにファウンディングによって支援金を得ることにも成功しています。現在は、オリジナル商品の開発とオンラインショッピングに力を入れています。将来的には、ドイツだけでなく世界的な問題となっているフードロスをなくすために、私たちの活動を世界に広げる必要があると思っています。
それは大きな夢であり、壮大な計画ですが、(廃棄される)食品を救い、安全で安い食品を提供できれば、多くの人を救うことにもなるのです。そのために私たちはこれからも店舗を増やしながら、この活動を続けていくことが使命だと思っています」
創設者ラファエル・フェルマーさん
SIRPLUSの活動は、小売業者や生産者にとっては廃棄処分の費用を削減でき、私たち消費者は食品を安く購入できることで生活費の節約につながる。無駄なゴミが削減され、一連の流れは地球の環境保全へとつながっていくだろう。
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