欧州グリーンディールとは、ヨーロッパを世界初のクライメイトニュートラルな大陸にすることを目的とした政策だ。エネルギーの脱炭素化や、サーキュラーエコノミーへのシフトなどを官民ともに取り組むことにより、持続可能な社会づくりを目指している。
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欧州グリーンディールとは、EU諸国が2019年から2024年の間に取り組む6つの気候変動対策のうちの一つ。2019年12月11日の新欧州委員会にて、フォン・デア・ライエン委員長からEU各国に向けて発表された。
経済を発展させながらも、人間が原因で排出される温室効果ガスを2050年までに実質ゼロにする「気候中立(クライメイトニュートラル)」を目指した政策である。
ガスはCO2だけでなく、メタンやフロンも削減対象だ。人々の仕事の確保と環境保護を両立できる社会をつくろうと、各方面でさまざまな取り組みが始まっている。
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気候変動や環境問題がより深刻化すると、ヨーロッパないし世界は自然の脅威に怯えながら暮らさざるを得なくなる。
現に、各地でとてつもない規模の森林火災が相次いだり、熱波による熱中症で亡くなる人が急増している。実際、世界の平均気温は上昇する一方だ。2019年には、産業革命前の気温と比べて1.1℃も高くなっており、温暖化が現実に起きていることがデータ上からも伺える。
しかし、EU圏では前々から地球環境の保護について取り組んでおり、すでに経済成長を止めずに温室効果ガスの排出量を減らした実績がある。2018年度においては、1990年と比べてGDPを61%増加しつつも、CO2やメタン等のガスを合計23%も削減した(※1)。
こうした背景から、ヨーロッパ人の10人中8人は気候変動対策について肯定的だ。また、10人中9人はすでに何かしらの対策を自発的に行っており、一般市民の意識の高さが数字から感じられる(※2)。
欧州グリーンディールの究極的な目標は、経済を成長させつつ、2050年までに人間起因の温室効果ガス排出を実質ゼロにすることだ。そのために、エネルギー部門の脱炭素化をはじめ、生態系の保全、サーキュラーエコノミーへのシフトなどを目指している。
しかし、EU加盟国すべてがこの目標に大賛成しているというわけではない。発電の約80%を火力で賄っているポーランドは、今後たった数十年で完全に再生可能エネルギーに切り替えるのは難しい、という姿勢だ。
また、欧州グリーンディールを実現するには、多大な費用がかかることが容易に予想される。太陽光や水力によるクリーンエネルギー発電事業を推進したり、各種インフラを整えるのにはそれ相応のコストが必要だ。
それに加え、国によって主要産業やエネルギーの構成はずいぶんと違うので、各国の状況を考慮しながら公正な移行をする必要があるとしている。
気候中立を実現するには、莫大な額の予算が必要だ。2020年1月14日に発表された欧州グリーンディール投資計画によると、2030年までに1兆ユーロ超の資金を集められるよう以下の施策の実行を決定している。
1. 欧州連合予算や欧州投資銀行などから公的な投資をする
2. 民間からのグリーン・ファイナンスへの投資を促すため、持続可能性のある経済活動をEU統一基準下にてわかりやすく分類する(タクソノミー)
3. クオリティの高いプロジェクトを推進し、専門知識の共有等のサポートをする
まずは2030年までに、年に2600億ユーロの追加投資が必要との計算で、EUは欧州投資銀行の支援を受けながら、長期予算のうち25%を気候変動の対策のために使うこととなる(※3)。
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2050年までにクライメイトニュートラルにするための取り組みについて、ここでいくつか紹介したい。
2020年3月11日に「新循環経済行動計画」が発表された。これは、資源をEU内で可能な限り循環させようという趣旨の計画だ。
今後、資源の枯渇が近くにつれ価格が高騰することが予想される。そのため、プラスチック、テキスタイル、電機製品などを使用後もリユース・リサイクルができるように、製品開発を押し進めする狙いだ。
また消費者が修理する権利を認め、スマホやパソコンなどを消費者が自分で直せるような設計にしたり、修理方法について公開するようにする、などといった内容も含まれている。
EUの温室効果ガスの約25パーセントは輸送起因であるため、地球にやさしい輸送手段への移行を図っている。飛行機やトラックなどより鉄道を使用する方がエコであることから、利用促進のためにさまざまなキャンペーンが企画されている。
また2005年2月に施行された「旅客の権利」という法律に基づき、鉄道を誰にとっても使いやすいユニバーサルな移動手段にしていくという。
2020年10月14日、建物に使用されるエネルギーを無駄にしないため「リノベーション・ウェーブ」が発表された。EU圏では、建物により全体の4割のエネルギーが消費されている。
そのため冷暖房に再生可能エネルギーを活用したり、建築物の耐久性を高めることによって、エネルギーの脱炭素化に大いに寄与できると期待されている。
また大規模な改修事業を通じて、2030年までに約16万人もの雇用が見込める計算だ(※4)。
自然が荒廃すると、食糧不足になったり、感染症になるリスクがあがることが予想される。生物多様性の保護は、人々が安心して暮らしていけるために必要不可欠だ。
そのため欧州が世界のリーダーとなって、安全な農業や都市の緑化を推進していく想定だ。オーガニック農法や、アニマルウェルフェアを考慮した畜産はすでに広まっており、普通のスーパーでもサステナブルな食品を手軽に買うことができる。
ヨーロッパを、世界初のクライメイトニュートラルな大陸にすることを目的とした欧州グリーンディール。すでに各方面で着々とアクションが始まっており、ヨーロッパのほとんどの人々がこの動きに対して肯定的だ。
2050年までに目標を達成すべく、官民ともに手を取り合って、持続可能な社会づくりを目指している。
※1 脱炭素と経済成長の両立を図る「欧州グリーンディール」
https://eumag.jp/behind/d0220/
※2 欧州グリーンディールとは?
https://eumag.jp/wp-content/uploads/2020/02/green_deal.pdf
※3 脱炭素と経済成長の両立を図る「欧州グリーンディール」
https://eumag.jp/behind/d0220/
※4 Renovation Wave: doubling the renovation rate to cut emissions, boost recovery and reduce energy poverty
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_20_1835
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