歴史的大飢饉「ホロドモール」はなぜ起きたのか 隠蔽されていた歴史

乾いてひび割れた大地

ホロドモールとは、1932年から1933年にかけてウクライナで起きた人為的な大飢饉である。ウクライナでは、ホロドモールは当時のソ連の最高指導者ヨシフ・スターリンによって計画された、ウクライナ人へのジェノサイドだという見方がされている。この悲劇は、なぜ起きてしまったのだろうか。

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2021.02.26
SOCIETY
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ホロドモールの犠牲者と影響

戦争

Photo by Антон Дмитриев on Unsplash

限られた農作物や食料も徴収された人々は、鳥や家畜、ペット、道端の雑草を食べて飢えをしのいでいた。それでも耐えられなくなり、遂には病死した馬や人の死体を掘り起こして食べ、チフスなどの疫病が蔓延。

極限状態が続き、時には、自分たちが食事にありつくため、そして子どもを飢えと悲惨な現状から救うために、我が子を殺して食べることもあったと言う。

通りには力尽きて道に倒れた死体が放置され、町には死臭が漂っているという有様だった。当時は、飢饉や飢えという言葉を使うことも禁じられていた。

飢饉によってウクライナでは人口の20%(国民の5人に1人)が餓死し、正確な犠牲者数は記録されてないものの、400万から1450万人以上が亡くなったと言われている。

また、600万人以上の出生が抑制された。被害にあった領域はウクライナに限らず、カフカスやカザフスタン、ベラルーシ、シベリア西部、ヨーロッパ・ロシアのいくつかの地域にまで及んでいる。

ウクライナとソ連の議論

ソ連では長きにわたってホロドモールの事実が隠蔽され、語られることはなかった。結局、ソ連政府がこの大飢饉を認めたのは1980年代になってからである。

この飢餓の主な原因は、凶作が生じていたにもかかわらず、ソ連政府が工業化推進に必要な外貨を獲得するために、農産物を飢餓輸出したことにある。

このことからウクライナでは、ホロドモールはソ連による人為的かつ計画的な飢餓であり、ウクライナ人へのジェノサイド(大虐殺)とみなされている。

しかし、ソ連は飢饉の存在自体は認めたものの、被害を被ったのはウクライナ人だけではないとして、虐殺については否定した。

現在の両国の関係性

冬のウクライナの市街地

Photo by Denys Rodionenko on Unsplash

1991年のソ連崩壊によって、統治下にあったウクライナは独立を果たした。しかし、ソ連の財産継承をめぐる両国間の問題は未解決であり、ユーロマイダン革命やロシアによるクリミア編入など、現在のウクライナ危機へとつながっている。

ホロドモールに関しては、現在になってウクライナ国内でも意見が割れている。ヴィクトル・ユシチェンコが大統領を務めていた2006年、ウクライナ最高会議はホロドモールをウクライナ人へのジェノサイドと認定する決定を採択。

しかし2010年、ユシチェンコの後継であるヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領は、「ホロドモールはウクライナ人に対するジェノサイドと見なすことはできず、ソ連国内の諸民族の悲劇」と強調し、見解を修正した。

一方の現代ロシアでは、歴史家を中心に飢饉の事実認識には同調するが、被害はロシア人やカザフ人にもおよんだと指摘し、ウクライナ人に対する民族的なジェノサイドであることを否定する声が挙がっており、見解の相違は埋まっていない。

多くの人が命を落とすこととなったホロドモール。しかし、ソ連による歪められた情報工作が影響してか、日本では現在も認知が高くないのが現状だ。在日ウクライナ大使館では、ホロドモール被害者追悼の日にあたる11月第4土曜日に、追悼祈祷式と礼拝が行われている。

ホロドモールの悲劇を繰り返さないために

ウクライナの農場

Photo by Max Kukurudziak on Unsplash

ソ連によって引き起こされた人為的な大飢饉であるホロドモール。そこにあるのは、単なる国家間の争いが招いた、被害者と加害者という構図のみではない。繰り返されてきた戦争や人種問題も影響している。私たちは、血塗られた歴史に目を背けず受け入れなくてはならない。また、この惨劇を忘れてもならない。

※ 参照サイト
在日ウクライナ大使館
https://www.facebook.com/ukr.embassy.japan/
本日、ウクライナはホロドモール犠牲者追悼の日
https://www.ukrinform.jp/rubric-polytics/3144937-ben-riukurainahahorodomoru-xi-sheng-zhe-zhui-daono-ri.html
ウクライナ概観
https://www.ua.emb-japan.go.jp/files/000335663.pdf

※掲載している情報は、2021年2月26日時点のものです。

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